④忘れものを探しに
風薫る五月。今日から待ちに待った連休が始まる。俺が最も好きな時季の到来である。
新学期が始まり、ありったけの労力を使った一ヶ月。その後の連休は頑張った俺への最高のご褒美だ。
俺は車を走らせている。向かう先は俺が生まれた町だ。
親に聞いたところ、ここから三時間ほど車を走らせた場所にその町はある。
相変わらず、そこで過ごした記憶や思い出は全くない。
でも完璧だ。通っていた保育園や小学校の場所、よく遊んでいた公園まで詳細に情報を得た。
何度も見る夢が妙に気になってはいたが、それ以上に期待が俺の心を踊らせた。
そこに行けば、忘れていた何かを思い出すかもしれないという期待だ。
二時間も車を走らせるとだいぶ景色が変わり、ちらほらと田植えの光景が目に入る。
そして視線を遠くに向けると、雄大な山が連なって見える。俺は目的の方角に目をやった。
「よし!あっちに見える山の方向だな」
走る車の窓を少し開け、車内に吹き込む温かい風を感じた。
――どれくらい車を走らせただろうか。
気がつくと太い杉が両脇に立ち並び、くねくねと急な峠を登っていた。
空は驚くほど青いが、林の中に目をやるとじめじめした不気味な薄暗さを感じる。
連休なのに殆ど車に会わないな……。
どんだけ田舎なんだよ。
目的地まであと二十分くらいか……。
そんな事を思いながら峠の頂に差し掛かると景色が開け、ぱっと視界が明るくなった。
少し先に小さな見晴らし台が見え、そこに車を停めることにした。
車を降りると、絶景が広がっていた。
谷を挟んだ向かいの山には、遅咲きの山桜が一面に山肌を彩る。
時折響く鶯の声。まだ春が居座っている森林の香りが、少し冷たい風と共に吹き抜けて行く。
「最高過ぎ!」
この開放感を味わいながら、大きく背伸びをした。
遠くの山裾に目をやると、まさに自分が目指していた町が見えた。想像していた通りとても小さな町だった。
あそこが俺の生まれた町か……。
よし、行くか……!
逸る気持ちを抑えて、鮮度の良い空気を目一杯吸い込んだ。
それから車に乗り込もうとしたその時。道脇の傾斜に並ぶ、ボロボロの石段が目に入った。
やけに気になる。一度車のドアを閉め、俺はその石段に向かった。
鬱蒼と立ち並ぶ杉の間に這う石段。それを縫うように見上げると、苔むした石の鳥居が見える。
神社か……?
じっと覗き込んでいると、サッと黒い影が鳥居の陰に隠れるのを見た気がした。
なんだ……今の。気のせいか?
いや、絶対に何かが居た。
隠れたものの正体を突き止めたい衝動が走った。
明らかに鳥や獣ではなく、こちらの様子を窺っていた何かが、意図的に身を隠したのが分かったからだ。
行ってみるか……。
俺は一段ずつ慎重に確かめながら足を乗せていった。
日が当たらない石段は苔で滑りやすい上に、半分割れて不安定な場所もある。まだ半分も登っていないのに、何度も肝を冷やした。
更には四方八方に伸びた枝は、あたかも俺の侵入を拒んでいるようだった。




