↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異形頭のダンデライオン ~異形の『美味しそう』なお嬢様は人外執事のご主人様~  作者: 石動なつめ
第5節 お嬢様と異形の同僚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/50

#25 ため息ばかり吐いていると


 それは巨大なコウモリの姿をした異形だった。

 膜のように薄い翼を羽ばたかせ、足先まである長い両手をだらんと垂らしている。異形の顔には目も鼻もなかったが、大きな口だけはついていて、気味の悪いニタニタとした笑みを浮かべていた。


「おや、お出ましのようですね。こうも早く出てきてくれるとは、幸先が良い」


 ダンデはそう言うと、淡く緑に光るサーベルを出現させ、手で掴んだ。そのままスッと軽く振れば、サーベルの光が空中で軌跡を描く。それはまるで流れ星のようだった。


「ごはん おいしそう」


 そうしていると異形が再び言葉を発した。

 異形はダンデやリカントには目もくれず、まっすぐに五十鈴だけに顔を向けている。

 そいつには目がないはずなのに、五十鈴はその異形から、体に纏わりつくような嫌な視線を感じた。獲物として――餌として自分を狙う眼差しに、本能的な恐怖が刺激され、首の後ろにぞわぞわと悪寒が走る。


「怖ぇなら、向こうの世界で待ってりゃいいのに……」


 リカントがため息交じりにそう言った。

 呆れたようなその声に五十鈴はハッと彼の方を向く。


「こ、これがわたくしのお仕事ですから!」


 五十鈴はムッとして言い返す。

 出会った時からチクチクと突っかかられて、さすがにちょっと嫌だったのだ。


「…………そーかよ」


 すると意外なことに、彼はちらりと五十鈴を見遣り、素っ気なくそう言うだけだった。

 嫌味なり怒鳴りなりが返ってくると思っていた五十鈴は、ポカンと拍子抜けしてしまう。


「……何だよ、その顔は」

「カウンター待ちでしたの」

「…………」


 五十鈴が素直に答えると、リカントは嫌そうに顔をしかめた。そして付き合ってられるかと言わんばかりに小さく息を吐くと、腕を組んでダンデの方へと顔を向ける。


「おい、ダンデ。手は貸さねぇぞ」

「もとから数に入っておりませんので、結構でございますよ」

「おいコラ、てめぇはひと言もふた言も多いんだよ」

「性分でございますから。――ああ、そうだ。ただ見ているだけでお暇ならば、お嬢様の身の安全を確保していただけると助かります」

「はあ? 何で俺が……」

「お嬢様を異形からお守りすることは、オーナーから(・・・・・・)の厳命でもあります。あなたがフロストに戻りたいのならば、恩を売っておいた方が良いでしょう」

「…………分かったよ」


 難色を示していたリカントだったが、アルヴェアーレの名前が出たとたんに、苦虫を噛み潰した顔で頷いた。

 彼の返事を聞いたダンデは「よろしい!」と機嫌の良さそうに笑う。


「五十鈴お嬢様。リカントは口も態度も悪い男ではありますが、腕は確かでございます。ですので安心してくださいね」

「はいですの! ダンデさん、頑張ってくださいまし!」

「ああっ、元気が出る……! ふふ、ふふふ、ははははっ! それでは行ってまいります!」


 ダンデは高笑いを響かせ、異形の方へと向き直る。そしてトンッと軽く地面を蹴り、高く跳躍した彼は、次の瞬間には異形の目の前にいた。そして異形に何か行動させる余裕など与えずに、その左の翼を斬り落とす。異形の口から「ギャッ」と短い悲鳴が上がった。


「すごい……」


 瞬きの間に起きた出来事に、五十鈴は驚き入る。

 空中戦なら相手の方に分があるはずだが、ダンデはそんなハンデなど物ともせずに異形と渡り合っていた。こういうことに詳しくない五十鈴でも「何かすごいことが起きた」と分かるくらい、ダンデの動きは鮮やかだ。


「相変わらず嘘みたいな戦い方しやがるなぁ……」


 五十鈴と同じくダンデの戦いを眺めていたリカントが、ぼやくようにつぶやいた。声からは棘が抜けきっていないものの、彼なりに褒めているのだろう。

 そう思った五十鈴が目を細くして小さく笑うと、リカントの耳がぴくりと動いた。彼は五十鈴をじろりと見下ろして、口を尖らせる。


「あんだよ」

「何でもありませんわ」

「…………」


 五十鈴がにこっと微笑むと、リカントは眉根を寄せる。ややあって、本日何度目かになるため息を吐いた。


「ため息ばかり吐いていると、幸せが逃げてしまうらしいですわ」

「何だそりゃ。ため息はリラックス効果もあるって、オーナーが言ってたぞ」

「あらまぁ、アルヴェさんが。そうでしたの、うふふ」

「……あんだよ、その反応は。オーナーの言葉を疑ってんのか?」

「いいえ、そんなことはありませんわ。ただリカントさんは、アルヴェさんのことが好きなんだろうなって思いまして」

「ばっ!? ばばば、馬鹿お前! す、好きってそんな、何を……っ!?」


 リカントは目をカッと見開いて慌てふためく。

 その分かりやすい反応に、五十鈴はあらまぁと目を丸くした。


(アルヴェさんから解雇されたとは伺いましたけれど、リカントさんは彼女に悪い感情は抱いていなさそうですわね)


 リカントは仕事で問題を起こして、それが原因でカフェ・フロストを解雇された。その話がダンデの口から出た時に、リカントは否定しなかったので、それは事実のだろう。


 けれどもそのことで彼はアルヴェアーレを恨んでいない。解雇されるくらいの何かがあれば、雇い主のことを話題に出す際には、少なからず気まずさを覚えそうなものだが、リカントにはそれがなかった。むしろ今もアルヴェアーレを尊敬している風な印象もある。


(お金がないからとは仰っていましたけれど、フロストに戻って来た理由はもしかして……)


 そんなことを五十鈴が考えていた時、突然リカントに腕を掴まれ、彼の方へと引き寄せた。

 五十鈴が「わっ」と吃驚した次の瞬間、彼女が立っていた場所目掛けて、空から黒い槍が落ちてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。