第19話~初めての料理
お久しぶりッス。
久々元気に勢いで!
「シグルゥ、いるか?・・・いるな。」
くまさんの宿り木に戻ると、シグルゥが鼻をほじりながら欠伸をしていた。こちらに気付くと、
「やぁやぁ、おかえりぃ~。」
「・・・せっかくの美形が台無しだぞ、シグルゥ。」
「モテる気ないから、全然問題ないよぉ。」
シグルゥはにへらっと、笑った。
というわけで、俺はシグルゥから料理の手ほどきを受けている。
「ホーンラビットはグランベルで主食だからね、主婦や料理スキル持ちなら誰だって知っているんだよぉ。まー、客人冒険者が知らないのは仕方ないのかな?」
ウサギ肉の下処理はグランベル王国では、出来て当然らしい。料理をしないの者でも、やり方は知っているとのこと。んー、やっぱりNPCに聞くのが一番だな。
「・・・でー、下処理のやり方だけどね。」
ウサギ肉に軽く包丁を入れるようだ、筋を切るように。その後は、数種類のハーブと一緒にバナナの葉?のような物でくるみ、数時間寝かせるそうだ。すると、肉は柔らかくなり、臭みも消えて美味しくなるんだと。
「大体の肉はこれで食べられるようになるよ。これが基本で、その後はそれぞれの工夫で味が決まるんだ、家庭の味ってヤツだねぇ。」
む、家庭の味か。俺んちのカレーは二種類のルーをブレンドし、鳥と豚を使う・・・、みたいなことか。・・・研究のしがいがあるな。
「なぁ、シグルゥ。そのハーブと葉はどこで手に入る?」
「ああ、これ?食材屋で売ってるよぉ。因みに調味料も売ってるからね。」
「・・・そうか、すまないなシグルゥ。助かったよ。」
ある程度のことはわかった。後は、ガドルフと二人で研究するだけだな。
「んじゃ、俺はこれで・・・。」
そう言って厨房から出ようとすると、シグルゥに肩を掴まれた。
「中途半端はいけないよぉ。せめて、基本は学んでいこうか♪」
・・・というわけで捕まりました。既にフレンド登録を済ませておいたため、ガドルフにはウィスパーチャットで連絡。明日、会う約束をした。そして俺は、シグルゥから料理の基本を学んだ。ぶっちゃけ、面倒だと最初は思っていたのだが、魚やら鳥やら野菜やらの下処理のやり方を教わった。なんだかんだで勉強になったし、料理スキルも手に入った。シグルゥのお陰だな、感謝感謝。・・・生産街道まっしぐらだなぁ、俺。
―――――――――――――――
朝、自宅にて。
「あんちゃん。明日、私達はノーシュ山攻略に行くことになったよ。」
なぜか、妙にキリリとした表情で芹菜がそう言ってきた。
「んぁ?今日あたり行くのかと思った。」
大盾を渡したのが一昨日だったハズ。盾の訓練などは昨日で終えて、今日にでもノーシュ山に行くんだろうなぁと思っていたんだが。
「PT編成したからねぇ、今日は新たなPTでの連携を確かめようって。確実に攻略を成功させたいってJunが力説していたから。もちろん反対なしでそう決まったんだ。」
「へー、統率とれてんなぁ。従うのは一部で、後は好き好きやっているのかと思った。」
素直な感想だ。前線組って、誰よりも先に行きたがるのかと思った。
「とりあえず、ノーシュ山攻略までは足並み揃えようかって。βテストの時とは、色々違っているからね。先を行くより慣れようってヤツ?」
うーむ、意外だ。大体は人より先に行って、優越感に浸るのが普通だというのに。・・・みんな純粋に、楽しみたいだけなのかね?
「じゃあ攻略が終われば、後はバラバラに動くのか?」
「・・・だね、私はJun達とこのまま組むけど、他はどうするのかってのはわかんない。」
明日には王都の道が開けるわけか。・・・ま、敗走することはないだろう。ノーシュ山攻略を機に、前線組がバラけるわけだが、それぞれがどう動くのか楽しみである。
「あんちゃんは何してんの?」
「俺か?俺は友人と料理を作る予定だな。」
「あんちゃんは物好きだねぇ・・・。」
芹菜がしみじみと言う。
「それが俺だ。俺は俺が楽しめればそれでいいからな。ともかく、明日は頑張れよ芹菜。」
そう言って、隣の芹菜を撫でまくる。いつものように目を細めた妹は、
「・・・ごろごろ♪」
ご満悦であった。
――――――――――――――――
ログインした俺は、ガドルフと約束した時間まで余裕があるということで、深き森にて採取をしていた。シグルゥ曰く、
『料理スキルがあれば、食材が手に入るよぉ。肉の入手法はもうわかっているみたいだね。えーと、ハーブとかは深き森に自生しているから、採取があればGET出来るぜぇ~♪』
と言っていたのでここにいる。そして・・・、
「・・・無双してしまったぜ。」
背にある籠、いわゆる背負籠を見ると様々なハーブ、木の実、キノコなどの野草で一杯になっていた。テンションが上がって、採取しまくった結果だ。ん?なんでアイテムボックスに入れないのかって?山菜採りと同じで、こういう時は背負籠だろうが。気分も大事なことだぞ。・・・とりあえず、これぐらいあれば十分であろう。よし、食材屋で調味料を買ったら、ガドルフと合流だ。
「ガドルフ、待たせたな。」
片手を上げて駆け寄る俺。
「おーティル・・・ってなんだぁ、その格好。」
屋台の横でボケッとしていたガドルフは、俺の姿を見て驚いた。
「やー普通だろ。ただ少し汚れていて、背負籠を背負っているだけで。」
「ティルの普通は他人にとっちゃ、異質だと思うぞ。・・・まぁ、俺も同じなんだが。」
「そんなことはどうでもいいだろ?・・・料理研究を始めよう。」
・・・嘘です、すごい気にしてます俺。そんなに俺は異質なのだろうか?
俺は背負籠を下ろし、野草を種類ごとにまとめて並べた。
「知り合いから聞いてな、料理スキルがあると採取でも食材が手に入るんだと。んで早速、行ってきたわけだが、調子に乗って採りすぎたんだよ。」
「おいおいおいおい!マジかよ、こんなに採れるもんなのか!」
様々な食材を目にして、ガドルフは更に驚く。
「因みに、ここらの物は食材屋で買えるらしい。んで、こっちが深き森でしか入手出来ない。」
「そんじゃあ、俺も採取を取得すれば、ただで食材を手に入れることが出来るってことか?」
「・・・だな。だが、深き森の魔物は手強い。今のガドルフが行ったら、瞬殺されるだろう。」
「うーん・・・そうか。」
目に見えて落ち込むガドルフ。
「まぁ、料理は当分俺も手伝うから、お前は暇をみてLV上げをしろ。」
「了解だ、少しずついくか。」
すぐに立ち直るガドルフ、この調子ならそうそう潰れることはないだろう。
「よし、肉の下処理を最初にして、野草を洗って料理開始だ。」
「うぅぅ・・・・・・。」
「あがががが・・・っ!」
俺とガドルフは地に倒れていた。F.E.Oでの、この世界の料理とはなんと恐ろしいものよ。
「・・・とまぁ、これがそれぞれの下処理の仕方だな。」
「おぉ!流石はティル、俺も早速実践するぜ!」
「ぬ・・・昨日とは雲泥の差だな、ガドルフ。」
「串焼きが美味しく焼けたぞー!」
「ウサギ肉とこのキノコ、・・・ネギたまも入れるか。」
「油じゃなくて、バターで炒めよう。」
ジャッ!ジャッ!ジャッ!
「出来たな。」
「よし、味見だ!」
パクッ
「「うまぁぁぁぁい!!」」
「これとこれはどうだ。」
「こいつも入れてみよう。」
「うむ、食材がいいからきっと旨いだろう。」
「よし、炒めよう。」
ジャッ!ジャッ!ジャッ!
「調味料はコレだな!」
ジャッ!ジャッ!ジャッ!
「出来たぞ!」
「よし、いただこう。」
パクッ
「「・・・・・・・・・。」」
ドサッ
冒頭へ
普通の食材が、毒も何もない食材を調理して出来た料理が、こんなものになるなんて・・・、
〔深き森の囁き~猛毒を添えて~〕深き森で採れた、新鮮な野草を炒めた簡単な料理。色とりどりの野草が目に鮮やかで、これは危険と囁いている。(効果・満腹度:中・猛毒付加)
・・・何故だ、何故こんな危険な物が?それよりも料理名にイラッとくる。・・・いかん、意識が・・・。俺は何とか自作のアンチポイズンポーション+3を飲む。・・・・・・ふぅ、助かった・・・って、ガドルフ!慌ててガドルフにも飲ませる。顔が青く、白目を剥いてピクピクしていたが大丈夫だよな?
「・・・・・・はっ!死・・・死ぬかと思った!」
よし!ガドルフの意識が戻った。それを確認した俺は、
「なぁ、ガドルフ。無防備に作った料理を食っていたが、今度から鑑定してから食おう。」
「そういえば、ティルは鑑定持ちだったな。・・・頼む。」
それから俺達は鑑定しながら料理し、そして食し、また作って、食すを繰り返した。そして俺達は再び倒れた。
「・・・もう食えない。」
「はしゃぎ過ぎたな・・・。」
腹を擦りながら、二人で空を見る。太陽は傾いており、もう少ししたら空はオレンジに染まるだろう。そして・・・、
「なぁ、食材使いきったはいいが・・・コイツらどーする?」
俺とガドルフの周りには、食いきれなかった料理が何種類かある。調子に乗って作りすぎた料理が。
「・・・捨てるのは勿体ないよな。」
「うむ。」
持ち帰り不可だもんな。さて、どうするか。・・・なんて、考えていると、
「・・・もし、少しよろしいでしょうか?」
寝転がる俺を覗き込む少女の顔があった。
俺は起き上がり、少女を見る。尖った耳につり目気味の大きな目、赤髪ドリルでペッタン娘、大きな杖が目を引く・・・って、うーんテ○に似ている。ジッと見ていると、少女はポッと頬を染めた。
「あの・・・その・・・、そんなにジッと見ないでくださいまし。」
「ん?悪い、なんか可愛いなって。」
「かかか可愛い!?」
顔が真っ赤になった。あたふたしている。なんだこの小動物は、可愛いな。・・・なんてことをしていると、
「・・・何、口説いているんだよティル。」
ジト目で俺を見ているガドルフ。別に口説いているわけじゃないんだが。
「そんな目で俺を見るな。・・・で、俺に何かようか?」
杖を両手で持ち、プルプル震えながら赤くなっている少女に聞いてみた。
「えっ・・・あっ!そうでしたわ!」
慌てて居住まいを正す少女。そして、
「お初お目にかかります。私はノーン、ティル様のお噂はかねがね・・・。」
スカートの裾を摘まみ、ちょこんとお辞儀する少女に、
「おい、ガドルフ!リアルお嬢様だ!!」
「マジだ、スゲー!!」
俺とガドルフ興奮、少女困惑。しばらくはしゃいだ俺達だった。
「・・・というわけで、お恥ずかしい限りなのですが、食欲をそそる匂いにつられてフラフラと。」
ふむ、要約すると・・・ノーシュ山でPTを組み戦闘、下山して街に戻る、お腹が空いた、食事処を探す過程で良い匂い、辿ってみたら俺とガドルフがいた、料理が食べたくて話しかけてみる。そこから導き出される答えは・・・、
「フッ・・・、この食いしん坊お嬢様め。」
ニヤリと笑みを浮かべて、からかってみる。
「・・・あぅ。」
顔を赤くして、俯いてしまった。うん?初めての反応だな、赤くなるなんて。大体は青くなって、一歩引いて、怯えた顔でこっちを見て、命乞いをするが如く・・・するが・・・如く・・・。俺は自分で想像したことに対して悲しくなり、崩れ落ちる。
「・・・俺って一体。」
「何やってんの?お前ら。」
ガドルフは呆れた顔でつっこんだ。
なんやかんやで落ち着いたはいいが、
「悪いノーンさん、料理が冷めた。・・・鑑定の結果、食ったら腹下す。」
時間が経ち、料理が劣化した。俺は片膝をつき、頭を下げる。
「そんな!お顔を上げてくださいまし!」
あわあわするノーンさんに俺は、
「食材はもう無い、今日は何も作れはしないが、しばらくはここにいる予定だ。ノーンさんの手が空いた時、ここに来てくれ。俺とガドルフが今日以上の料理でもてなすから。」
「そこまで、お気にせずとも・・・。」
「駄目だ。ノーンさんは俺達の料理を食べたいと言ってくれた。なら、それに応えるのが料理人だろガドルフ。」
「・・・俺としては、色々と腑に落ちないところがあるようなないような・・・、だが!概ねその通りだ!」
「というわけだ。」
どういうわけだろ?という顔をするノーンさんだが、
「わかりませんけど、わかりましたわ。明日は無理ですけど、明後日には此方に伺わせていただきます!」
「なら、明後日までに俺達は料理を仕上げるぞガドルフ。」
「おぉ!急展開に付いてけねぇが、目標があると俄然、やる気が出るぜ!」
「よし、そうと決まればまず、周りを片付けよう。終わり次第、ノーンさんに対しての詫びもかねて、食事処に行く。飯を食いながら、料理について語ろう。」
「おう、そうだな!今日で大体のことはわかった、それをまとめよう!」
「ただでご馳走していただくわけにはまいりません。私もお手伝い致しますわ。」
素早く片付けた三人は、ノーンさんオススメの店に向かい、雑踏の中に消えた。
そんな三人の後ろ姿を見送る冒険者達。彼らはティルとガドルフが料理を作っている時、その匂いにつられて集まってきた。途中で二人が倒れた時はビックリしたが、何事もなかったかのように再開し、美味しそうな料理を作り続ける二人を見続けた。『食べたい!!』とは思ったものの、作っている二人は、族?ヤクザ?マフィア?みたいな二人である。声をかけたくてもかけられない。そんな中、声をかける強者が。可愛らしい少女だ。なんやかんや騒いで、三人はこの場を後にする。だが、俺達は聞いた。『明後日までには料理を仕上げる。』と。俺達はその時、再びここに集まろう。少女が声をかけれたんだ、俺達もかけれるハズ。互いに顔を見て頷き合う。・・・グゥ~ッ。さぁ、今は腹を満たしに行こうか。三人の後を追うように、冒険者達は同じく、雑踏の中に消えましたとさ。
後々、挿絵を入れるかもです。次話はたぶん、一日を軽く流して、二日目の話になるかと。
今回のティルはテンション高め?




