ハロウィンだから謙信様このコスプレをしてください!と頼んだら心ごとホールドされて逃げられなくなりました。
「謙信様!今日は、何の日か知っていますか?」
「……?
そう言えば、リスナーたちがハロウィンだと騒いでいたような……」
「そうです!今日は、ハロウィンです!
そこで!色々楽しめないかと思い、コスプレ衣装を赤星から借りてきました!」
どっさりとした紙袋三つ分を持ってきた梅歌は、謙信の部屋のリビング床へと下ろした。
(ふぅ……!どれどれ、何があるのかな?)
袋の中を覗くと囚人やヴァンパイア、魔法使いや、悪魔、カボチャ、動物といったよくあるコスプレ衣装が豊富に揃っていた。
その中でも一際。
梅歌の興味を惹いたのが、ナース衣装と虎の耳&もふもふのスリッパだった。
「謙信様!!是非、こちらを着てはくれませんか!!?」
「……これを、俺がか?梅歌ではなく?」
「ええそうです!!」
恋人からのあまりのキラキラした期待の眼差しに、謙信は断る気は毛頭ない。
けれど、彼も男であるが故のこの禁じ手には戸惑いを隠せずにいた。
「……アンタにそんな趣味があったとはな。まあでも、こんな機会もまずない。
引き受けよう」
「趣味とかでは無いです……!断じて。
でもやったぁ、嬉しいです!ありがとうございます!」
「……まぁ、俺はできたらアンタが着てみた方が見たかったがな」
そう言いつつも渋い顔のまま着替えに向かい、数分が経過したーー。
扉が開くとそこには、ゴツい女装姿の謙信がぎこちなく恥じらいを隠せずに立っていた。
胸元は大きく開かれ、ピンクの裾の短な装いと、黒網タイツに、ガターベルト。
頭には虎の耳カチューシャ。
両足はモフモフを装着していた。
「おい……足元がスースーして、もどかしいんだが……」
確かに男性がまず下半身をここまで露出することは、中々ないだろう。
ましてや謙信のその姿を見られることは、きっと奇跡に近い。
(で、でも!いざ好きな人のそう言った姿を目の前にすると……直視できない!!
あああなんてこと……これは盲点だった!)
自ら所望したコスプレ姿を、まさか羞恥心に負けてしまい見るどころではなくなるだなんて思いもよらず。
それどころか見てはいけないと思うと同時に、際どさを味わいたい二極論の板挟みにあってしまう。
「梅歌?何故、こちらを見ないんだ。
自ら望んだことだろ?ほら、しっかり俺を隅々まで舐めるように、見るんだ。
……目は逸らすなよ」
「……っ!!!」
俯いていると、それを許さんとばかりに顎を持ち上げられ、逸らしたくても力強く固定されてしまった。
「ようやく、目が合ったな?
ふ、顔が真っ赤じゃないか。どうしたんだ」
(ヒィ!何で私はこの衣装を選んでしまったの!……とにかく下心があるだなんて、絶対気づかれたくない!)
「いいいいえ!!少し暑いんです!」
「ならもっと熱くなるか?
……ほら、俺に触れたっていいんだぞ?恋人同士、こういった練習も必要だ。何か思い出せるかもしれない」
梅歌の手は誘われるように、謙信の太ももへと押し付けられていた。
その手を、少しずつ上へ上へと無理矢理登らされていくーー。
「だ、だめです!!その、それ以上は!謙信様の、謙信様が!!?」
「何故だ?もしや、やましい気持ちがあるのか?俺の俺?」
「ちちちち、違いますけど……!!断じて違いますけど!!」
「なら、気にせず身を任せていればいい」
そう言って腰を大胆に引き寄せられてしまい、腕でホールドされれば後にはもう引けない状態に。
状況は悪化の一途を辿り、さらに際どさ満点に追い込まれてしまう。
「こういうのも、たまには良いな。
梅歌の初心な反応が、愛らしくて止まらなくなる」
ふぅ……と、吐息が甘く耳を撫でそれに堪らず、つい反射的に抵抗してしまった。
「……ッや!待って、ください」
「……何故拒む」
「そ、それは……!その心の準備とかうんぬんかんぬん……悪気はなくて!」
「嘘だな?」
「……ッ。嘘、なんかじゃ……」
「本当は……?言えないなら俺が答えてやる」
「くすぐったくて……」
「不正解だ。
……本当は焦れるように甘く、痺れていく感覚。
その先を、体は欲しているんじゃないのか?」
「……!!?」
(どうして、バレてしまったの……。
でも、そんなこと言えるわけない)
それでもそんなはしたないことを認めるわけにもいかず、ただ顔を横に振るしか出来ない。
「今日は、嘘ばかりだな。
……俺は他でもない恋人の要望に応えるために、望むことならどんなことでも応えたい。
そう思っていたが、こんな仕打ちはとても辛いな」
罪悪感を上手く転がすように、後ろめたさを植え付けてしまえば梅歌はもう謙信の掌の上だった。
「それは……ごめんなさいッ!!
私は、ど、どうすればいいですか……?」
「……そうだな。素直に口にしてみればいい」
「……?」
「甘く痺れる感覚がしましたと……」
「い、言えません!!そんな、下品なことを」
「俺が聞きたいと言ってもか……。そうか、それなら俺にも考えがある」
謙信は自白させるために、強行手段に出る。
自身の上へと跨らせ、拘束するように足は梅歌の腰へと巻き付けた。
さらに体を密着させ、絶対に逃さないように足で締め付けていく。
「無理です!!だって……」
(営みの経験は一つもないし、私のこの気持ちはきっと醜いと思われてしまうから。
でも、謙信様は……それを受け止めようとしてくださってる。でも、まだ記憶が戻ってないのにいいの?)
無音の中。
くっついた胸から聞こえる互いの心拍数に、耳を塞ぎたくなる。
何故なら恥ずかしくて行き場を失ったこの欲を、より募らせるからだ。
「あ、ぅ足!ど、どけて、退けてください!!」
「駄目だ、白状するまでこのままだ。
……俺はそれでも構わない。むしろこのままアンタの体温と肌感を、ずっと感じていたいくらいなんだ。
離れるだなんて、許さない」
「……え?」
(謙信様も……?私だけじゃなくて?)
ーー信じられなかった。
いつも余裕があり、どこか少し天然で抜けていて、人気ストリーマーで、みんなの人気者で、カッコよくて……。
それは前世でも同じだ。
でも、今はその記憶が空っぽで抜け殻だ。
ずっと雲の上の存在であるんだと、自分とは釣り合わないと、もうあの日の彼は居ないんじゃないかと諦めに似た気持ちを隠しながら接してきた。
その罪悪感が、梅歌をこうさせてしまう。
それを、あろうことか謙信は曝け出していいのだと。同じ気持ちでいるのだと、言ってくれた。
それが何よりも嬉しくて、でも自惚れたくなくて、その一歩は未だ踏み出せない。
(それすらも、謙信様にはお見通しなんだろうな……。
ずるいよ……。
でも、このまま本音を言えずに後悔するのも嫌だ)
何もかも、今日このハロウィンのせいにして。
恥じらいからその先へ進むために、勇気を振り絞る。
「……私は、貴方とならもっと深く甘く繋がりたいと……本当は、そう思うのです。
でも記憶がないまま、そこまで踏み込んでいいのかと……自惚れてはいないかと怖いんです」
「……よく言えました。
告白すると俺はむしろ梅歌ではないと、駄目なんだ。
全くどうしようもないくらいに、今すぐにでもその性を暴きたくなってしまう。
そんな俺を怖いと思うか?」
「いいえ!!謙信様を怖いなどとは思いません!むしろそれは、ほ、本当ですか?」
「あぁ、無論だ」
「……ッ!!」
「ふふ、やっぱり期待しているのか?耳まで、真っ赤だ」
まるで沼から自力で這い上がれない。
そんな彼の無自覚な愛と鞭の匙加減に、ドロドロに溶かされていくーー。
「もう俺の昂りが隠せなくなっているのがわかるか?」
「は……い」
「……嫌がることをするつもりはないが、どうかお前の全てを余すことなく感じさせて欲しいんだ」
「……!!
嫌がるだなんて無いです!
むしろ、そう言っていただけてとても……とても幸せなんです」
彼の胸に頭を預けて、自分も同じ気持ちであることを行動で示す。
(謙信様の鼓動も、肯定してくれているようで……嬉しい)
「あまり、俺を困らせないでくれ……。
本当に、止められなくなる」
そんな梅歌の後頭部を、ゆっくり髪を梳かすように撫でる。
その手は、ゆっくりと耳へ流れつくとその縁を優しく辿るように何度も徘徊した。
「ッぅ……」
「……お前が引け目を感じていたことは知っていたんだ。だから、全部俺のせいにしてもいい。
俺を恨んだって、憎んだっていいと思った。
その代わりもっと、もっと俺に溺れろ。
逃げられないところまで、とことん俺に堕ちろ梅歌」
限界を迎えて、まるで噛みつくような口付けを一身に受け取る梅歌の体は、幸せに震えていた。
熱く吐き出される吐息と、赤く染まりきった頬に、潤む瞳は謙信の独占欲をより掻き立てる。
羞恥心の仮面を引き剥がされ、重なり合う柔らかな体温で理性は溶かされていき。
この人からの愛情には、抗えない。
我慢すると我慢などするなと、甘く深く堕とされてしまうからだ。
「あぁ、なんて愛しいんだ。
ん……っ、一生忘れられないハロウィンになるよう、とことん体に刻み合おうか」
今宵はハロウィンーー。
虎の牙を隠し持っていたナース姿の彼に、翌朝まで、とことん愛を刻まれていくのでした。
ーーしかし、自ら枷を所望していることにすら気付かぬまま。
翌朝。横で眠る恋人の寝顔を眺めながら、彼はカメラのシャッターを何度も切っていた。
「……あぁ。無防備に、俺にだけ見せるその表情を、何度でも思い出せるように……今度は忘れないよう」
まるで、優越感に浸りながら彼女の頬に垂れた髪を耳にかけた。
「もう一人の俺さえ知らないアンタを、俺は知っているんだ。
……だから、もっと。
梅歌が俺を素直に求めるよう、教え込むまでだ」
何度も何度も、眠る彼女にキスを落とす。
それは全身に渡り余すことなく彼女の全てを掌握し、その証拠を残すように痕をつけた。
何よりも虎白の方に心を許したのだという、謙信へ向けた宣戦布告でもある。
そんなこと知る由もない梅歌は、ただ深く心地のいい夢に全てを委ねていたーー。
ご覧くださり、ありがとうございました!




