第18話~ガドルフ 《挿絵有り》
今日も元気に勢いだ!
挿絵、適当に色を塗りました。
俺は今、メインストリートにいる。知り合いの屋台に飯を食べに来たのだ。んで、この屋台で料理を作って売っているのが、
「ガドルフ、調子はどうだ?」
「おー、ティルか。まぁ、見ての通りだ。」
不貞腐れて椅子に座っている男の名はガドルフ。少し前に、露店販売をした時に知り合った料理スキル持ちだ。俺と同じで悪人顔、そこから意気投合。暇さえあればここに来て、腹を満たしている。
「暇で仕方ねぇよ、はぁ~・・・。」
そんな彼の店には客がいない。まぁ、当然か。食事なんて宿で食えるしな、安いし。高くて50Gぐらいだったかな?シグルゥんとこは10Gで一番安いんだろうな。それに比べて、ガドルフの料理はホーンラビットの串焼き一品のみ。しかも一本30G、正直高い。知り合いじゃなかったら、俺も買わない。美味しいんだけどね。
「ティルが来てくれたから、宿代くらいは手に入るか・・・。貧乏人にはやっぱりキツいな、料理でいくのは。」
食材はNPCの店で買っているみたいだが、売れても元があまり取れない。ウサギ肉一つ20G、儲けは10Gのみ。しかも売れないから、その10Gすら入手不可。ガドルフはほぼ、詰んでいた。そりゃ、項垂れるわな。
「せめてタダで、食材を手に入れることが出来たらな・・・。」
俺はそう呟く。今まで魔物と戦ってきたが、食材を入手したことがない。他のPC冒険者も同じであろう。それは何故なんだろうな。現にウサギ肉という食材は存在しているわけだし。うーむ・・・、
「料理スキルはゴミってことなんだろうな。・・・進むべき道を変えたいが、固有スキルだもんなぁ。しかもユニークの料理道ときたもんだ。・・・詰んでるぜ。」
へー、ユニークの固有だったのか。・・・なんて思っている場合ではないな。悪人顔の男が涙目で絶望している姿に、胸が締め付けられる。どうにかして助けることはできないか・・・・・・、
「なぁ、ガドルフはまだ外に出てないんだろ?」
「・・・おー、戦闘スキルの無い俺なんか、入れてくれるPTなんていねぇよ。そもそも、この顔のせいか敬遠される・・・。」
「・・・・・・そうか。なら、俺と一緒に気分転換しないか?狩りにでもいこう。」
「足手まといになるぜ?」
「気にすんな、草原程度なら余裕でガドルフを守れる。」
「うーん・・・。」
「狩りに出れば、とりあえずは金を稼げるぞ。魔物素材が手に入るし。」
考え込んだガドルフだが、俺の言葉を聞いて行くことに決めた。
「悪いなティル、言葉に甘えて頼むよ。」
「ああ、任された。LVが上がれば、能力も多少は上がるだろ?そうすれば、何か道が拓けるんじゃないか?」
「何もやらないで、腐るよりはマシか。」
・・・で、明日の昼にここで待ち合わせることにして別れた。変態の件があるからな。
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リアルでの仕事を終えた俺は、早速ログイン。真っ先に冒険者ギルドへと向かった。お、フィオラさん発見。
「やぁ、フィオラさん。昨日の変態はどうなった?」
「あぁティル様、お待ちしていました。あの方はですね・・・。」
変態は昨日、俺が帰った後で目覚めたらしい。何やら恍惚の表情でブツブツ言っていたのだが、ギルド支部長が突然現れて、自分の部屋に連れて行ったそうだ。しばらくして、部屋から二人が出てきた時には、変態が変態ではなくなっていた、とのこと。
「気持ち悪い雰囲気が無くなって、凛々しくなっていました。一体何があったのかわかりませんが、支部長は『依頼達成だと彼に伝えてくれたまえ。』と言われてましたので、そのように処理を致しました。」
「へぇ、変態が多少はまともになったってことだろ?いいことじゃないか。」
「凛々しくなってはいましたが、中身はどうだかわかりません。支部長もすぐに部屋へ戻りましたし、彼女も一礼してから出ていきましたから。まぁ、終わったことですからこの話はこれで。ティル様、ギルドカードを。」
「はいはい、ギルドカードね。」
俺はギルドカードをフィオラさんに渡し、更新してもらう。
「おめでとうございます、ティル様。ランクEからランクE+にランクアップ致しました。」
心なしか、フィオラさんが微笑んでいるような気がする。
「おー、ありがとうフィオラさん。」
俺も存外、嬉しかったもんだからフッと笑った。わかってはいたが、フィオラさんが固まった。
「・・・すみません、ティル様。その・・・ギルドカードをお返しします。」
「ああ・・・。慣れているから、気にしなくていいよ。」
返されたギルドカードをボックスに戻す。思いの外、胸が痛いよ。
「ええとですね・・・、近々ノーシュ山攻略に向けて、新人冒険者の方々が動き出すそうです。総合ギルド配属の職員が言っていました。攻略成功の暁には、一人前と認められこちらに何人かは流れてくるでしょう。」
「おお、それは朗報だ。Junさん達がこちらに来るかもってヤツだな。」
そのまま王都に行きそうではあるが、シアルに戻っていたらこっちに来るだろう。
「ティル様に後輩が出来るわけですから、先輩として頑張ってください。」
その後は、軽い世間話をして俺はギルドを出た。ガドルフとの待ち合わせ場所に行かないとな。
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「よー、ガドルフ。待ったか?」
「いや、俺も来てばっかだから。」
ガドルフの奴、緊張しているな。まぁ、無理もない。今回が初めてなんだからな。
「因みに武器って何よ?」
「初心者用包丁。」
おおう、包丁か。流石は見習い料理人。
「防具は布の服とズボンだな。・・・まぁ、金がねぇから。」
そういえばガドルフ・・・、ほぼ詰んでいるんだっけ。
「何とかなるだろう・・・ってか、何とかする。俺が削るから、ガドルフは止めを頼むな。」
「悪いな、ほんと。この先返せるかわからないけどよ、いずれ借りは返す。」
「気にすんなって、困っている友人がいたら助けるのが普通だろ?」
自分で言ってなんだが、知り合いから友人に変わりました。俺には、コイツを見捨てるなんて出来ないからな。
「ティル・・・!お前って奴は・・・俺を友人って・・・!」
悪人顔で涙目はヤメロ・・・。なんか恐い。
「こんな所でグダグダやっている暇はないぞ、ガドルフ!」
「・・・ぐすっ。おー、そうだな!」
俺達は互いに頷き合って、草原まで走って行った。途中、ガドルフがヘバってしまったが。
草原に来た俺達はPTを組んだ。そういえば、俺も初めてだな、PT組むの。妹と山に行ったけど、PT組まなかったし。まぁとりあえず、やることは決まっている。
「魔物が出たら、俺が投げナイフを投げて瀕死にさせる。ガドルフは瀕死の奴を包丁で、きっちり止めを刺すように。」
「よし!やってやるぞ!」
気合いが入っているなガドルフ。・・・お、ウサギ発見。
「ガドルフ、ウサギを発見した。いくぞ!!」
一声かけて、俺は投げナイフを手に持ち駆け出した。ガドルフも包丁を握りしめ、俺に追従し駆け出す。
「あらよっと。」
手元の投げナイフをウサギに投げつける。ナイフは脚に突き刺さり、ウサギはひっくり返る。そして、それを好機と見たガドルフは包丁を握りしめ、
「おぉ~~~っ!!」
鬼気迫る表情で突貫、ウサギを狩る。・・・を何度か繰り返した。人のことを言えた義理はないが、ガドルフの顔が恐すぎる。倒したウサギに剥ぎ取りナイフを刺して、忘れずに素材回収をする。ガドルフもだいぶ、慣れてきたな。
「お疲れ、ガドルフ。そろそろ休もう。」
「ああ、そうだな。初めての狩りなんだ、無理は禁物ってヤツだな。」
「そういうこと。警戒は俺がやるから、素材でも確認しとけ。」
「ティルは確認しないのか?」
「俺は警戒しながらでも出来る。だから、気にすんな。」
そういうことならっと、素材確認をするガドルフ。俺も一応、確認しますか。・・・・・・ウサギは角、皮、毛皮でスライムが、核・・・お、初めてみる物が、
〔プニプニスライム〕触ると気持ちいい、癒される。
・・・それだけ?ネタアイテムなのか?・・・プニプニ。確かに気持ちいいな。・・・プニプニ。なんか癒されるかも。プニプニプニプニプニプニ・・・、
「おぉ!?マジか!」
ビクゥッ!
「な、なんだ!どうした!」
一心不乱にプニプニスライムと戯れていたところ、ガドルフが大声を上げた。
「やったぞ!肉だ、肉がある!!食材だぁ~っ!!」
なにぃ~っ!肉だと・・・!
ガドルフの手に入れた食材は、ホーンラビットの肉、スライムゼリーの二種類のみだった。それでも食材が手に入ったことは大きい。ガドルフ、またもや涙目である。
「これで何とかなる・・・。俺は料理を作り続けることが出来るんだな。」
うんうん、自分のスタイルが続けられるのは良いことだ。連れ出して正解だったな。・・・食材を手に入れるには、料理スキルが必要なのかもしれないな。俺は手に入らず、ガドルフは手に入ったんだから。俺は料理スキルを所持してなくて、ガドルフは所持している。うん、正解だろう。まぁ、それよりもだ、
「ガドルフ、感激している暇はない。休憩は終いにして、狩りを再開するぞ。」
「・・・そうだな、もっと食材を集めないと!」
手に入ることがわかったんだ。ならば、かき集めるのみよ!
因みに、βテストの時にも料理スキルはあった。この時は趣味スキルとして、取得する者もいた。食材は店で買うしか手に入らず、作ったところで腹を満たす以外は効果なし。持ち運び不可。これを知っているβテスターは、掲示板に載せる。するとどうでしょう、料理スキルは見事にゴミスキル認定されましたとさ。故に現時点で、料理スキルを所持しているのはガドルフのみ。そのすぐ後に、ティルも料理スキルを取得することになるのだが。
「ここらでいいんじゃないか?」
「だな。お陰で食材には、当分困らない。」
ホクホク顔のガドルフを見ると、あの絶望していた顔は夢だったんじゃないかと思う。
「それにしても、初めてにしては戦えているじゃないか。」
「俺も驚いているよ。料理スキルを持っているせいか、包丁での戦いがしっくりくる。」
うーん、スキルの補正でもあるのだろう。まぁ、これで・・・、
「この調子なら、食材の調達は大丈夫だな。」
「ティルのお陰だよ。」
ククク・・・と二人で笑い合う。
「んじゃ、帰ろうか。」
「だな。帰って早速、料理研究しないとな!」
食材を元手なしで入手することが出来るなら、色々とやってみてメニューを増やさないといけない。そうしなければ、未来がないからな。俺達は料理について、話ながら街に帰った。
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屋台に戻った俺達は早速、新鮮なウサギ肉を串焼きにして食べた。
「肉、固っ!」
「まずっ!なんだこりゃ!」
ウサギの肉はとても固く、噛みきれない。そして、パサパサしていてやや臭う。
「いつも通りに作ったはずなんだがなぁ・・・。」
「なぁ、買ってた肉って下処理されてたんじゃないか?」
売るものだからな、最低限のことはしていたのだろうと予想する。
「・・・あー、そうかもしれないな。・・・下処理か、どうやればいいんだろうか。」
「色々、やってみるしかないだろう。・・・って言っても、肉とゼリー以外無いんだがな。」
うーん、・・・と二人で考え込む。
「とりあえず、人に聞くのが一番だろうな。」
「俺、聞けるような親しいNPCなんていねぇよ。」
「知っていると思われる奴なら、心当たりがあるから任せろ。」
俺は、シグルゥの顔を思い浮かべる。アイツなら知っているな、料理上手だし。
「ほんと、何から何まで悪いな。」
「だから気にするな、俺が好きでやっているんだから。」
新しいことに挑戦するのは、楽しいからな。そもそも、料理スキルを買おうとしていた俺だ。大いに興味がある。それに、食事は基本だ。何かあるハズ。
「俺は知り合いに色々、聞いてくる。ガドルフは素材でも売りにいけばいいだろう。」
「そうだな、俺には必要ないからな。金にした方がいいか。」
お互い、顔を見合わせる。
「どうなることかと思ったが、なんていうか・・・楽しいな。」
「苦労した方が楽しいのかもな。」
そして、笑い合う。
一頻り笑った後、俺達は別れた。さて、シグルゥは宿にいるかな?・・・まぁ、いるだろうな。
余談だが、ティルとガドルフが笑い合っていた時、周囲の人達がビビっていたことは言うまでもないだろう。
二人の笑い顔は悪人そのものですね。作者は悪人顔が大好きです。
次話は掲示板の予定。




