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「みんな、ちょっと手を休めてくれ。まあ新聞で知っての通りだとは思うが、例の事件のことで警部さんたちが聞き込みに来られた。一人一人呼ぶのでちゃんとご協力するように」

 所長はそう言うと、戻って行った。

 仕事を続ける僕のそばを一人、また一人と呼ばれた同僚が通り過ぎていく。ペルペ警部とサムさんは、たぶん僕にしたのと同じ質問をみんなにしているだろう。ただ、帰ってくる女性陣が、皆そろったようにポーっとしている姿に、何とも言えないものを感じた。




 とりあえず事務作業も終わり、僕はベスお手製のサンドイッチが入った紙袋とコーヒーを持って、いつもの場所へ行こうとしたら、ちょうど応接室からペルペ警部とサムさんが出て来た。

「あ、どうも。ペルペ警部、サムさん」

「今から昼食かね」

「はい。聞き込みはどうでしたか?」

「それが残念ながら」

 と、サムさんは小さくため息を吐いて言った。

「そうですか。でも、あんまり無理しないで下さい」

「ああ。じゃあ、私たちはもう帰るから、何かあったら連絡をお願いするよ」

「分かりました。ペルペ警部」

「ブラッドリーさん。もしよければ今度、時間が取れたらお茶でも飲みに行きませんか?」

「え? は、はい。僕は別に構いませんけど」

「よかった! それではまた」

 彼は慣れた手つきで帽子を被り、つばに指を滑らせてペルペ警部の後に続いた。なるほど。つばの下から見え隠れする瞳。ああいうのが格好いいんだろうなあ。ただし、ハンサムに限るんだろうけど。

 こうして、この新聞配達所はしばらくの間、女性陣のみがドンヨリから解放され、黄色い声が響くこととなった……。





 ――始まりは何だったのかよくわからない。

 遠くに聴こえる喧騒がわずらわしい……そんな些細なことだった気がする。それらを遮るように、いつのまにか非日常へと埋没していくことが習慣となっていた。




「おはよう。ベス」

 下に降りると、ベスが何やら真剣に雑誌を見ている。

「おはよう」

「何を読んでるの?」

「うーん? お隣のアリスから借りた〈ヴォーグ〉ってファッション雑誌」

 ああ。笹の葉も揺れる……という時期のアリスねと思いながら、ベスが真剣に見ているものを僕も見る。最近流行っているのかわからないが、どこで着るのか? と、疑問に思う服を着ている様を美しく描かれた女性が、優しく訴えるように微笑んでいる。

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