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最後の夕刊を配り終えた僕は、足早に例の張り紙があるストリートへ自転車を走らせた。夕闇が迫る中、僕はそれをじっと見る。
男性。年は三十二才。名前は、デイビッド・フィンチャー。九月一二日から行方不明。どこにでもいる風貌。可もなく不可もなく……というところだ。行方不明になるにはあまりにも平凡すぎないだろうか? ただの失踪か蒸発なのでは? という考えが僕の頭に浮かぶ。
まあ他の国から結構な出稼ぎが来てるから何とも言えないと思ったけど、名前からその線はなくなったかな?
「そんなに食い入るように見て、何か心当たりがあるのかね?」
「あ、いえ、別に……」
「うん? 何だ、また君か!」
「あ、ペルペ警部ではないですか」
「『あ』じゃない。ここで何してるのかね?」
「張り紙を見ていたんです」
「それは見たら分かる。あまりうろちょろしていると、またしょっぴかれるぞ」
「はい。すみません……」
「で、何をしていたのかね?」
「その……人が少ない街なのに行方不明者なんて珍しいなあと思って見ていたんです」
「……ふむ。それだけかね?」
「はい」
「本当、かね?」
「本当ですってば。警部」
「ふむ……」
警部は顎を触りながら、訝しげな目線をこちらへと向けている。例のご令嬢事件の時も、家の近くをウロウロしていたから、ちょっと目を付けられてるんだよね。
「……まあいい。もう暗いから早く帰りたまえ」
「はい」
僕はそう返事して、横に停めていた自転車に跨がる。
「……その、君」
「はい。何でしょうか? 警部」
「君はあの事件、やはり彼女がやったと?」
「ええ。街のみんなだってそう思ってますよ」
「……」
「まだ捜査は、お続けに?」
「ああ」
「ペルペ警部。その、僕おもったんです。よく考えたら色々とおかしいなって。彼女はなぜ、わざわざドレスを細かく切って燃やしたんでしょうか? 壁で擦って汚れただけなら、布袋か何かに入れて捨てれば済む話しではないでしょうか? ドレスを細かく切るなんて、かなり時間がかかるのに。その前に少しの汚れで捨てますか? それくらいならメイドに洗わせればいいのに。そうしないのは、できない理由があったんです。必ず、燃やさなければならない、理由が」
「……ふむ」
「それだけじゃない。毛皮を洗うのに、シアン化水素という猛毒を使いますか? 着る時に手で触るのに」
「うむ……」