昼を夢みる人
――来たる、来たる、来たる。
惑星二ヒターに百年に一度の昼が来る。
この星に住む人々は昼を知らない。その存在を語り継いできたのは、盲目の吟遊詩人たちだけだった。
――詩は歌う。
星を燃やす星、来たれる
人も動物も、草木さえみな昼を見た
だが、誰も憶えていない
百年に一度の驚異を!
われら吟遊詩人たちは歌う
歌わずにいられぬのだ
惑星系科学者たちの発表によると、昼は一時間後に訪れるという。老いも若きも男女も、子どもたちも、落ち着かず浮き立ち、そして不安に震えていた。
都市部では住宅や工場、学校の扉が一斉に開き、人々を外へ吐きだした。
郊外も田舎も同じで、外へ出られない者は窓を開け、それも叶わない者たちは、特別番組のXR&BMI放送に接続した。
「みなさん! ついに、ついに30分を切りました! 呼吸を整えてください、心の準備は……できていますか!?」
上ずった実況アナウンサーの声が、体感画面に重なる。
映像には、誰も見たことのない白いものが滲みはじめていた。他の惑星系からの画像データで、それが恒星セイコーフォスだと知る者は、科学者の中でもほんのわずかだった。
二ヒターに、初めての朝が降りはじめた。
やがて朝は神々しい昼へと移り変わる。その瞬間、各地で耳を聾する悲鳴が上がった。
恒星セイコーフォスは止まらない。二ヒターの自転と絡みあいながら、数分で惑星表面を駆け抜け、全土に昼をもたらした。
しかし、それ見た者は一人もいなかった。それを見た者は一瞬にして視力を奪われたからだ。
数時間後、二ヒターに夜という日常が戻った。昼のことを語る者はいなかった。
――農村の母子を除いて。
「ママ、昼見えなかったね」
幼い少年が、手探りで母を探しながら言った。
「ママは見たわよ。あなたも、見えたでしょう?」
「なんとなくね。……詩人さんたちの伝承は嘘じゃなかったんだね。――ぼく、あの詩まだちゃんと憶えられていない。ママ、教えてよ」
母は子どもを胸に抱き寄せ、頬を寄せたあと、静かに歌いだす。
星を燃やす星、そのとき来たれる
人や動物や、草木にさえ昼をもたらしに
だが、誰も何も知らず憶えなかった
百年に一度の驚異と奇跡は失われた
盲目の吟遊詩人たちは悲しみのなか歌う
涙ながして歌わずにいられぬのだ
来たる、来たる、来たる!
我らに見えざるもの、セウスの名において!
惑星二ヒターに、昼を必要とするものは少ない。
百年の夜を生きる種族にとって、昼などほとんど意味をもたないのだ。
だが、その少年は、死ぬまでその詩を歌い続けたという。
彼にとって、見えぬものこそ心を揺さぶるものだったのだろう。
――完――




