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昼を夢みる人

作者: イプシロン
掲載日:2025/11/19


 ――来たる、来たる、来たる。

 惑星二ヒターに百年に一度の昼が来る。

 この星に住む人々は昼を知らない。その存在を語り継いできたのは、盲目の吟遊詩人たちだけだった。

 ――詩は歌う。


   星を燃やす星、来たれる

   人も動物も、草木さえみな昼を見た

   だが、誰も憶えていない

   百年に一度の驚異を!

   われら吟遊詩人たちは歌う

   歌わずにいられぬのだ


 惑星系科学者たちの発表によると、昼は一時間後に訪れるという。老いも若きも男女も、子どもたちも、落ち着かず浮き立ち、そして不安に震えていた。

 都市部では住宅や工場、学校の扉が一斉に開き、人々を外へ吐きだした。

 郊外も田舎も同じで、外へ出られない者は窓を開け、それも叶わない者たちは、特別番組のXR&BMI放送に接続した。

「みなさん! ついに、ついに30分を切りました! 呼吸を整えてください、心の準備は……できていますか!?」

 上ずった実況アナウンサーの声が、体感画面に重なる。

 映像には、誰も見たことのない白いものが滲みはじめていた。他の惑星系からの画像データで、それが恒星セイコーフォスだと知る者は、科学者の中でもほんのわずかだった。


 二ヒターに、初めての朝が降りはじめた。

 やがて朝は神々しい昼へと移り変わる。その瞬間、各地で耳を聾する悲鳴が上がった。

 恒星セイコーフォスは止まらない。二ヒターの自転と絡みあいながら、数分で惑星表面を駆け抜け、全土に昼をもたらした。

 しかし、それ見た者は一人もいなかった。それを見た者は一瞬にして視力を奪われたからだ。

 数時間後、二ヒターに夜という日常が戻った。昼のことを語る者はいなかった。

 ――農村の母子を除いて。


「ママ、昼見えなかったね」

 幼い少年が、手探りで母を探しながら言った。

「ママは見たわよ。あなたも、見えたでしょう?」

「なんとなくね。……詩人さんたちの伝承は嘘じゃなかったんだね。――ぼく、あの詩まだちゃんと憶えられていない。ママ、教えてよ」

 母は子どもを胸に抱き寄せ、頬を寄せたあと、静かに歌いだす。


   星を燃やす星、そのとき来たれる

   人や動物や、草木にさえ昼をもたらしに

   だが、誰も何も知らず憶えなかった

   百年に一度の驚異と奇跡は失われた

   盲目の吟遊詩人たちは悲しみのなか歌う

   涙ながして歌わずにいられぬのだ


   来たる、来たる、来たる!

   我らに見えざるもの、セウスの名において!


 惑星二ヒターに、昼を必要とするものは少ない。

 百年の夜を生きる種族にとって、昼などほとんど意味をもたないのだ。

 だが、その少年は、死ぬまでその詩を歌い続けたという。

 彼にとって、見えぬものこそ心を揺さぶるものだったのだろう。


               ――完――

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