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52pより
コーヒーカップを置いて、僕はコーンブレッドを口にした。の次より
「長期休暇が取れたら、ブラッドリーさんとイギリスかどこかへ旅するのもいいかもしれませんね。今は事件の捜査で時間が取れませんが」
「そうですね」
「旅はお好きですか?」
「ええ、まあ」
「そうですか」
彼は、笑みを浮かべて答えた。外は雨が降り始めていた。
サムさんは送ってくれると言ったが、僕は丁重に断った。彼も連日の捜査で疲れているだろうし、少しでも休んで欲しかったからだ。しかし、サムさんから誕生日プレゼントを貰うとなったら、こちらもやはりお返しをしないといけないだろう。だが、サムさんの誕生日を聞き忘れてしまった。今度会った時にでも訊くことにしよう。
先程まで雨が降っていたせいか、地面はぬかるみ、点々と水溜まりができていた。前方を見ると、あの、不動産屋が女性を連れてアパートメントの前に立っている。部屋の案内にでも来たのだろう。いつもは部下に行かせるくせに、女性客だったら必ず自分で案内する。
僕は女性を見た。東洋的な顔立ちをしている女性だ。この辺りでは珍しいなと思っていたら、目の前から、馬車がかなりのスピードを上げて走って来た。僕は咄嗟に横道へ逃げ込んだ。少し間を置いて、叫び声と悔し紛れの怒号が聴こえてきたので首だけ出して見ると、そこには見るも無残な二人の姿があった。頭から足の先まで泥がかかり、どうしようもないことになっている。不動産屋は腕を振り回して怒鳴り続けているが、それは虚しく宙を切るばかりだ。あの怒り様からすると、奴の着ているスーツは間違いなく、高級店であつらえたオーダーメイド品に違いないだろう。けれど、まさかこんな喜劇めいたことが目の前で突然起こったことには少々おどろいた。あの馬は雨水にでも驚いたのだろうか? 僕は彼らにわからないように笑いながら、その場を後にした。
しかし、残念だ。どうせなら馬車にはねられ、轢き潰されればよかったものを……。ああ、本当に残念で仕方ない。




