025 移住
『しかしこれは──』
『一沙に比べれば随分穏当な条件かと思いますが』
『一沙に負けた結果でこれならば、あるいは喜びさえしたかもしれない。
しかし戦に勝ってこれでは、皆が納得しない』
「……揉めてるね」
「ああ」
郷長宅応接間から数部屋を隔てた一室で、要と孝洋は郷長の客対応が終わるのを待っていた。
壁越しに郷長と客の会話が聞こえてくる。
古い木造家屋ゆえの音漏れと英雄の感覚の鋭さが相俟ってかなり正確に聴き取る事が出来る。
『主神を定めるというのも、それが草壁のヤマツミ様であるというのも、これはまあ良い。
村の神が下位に組み入れられるのには抵抗があるが、一沙のような繁栄を望むならそれが必要である事は皆もわかっている』
『ですな。個別の村々の集まりでしかない連合と、一つの国として全体の為の施政が為されていた一沙とでは、明らかな差がありました』
「川上村は確かに栄えていたな。店が多かった」
「随分前に首都としての機能を交通の便の良い土地に移したらしくて、あれで一時に比べれば寂れた方らしいよ」
「ああ、山の中だしなあ。でも草壁郷よりも」
「工業都市と農村を比べないでおくれよ……。
一沙は街道に力を入れていて、国内の移動が比較的自由でね。
代わりに神力増加で増えた領域を街道の為に使ったから開拓する土地が足りなくて、農村部では人が余る。
余った人間が都市部に移動して鉄製品なんかの製造業に就いたり、そうやって増えた人口を当てにしてサービス業を始めたり。
余った人間が別の村に移動する、というのは複数の村が共通の主神を祀っているから出来る事だね」
居住可能な土地は神力によって確保されるが故に、移住先の神へ信仰対象を変える事無しに移住するとなれば神力増加に寄与せずに神力の恩恵を受ける事になり、移住先の住人に受け入れられない。
移住の為に信仰対象を変えれば、故郷の人間との間に心理的な溝が出来る。自身の都合で軽々しく信仰を捨てる者は移住先でも軽んじられる。
通常移住にはこのような障壁があって、村同士の関係が良好であってもそう気軽に行えるものでは無かった、と要は語った。
「開拓初期の村みたいに例外はあるけどね。
まあそういう訳で、人口の集中が出来た一沙と連合では事情が違うんだよ」
『しかしほぼ全て神力を召し上げた上で必要な分だけ貸与となれば、それは上の許可なくしては神が神たる力を持つ事さえ出来ぬという事。
空白地を拓く事さえ許されぬとなれば、最早神としての成長は望めませぬ。
我らが神は神としては実質死にまする』
『神としての権威はある程度保存されるかと思います。
国家の法に反しない範囲で自治権が認められ、その地方においてのみ通用する条例を定める事も出来ます。その権限はその土地の神が独占して持つ形になる。
その地域の神としての地位は連邦ある限り盤石となりましょう。
成長についてはいずれ国割りをしてもう少し大きな地域を治めて貰う事も考えております。
元の土地をそのまま残すなら、飛び地のような形になるかとは思いますが』
『もう少し緩やかな上下関係にはまかりませんか。
せめて貸与される分とは別に自前の物として私有できる神力をもう少し多く』
『まかりませんな。大きな影響力を持つ神々にそれぞれの地方であまり自由に振舞われますと、国家の体が保てません』
『……法を定めるも神の権利を認めるも、それを行うは全てただの人間か。
人が神を縛るなど、畏れ多い事だ』
『人は神を縛りません。ヤマツミ様が神々と誓約を結び、それに基づいて神の手で神の間に神の法を敷くのです。
人は神の求めに応じて助言差し上げるだけ。何事も、決定権は神の許にのみある』
「信仰が絡むから地方の神の扱いがちょっと難しいね。
形式的には人が神に命令したり罰したりする形がとれない」
「まあ……神だからな」
「今まではどの神も独立勢力のトップだったからそれで良かったけど、中央の支配下にある地方の長なんていう中間管理職的な存在がそれでは困るわけで、やはり神にも神を縛る法が必要になる。
神の行動に制限をかけるには、神同士の話し合いの結果として神々が自発的に決めた事、という形に持ち込む必要がある」
『草壁の住人の半数が忍者であるとは戦が始まる直前まで知らされていなかった。あれはどういう事だ。
我らの神の力を吸い上げて得た領地に忍者を住まわすとあってはそれだけでも納得せぬ者も出てくる』
『半数ではなく三分の一強ですな。忍者と言えど人と同じく生きております。旱魃に苦しみ助けを求める者を見捨てるわけにもいきますまい。
ヤマツミ様に伺いをたて、許可は頂いております』
『助けぬわけにはいかぬ、というのは確かにそうだ。我々もあの時は少なからぬ援助はした。
しかしな、忍と人が共に住むのがまずいのは翁も知っておられるだろう』
「忍者の立ち位置がいまいちわからんが、差別か何かをされているような感じなのか」
「んー……」
差別と言ってよいものか、と要はしばし思案した。
種族や出身を理由に人の社会に受け入れられていないという点を考えれば、差別的な扱いを受けているとは言える。
「差別と言えない事も無いが、忍の里でも人間の移住を受け入れていないから、どちらかが一方的な被害者という関係では無いな。
人と忍が同じ社会で暮らすにはまだ問題が多いから人間の村と忍の里で別れて暮らしている状態だ。
何と言えば良いかな……徒競走で競争相手がチーターだったり、格闘技の試合に羆が出て来たりすると普通の人間がどう鍛えたって勝ち目が無いだろう? 忍者と人間を同じ土俵で競わせるというのはそういう事なんだ。
同じ社会で暮らすとなればどうしたって競い合う場面もあって……。
だから棲み分けしましょ、というのを差別だと責められるのは困るというか」
「ああ……なるほど」
「種族差がちょっと大きいからね、無策で一緒に住まわせると多分色々と酷い事になる。
いずれは忍の里も国に取り込むつもりらしいからそのあたりの工夫もちゃんとやっていかないといけないんだけど。
……あとは神力と半人半忍が問題かな。神力の説明はしなくてもいいかな」
「そっちは前に聞いたな。忍者の頭数がどれだけ増えても神力は増えないとか」
「そう。神力増加には貢献しないのに、というのがここでも問題になる。
残るは半人半忍だけど……人と忍者は種族的に結構近いみたいで、出生率はあまり高くないけどハーフであるところの半人半忍は生まれる。
問題はその次の代で、半人半忍は子孫を残せない」
「子供が作れないのか」
「ライガーやタイゴンみたいなものなんだと思う。近縁ではあってもやっぱり別の種族なんだね」
『存じております。ゆえに、山裾に住まわせ隔離しました』
『それだけでは交流は止められまい。半人半忍ばかり生まれては血が絶える』
『忍の頭領が協力的でしてな。厳しく教育を施して頂けましたゆえ、問題は起こりませんでした。
神力は少々切り詰めればどうとでもなる程度のものでしたよ』
『やり繰り出来るかどうか、が問題なのではない。感情の問題だ。
神力の増加に一切貢献せぬ者が神力を利用し、領地の拡大に一切貢献せぬ者が土地を所有する。
そのうえ個人の能力が人より優れるときた。
働きに応じた見返りを与えれば必ず土地も財も人より多くなる。
土地も神力も己は生み出さぬ分際で、だ。
人が反感を覚えぬわけがあるまい』
『忍である事は従来の里人には秘しておりましたので、忍としての力の使用を修練を除いて一切禁じておりました。
とはいえ、神力量と人口の釣り合いが取れておりませんでしたから里人らの大半は気付いておったようではありますが。
神力の事がありましたので忍からは税を大目に取り、それを郷の運営を通じて里人に還元しておりましたからか不満の声を聞く事は無う御座いましたな。
工夫さえ凝らせば人と忍の共存は可能、というのが実際に試して得た感想です』
『生来の能力を自由に使えず、尚且つ人より多い税を取られては忍から不満の声があがるだろう。
厳しく教育する、だけの対処でこの先抑えられるものか』
『そうですな。年嵩の者は人里の外の生活を知っておりますから不満を口にしませんが、代を重ねると不満を持つ者も増えるでしょう。権利を拡大しようとする動きが出るに違いありません。
そうした現状開いておる穴を埋めるのが先に説明さしあげた結界製品の数々で御座います。
例えば防壁。これで領地の外の土地を囲えば、囲った土地を妖怪の襲撃から守る事が出来る。
例えば今天井より吊るしている照明。これがあれば夜目の利かぬ人間でも夜遅くまで活動できる』
「……電線無いのにあれどうやって光らせているんだ?」
孝洋が天井から吊るされた照明を指差して問うた。
「あれか。白熱電球と同じだよ。加熱魔法使ってる」
「加熱?」
「中学の理科あたりで習わなかったかな、白熱灯の仕組み。
あれ電熱で高温になった金属が発光してるだけだよ」
「習った……かな。覚えていない」
「詳しく説明すると長くなるので掻い摘んで話すけど、物質は温度に応じた電磁波を発しているものなんだ。可視光線も電磁波の一種で、加熱する事で放射させる事が出来る」
「……言われてみれば温度が高い物は大概光ってるな」
説明を続けながら、最近孝洋とあまり話せていなかったな、と要はこの数日を振り返った。
結界の作成や調整も最近は殆ど自在剣頼りだ。
本来なら照明製造の計画段階でしていたであろう会話を今になってする程度には、物作りに孝洋が関わっていない。
忙しさもあったが、何より道具である自在剣が相手というのは気が楽だからだ。
相手の都合を気遣う必要も、自分の身なりを気にする必要も無い。
入浴中や寝入り端にひらめきを得る事の多い要にとって、その都度孝洋に協力を依頼しに行くという行為はハードルが高かった。
忙しさの最初の山は今回の川上村訪問で一段落の予定になっている。
日中に全く会う時間が取れないような忙しさは、向こう二、三日は無いはずだ。
これからはもっとコミュニケーションを取ろう、と要は自省した。
『神力を消費せずに安全な土地を得られるなら、土地使用料として忍から人より多くの税を取る理由も無い。道具を用いて人が忍に匹敵する能力を容易く得られるようになれば、忍の力の使用を禁ずる必要も無い。いずれは人と忍の種族差は埋まりましょう。
今すぐに実現できる事ではありませんが、夢物語では無い。どのみち、忍者との共存はいずれは取り組まねばならぬ課題です。神々は今の人と忍の関係には満足しておられない』
『むう……』
『忍の話はこのあたりで宜しいでしょう。あまり性急に事を進めるつもりもありませぬゆえ、しばらくはこれまで通り人と忍は別れて暮らす形に留まるかと思います。
……さて、予定していた時間を少し過ぎてしまっておりますし、今日の所は』
『む、もうそんなに経っておりましたか』
『ええ。次の集まりまでにもう一度か二度は機会を作れるかと思いますので一先ずはここまでという事で。お聞かせ頂いたご意見を参考に私の方でももう少し考えておきます』
『多少の譲歩はして頂けると期待しても?』
『譲れる所は譲りましょう。しかし、一つの国として纏まる為にどうしても譲るわけにはいかぬ所もある、という事は御理解頂きたい』
郷長達の声が聞こえていた方向からの物音が大きくなる。
複数人の足音や話し声、そして引き戸を開く音が聞こえた。
先まで言葉を発していたのは郷長と相手側の代表と思しきもう一人の二人だけであったが、どうやら何人か供を連れてきていたらしい。
「話、終わったみたいだね」
「ああ」
「とはいえ、見送りや部下への指図なんかでもう少し時間が必要だろう」
要は孝洋に卓の上の干し柿を勧めた。
「もう少しのんびりしていよう」
静かになった部屋で他愛のない会話に興じる。
待ち時間は苦にはならなかった。
─────
「次郎ー、ちょっと用あるんだけど今大丈夫かー?」
「んあー?」
午前中の作業を終えて自宅で昼食を摂っていた次郎は友人の声に箸を止めた。
口の中の物を飲み物で強引に胃に流し込み、声が聞こえた場所に向かう。
玄関で次郎を迎えたのは子供の頃からの友人と、その傍らに立つ見覚えの無い少女だった。
目が合って慌てたように頭を下げた少女につられ、次郎も会釈をした。
「よ」
「よ。なんか用か? あとそっちの人は?」
「遠い親戚らしい。この子の事でちょっと話があってな」
「まあ上がれよ。ええっとそっちの君……」
「あ、中谷佳苗です!」
背格好は要よりやや大きく、見た目から判断するに十五、六歳といったところだろうか。
一沙国ではやや晩婚化が進んでいたと聞くが、旧連合地域では十五歳程度が結婚適齢期である。
あるいはまた結婚でも勧められるのだろうか、と次郎は少し憂鬱な気分になった。
「そっか。俺は楠本次郎といいます。佳苗ちゃんもどうぞ遠慮せず」
「お、お邪魔します」
とはいえ、同じく被害者であろう少女に当たっても仕方が無い。
次郎は努めて優しく笑いかけ、少女と友人を部屋に招いた。
「お、メシ食ってたのか。悪いな」
「気にすんな。こんな時間に食ってる俺が悪いんだ」
「今日は水道管だっけか」
「いや、壁。人集まるのが遅くて思ったより時間かかってなー……。
あ、そっちに積んでる座布団使って」
「あいよ」
次郎は喋りながらてきぱきと卓上の物を片付け戸棚から茶菓子を出した。
「手土産ここ置いとくぞ」
「おう。暑いし麦茶で良いか?」
「おー」
同じく戸棚から取りだした茶碗を並べ、卓上の水差しから麦茶を注ぐ。
きんきんに冷えた麦茶を注がれた茶碗に薄らと露が付いた。
少女が結露した茶碗を指で突き、興味深げに観察している。
「檜沢村にはまだ冷蔵庫とか無いんだっけ?」
「えっ……あ、はい。……じゃなくて、持ってる人も多分居るけど私の家にはまだ無いです」
友人──余四郎が佳苗に問うと、佳苗は慌てた様子で指を引っ込め応答した。
「檜沢村?」
「ああ。この子他所の子。爺さんの代に移住あったろ?」
「あーそうだっけ……」
「父方の爺さんの弟が檜沢村の第一世代で、その娘婿の……従弟の嫁さんの姪っ子、だったっけか、なんかそんな感じ」
「遠いなー」
「まあ遠いけどな。爺さんの弟からの紹介状持ってきたからしゃーない。で、用件なんだけどよ」
「おう」
「この子に仕事紹介してやってくんない? できればヒロさんの社で働かせてくれると有難いんだけど」
「仕事? え、檜沢村だろ? あそこ軌道車通るの結構先だぞ。どうやって通うのよ」
村と村を結ぶ高架式の軌道とその上を定期運航する軌道車は既に試験的に稼働を開始しているが、その範囲は今の所極一部に限られている。
結界製の軌道を宙に固定する為の礎石の埋設や支柱及び軌道の製作には、結界製重機の操縦者及び結界技師といった現時点では希少な人材が必要とされる。
必然、重要物資の産地や交通の要衝、あるいは政治的に必要性の認められる地域への敷設が優先的に計画され、そうした村々を繋ぐ線上から外れる檜沢村のような村は後回しにという形で順番待ちが発生していた。
「敷かれるまで確か一月かからんだろう。それまでの間ぐらいならうちで面倒見られるけど、軌道車で行き来出来るようになってもやっぱ往復にそれなりに時間かかるだろ?
もうこっちに住む方が良いだろうし住み込みで下働きとかさせて貰えないかと思ってな。
そんで思い当たったのがヒロさん家」
「えー……話はわかったけど移住って大ごとじゃねえか……。
俺一人じゃ外の人間の受け入れは判断できねえよ」
「緩和されたの忘れたのかよ。新制度の支持表明したとこはもう移動自由になってるはずだろ」
「……あー」
神の力の統合と再分配が可能になれば、居住地と信仰対象の食い違いがたいした問題ではなくなる。
神の力の統合に同意した神の内のどの神を信仰していてもそこから生じる力は全てヤマツミの元へ一度集まり、しかる後に人口や需要に合わせて分配される。
故郷の神を信仰していても、その力は自動的に現住所の神の元へ分配されるのだ。
余所者を排斥する理屈の一つが失われ、それに伴い住所変更の要件が緩和されている。
話としては聞いていたものの自分の身近に起こり得る事としての実感が薄く、移住に関する次郎の認識の更新は遅れていた。
故郷を離れるのは一大決心の必要な大ごとで、受け入れる側の責任も重大だとの意識が根強くある。
「あんま重く考えんなよ。軌道敷かれりゃちょっと時間さえかければいつでも実家に帰れるようになるんだし、一生を左右するような事じゃねえんだ」
「うーん……実家の方の仕事は何やってんの?」
「村の中で消費する用の野菜中心に作ってたらしいんだけどよ、その野菜の有名な産地からやっすい野菜入ってくるようになって儲けごっそり減ったらしいのね」
「……あ、軌道車か」
「そうそう。あと飛行船な。あれで相場滅茶苦茶変わったろ」
護衛役も必要無い、馬の餌代も馬車の維持費もかからない、日数をかけて障害を迂回する必要も無い。
軌道車と飛行船は流通コストを劇的に下げた。
それが紙幣同士の交換レートの激しい変動となって現れている。
「そんで便利な道具も入ってきて人手余るようになったし、若いのはちょっと外で稼いで来いと。
期限切っての住み込みなら戸籍もそのままで良いって話だし」
「期限っていつまで」
「とりあえず秋口までかね。秋にはお前のとこもちょっとは落ち着いてるだろうし、人手が足りない間だけでも雇ってやってくれねえか。
今お前も要ちゃんも忙しくてヒロさん家の管理まで手がまわらんだろう」
確かに、人手は欲しい。
要は英雄の体になっていなければ体を壊しているぐらいには働いているし、次郎も次郎で従来の仕事に加え結界絡みの現場に呼ばれる事が多く自由に時間を作れない。
雷神の社に捧げられた供物の管理や社の清掃などは現在次郎が担当しているが、自分の用事を済ませた後に空いた時間で片手間にやっているだけで充分な仕事ができているとは言い難い。
専業で社の管理をする人間や孝洋の身の回りの世話をする人間が何人か必要だろうと、次郎は常々思っていた。
余四郎の提案は渡りに舟ではある。
(でもうちの郷は郷で人余ってんのよね、一部の人間だけ滅茶苦茶忙しいってだけで。
雇うなら顔見知りから見繕えばいいんだし、ここでこの子を選ぶ必要性はあんまり……)
次郎は何気なく佳苗に視線を遣った。緊張した面持ちの佳苗と目が合う。
「あ、あの!」
「ん?」
「必ずお役に立ちます!
体力と力と手先の器用さと打たれ強さと、あと、とにかく色々自信があります!
宜しくお願いします!」
「そ、そう」
卓に身を乗り出して自身の有用性を訴える佳苗に次郎は気圧され少しのけぞった。
「佳苗ちゃんそんな必死になんなくても……他にも知り合い居るからここ駄目でも大丈夫だよ」
「いえ、ここで働きたいです!」
卓に額が触れるか触れないかと言う程に頭を下げた佳苗を見かね余四郎が声をかけたが、佳苗は姿勢を変えずに答えた。
意思は固いらしい。
(まあ要の作った物のせいで生活苦しくなったみたいだしなあ……。
いや、これからそうなると見越して動いたんだっけか)
「取り敢えず頭上げて下さい」
「はい!」
次郎が声をかけると佳苗は勢いよく身を起こして姿勢を正した。
次郎の目を真っ直ぐと見据え言葉を待っている。
(……この子で良いか。
雇うの一人だけって事もないだろうし、何か多少問題があっても期限付の契約だし)
「えー、今すぐには返事できません。雷神様とその巫女の同意無しに勝手には決められないので。
ひとまず余四郎のとこにでも泊まって、二、三日程待って下さい。
決まったら余四郎通して連絡いれます」
「はい、宜しくお願いします!」
佳苗はもう一度深々と頭を下げた。




