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「では立ち話もなんなので、もしよければご一緒しませんか? ブラッドリーさん。ペルペ警部、よろしいでしょうか?」
「私は別に構わんが」
サムさんは警部の返答を待って、もう一つだけ開いている椅子をすすめてくれた。僕も休日だし、ベスから頼まれた用事もないので断る理由もない。
「あ、ありがとうございます」
「飲み物はよろしいですか?」
「あ、じゃあカフェオレを」
僕がそう言うと、彼はウェイターを呼び、注文してくれた。
「どうもすみません」
「いえ。お気になさらず」
と、サムさんの営業スマイル? ならぬ、王子様スマイルが。なんだかいい匂いが漂いそうな雰囲気。彼ってよく見てみると、女性的な顔立ちかな。ちょっと性格キツそうな顔立ちだけど、人を小馬鹿にしている……というような感じじゃなく、レイリ的。
「ところで、捜査はどうですか? ペルペ警部。進展はありましたか?」
僕はちょっとだけ探りを入れてみた。
「いや、それが全然でね」
それ以上は話せないと言った感じで警部は口を閉じた。
「ブラッドリーさん。お仕事は何を?」
「新聞配達です」
「そうなんですか。朝? それとも夕方?」
「僕は夕方なんです」
「そうですか。じゃあ目撃した、とかはなさそうですね……」
「ええ」
サムさんが残念そうに柔らかそうな前髪を触ったところで、ウェイターが注文したカフェオレを運んで来た。
「あ、でも、朝刊組に聞けば何か見てる人もいるかもしれませんね」
「そう、ですね」
それから僕たちは何気ない会話をし、まずは、僕の働く新聞配達所へ聞き込みに来ることを告げられ、家路に着いた。
「あなた、お帰りなさい」
「ただいま。ベス」
家に入った瞬間、いい匂いが漂ってきた。
「今日はなに?」
「ポトフよ」
「そう」
ハンチング帽を掛けながら返事をすると、ソプラノが鳴きながら寄って来て、しきりに脚へ頭を擦りつけている。それを避けつつ、僕は洗面所で手を洗ってテーブルに座った。
「そういえば今日みたんだけど、あの不動産屋さんいるじゃない? 苦虫を噛み潰したような顔してたけど何かあったのかしらね?」




