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ヒロインだけど出番なし⭐︎  作者: あまいちよこ


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3/3

僕は第三王子

僕はルシアン


七歳年上の正妃を持つ身で、その人の名はアリエル様という。




ここは大陸北部に位置する王国アルクレシア


この国では、王位継承権を持つ王子には「仮婚制度」が課される。


それは、王子が未成年のうちに政治的均衡を保つための保険であり、国家の安定を優先するために作られた制度だ。




どうしてこうなったのか、正直自分でもよく分からない。


いや、正確に言えば「どうして自分の心がこうなったのか」だ。




もともとこの婚姻は、王家とある公爵家との均衡を保つための政略だった。


仮婚は本来なら一時的な婚姻で、僕が成人すれば解消される可能性も高い。




候補者は数名いた。


貴族階級、年齢、血縁、派閥、他国との関係性。


無数の条件をふるいにかけた結果、選ばれたのが、なぜか隣国出身の令嬢であるアリエル様だった。




成人すれば解消される―誰もがそう思っていた。


けど僕にとっては、仮婚なんかではない。




初めてアリエル様を見た日のことを今でも覚えている。


十三歳の誕生日の朝。


仮婚約の儀で初めて顔を合わせたとき、彼女は淡い青のドレスに身を包み、まるで氷の精霊のように静かに微笑んでいた。




「よろしくお願いします。ルシアン殿下」




その声は落ち着いていて、どこか寂しげだった。




政略の駒として選ばれた他国出身の彼女が、誰よりも状況を理解し、誰よりも静かに受け入れていることが、幼い僕にもはっきりと伝わってきた。




その瞬間、胸の奥で何かがはじけた。


陰のある笑みを浮かべる彼女に、僕はただ息を呑むしかなかった。


そして、その顔を二度とさせたくないと思ったのだ。




それからの日々、僕は彼女に会うたびに感情を揺さぶられる。


彼女が笑えば嬉しい。


困った顔をすれば慰めたくなるし、その理由を消してしまいたくなる。


そんな感情が胸の奥に湧くたび、僕は確信する。




ああ、僕は完全にアリエル様の虜なんだと。




ただ一つ、どうしても拭えない問題がある。




僕は十三歳、彼女は二十歳。




数字上では子供と大人。


どうしても「年下扱い」されてしまう。




「ルシアン様は、よく頑張りますね」




その言葉が嬉しくて、胸の奥が熱くなる。


同時に、どうしようもない悔しさも生まれる。




僕は、いつまで彼女の「可愛い弟」のままなのか。




背丈は彼女よりも低い。


教養や経験でも、まだ勝てない。


彼女にとって、僕は守るべき存在。




けれど僕にとって、アリエル様は―守りたい人だ。




どうすれば、彼女の目に「男」として映るのか。




彼女の好きな花の花言葉を調べ、花を捧げた。


彼女の好きな紅茶を、香りから選び抜いた。


詩集や口説き文句集を読み漁り、立ち居振る舞いも、言葉遣いも、すべて磨いた。




子供の背伸びだと笑われても構わない。


それでも、何もしないよりはずっといい。




けれど、アリエル様はいつも笑ってかわす。




「そんな十三歳いやだ!」




冗談めかした声。


けれど、その奥にある距離を、僕は確かに感じ取っていた。




大人と子供の間にある、超えられない境界線。




だから、あの夜。


僕は「苦渋の決断」をした。




本当は怖い夢なんて見ていない。


彼女に「子供扱い」されるのは嫌だ。


かといって正面から「同じ寝台に入りたい」なんて言えば、彼女はきっと優しく笑って拒むだろう。




だから僕は、震える声を作った。




「……怖い夢を見ました。隣で寝てもいいですか」




心臓が痛んだ。


自分の策略が卑怯だと分かっていたからだ。


それでも、彼女に近づきたかった。




アリエル様は驚き、少し戸惑い、そして受け入れてくれた。




「仕方ないわね。こっちにいらっしゃい」




その声が、あまりに優しくて。


僕の中の打算は、すべて溶けてしまった。




寝台に潜り込み、髪を撫でられる。


「可愛いな、このやろう」という呟きが、胸に刺さる。




僕は成功した。


けれど同時に、自分の弱さも知った。




大人のように振る舞いたいと言いながら、


今はまだ、子供の武器でしか近づけない。




それでもいい。




彼女の中で「弟」から「夫」になる、その瞬間まで。


僕は何度でも策を弄する。




アリエル様の温もりの中で、僕は誓った。




いつか必ず、真正面からあなたを振り向かせる。




だから今は、眠ったふりをしよう。


この温もりを、もう少しだけ―。




アリエル様


いつかその「可愛い」を「愛しい」に変えてみせる。



待っててくださいね。

僕の正妃様。


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