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だが、僕の興味を惹いたのは、ベスが捲った次のページだった。そこには、一ページをまるまる使った紅茶の宣伝が。僕は紅茶が大好きだ。けれど、フォールリバーの人を含めアメリカ人が飲むのはほとんどがコーヒーだ。それはなぜかというと、まだマサチューセッツ州がイギリスの植民地だった頃、一七七三年にボストン港で〝茶会事件〟なるものが起きたからだ。イギリス本国議会の植民地対策に怒った植民地人の急進派が、「海をティー・ポットにしてやる!」と、港に停泊中のイギリス船に侵入して、三百箱以上、百万ドル分の紅茶を海に投げ捨てたからだ。それが原因で植民地人は紅茶をボイコットし、コーヒーが代わりに定着してしまったというわけだ。イギリスは紅茶、アメリカはコーヒーというイメージはここから来たのだろう。
まあそれを機にアメリカ独立へと繋がっていくんだけど、それはまた別の話。
そんな紅茶好きの僕だが、〈ブルー・ベルベット〉という銘柄のものを愛飲している。爽やかなのに渋みがあるかと思えば、ほのかな甘味もある。こんな素晴らしい紅茶と逢えて僕は本当に幸せだ。そう言えば最近、紅茶を見に行ってないからまた時間ができたら行ってみよう。ベスが用意した朝食を食べた僕は、月極めの集金で遅くなることを伝えて家を出た。
例の事件が起きてから、どこのストリートを通っても何か張られていないかと強迫的なまでに確認するようになってしまっている自分がいる。心なしか……いや明らかに警察官の姿も事件前より増えたようだ。多分、覆面警官も歩いていると思うし、ペルペ警部やサムさんも聞き込みに奔走している頃だろう。何だか窮屈に感じるけど、まあ事件が解決するまでの辛抱かな。……解決するかは、わからないけど、ね。
今朝の新聞もそうだったけど、事件が始まってから、まあどこの新聞社もここぞとばかりに部数を伸ばそうと、一面で、それは本当か? と訊きたくなるような記事を競うように載せている。正直ウンザリしてはいるが、現実はこんなもんだろう。
気が付くと、十二時を過ぎていた。案外、時間が過ぎるのは早いものだ。僕は近くの店でサンドイッチとコーヒーを買うと公園のベンチに座った。こうしていると、凄惨な事件が起きているのが嘘のようだ。そよぐ秋風のなんと気持ちいいことだろうか。




