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⑬新しい思い出

 のどかな鶯の声が辺りに響くと、俺は目を覚ました。

気が付くと、見晴らし台にある丸太のベンチでなぜか横になっていた。

「あれ……おかしいな。俺いつの間にこんな所で寝たんだろ」


 それにしても今日は、最高にいい天気だった。優しい風が、小さな雲をゆっくりと運んでいた。

そんなのどかな空を、しばらくぼーっと眺めた。


 体を起こし立ち上がり、大きく背伸びをしたその時。道脇の傾斜に並ぶ、ボロボロの石段が目に入った。

やけに気になる。俺は呼ばれるように石段に向かった。

鬱蒼と立ち並ぶ杉の間に這う石段。それを縫うように見上げると、苔むした石の鳥居が見える。


神社か……?


すると鳥居の奥からリーンと風鈴の音が聞こえてきた。

その音色はとても澄んでいて、綺麗な音だった。静かなこの場所を、まるで優しく癒しているようだった。

「この神社。なんか、やけに懐かしい感じだな……。もしかして妖怪が居たりして」

そう言ってくすっと笑った。

 

 その時、ポケットにあった電話が鳴った。母親からだった。

「もしもし。……そう。もう帰るところだよ。……うん、それがさ聞いてよ……」

俺は車に戻り、母親に今回の旅の報告をした。


峠の見晴らし台から眺めた景色の話。小さい頃の思い出を探しに町を歩いた話。だけど何も思い出せなかった話。

町で美味しい食堂に入った話。町の人たちが親切だった話……。


 今回の一人旅では、結局子どもの頃の記憶は全く思い出せなかったが、俺にとっては最高の気分転換になった。

そして、ここで見た景色や町で出会った人たちは、俺の新しい思い出になった。


――だからいつかまた、俺の生まれた町へ帰ろうと思う。

 

「よし、帰るか」

俺は車のエンジンをかけ、名残惜しいこの場所を後にした。

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