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15 タイミング

 胡散臭く感じていたはずの瞑想は、すっかり私の生活の一部になった。

 心がざわつくとき、濃いもやに包まれたとき、焦らずに呼吸に集中する。

 はじめのうちは難しかったけれど、少しずつ心をフラットにする方法が身についてきた。


 鏡を見ながら瞑想するわけじゃないから、実際どんなふうにもやが減っているのかは初回のときのものしか知らない。

 スマホで撮影することも考えたけど、気になって瞑想に集中できなくなりそうだったからやめた。

 だから、2度目のトレーニングで練習の成果を見せるよういわれ、少し緊張していた。


 5分の瞑想を終え、恐る恐る目を開けると「よくできました」と恭太さんが微笑んだ。



「ずいぶんとコンパクトにもやがおさまるようになったね」


「ほんとですか?!」


「うん、完全に消えはしないけど、ほら」



 そう言って、森川先生がスマホの画面を見せてくれた。

 今日のトレーニングからは、経過観察のために先生のスマホで撮影をすることになっている。

 本当はビデオカメラを用意していたらしいんだけど、調子が悪くうまく作動しなかったのだ。

 ずいぶん古いからなぁ、なんて先生が顔をしかめていた。


 画面の私の周りを包むもやは、普段の5分の1くらいにまで減っている。

 しかも薄い。



「すごいすごい!よく頑張ったわね!」



 そう言って、小春さんが飛びついてきた。

 その目には、うっすら涙が浮かんでいてびっくりした。

 大人しくその腕に抱きしめられていると「こらこら」と呆れた様子で先生が言う。

 小春さんはハッとした様子で「ごめん!」と言って話してくれた。


 こんな風に、ダイレクトに感情をぶつけてくれる人は珍しい。

 大体の人が、私に触れるのを躊躇するから。



「じゃあ、瞑想は今後も続けてもらうとして、次に行こうか」


「はい!」


「本当は瞑想よりもこっちが先だったんだけど」


「……へ?」



 さらりと言われて、つい間抜けな声を出してしまった。

 小春さんもぽかんとしていて、先生は苦笑いをしている。

 そんな中、凪さんがぽかっと恭太さんの頭を叩こうとして、軽く防がれていた。



「なんで防ぐのよ」


「いや、叩かれたくないし」


「そりゃそうだ」



 恭太さんの返答に、先生が笑う。



「だって、順番間違えたんでしょ?」


「間違えてない」


「でも」


「この子と僕は違うでしょ?」



 まっすぐに恭太さんに見つめられて、思わず息を呑む。



「次のステップは、もやの濃くなるタイミングを知ること」


「濃くなるタイミング?」


「そ。どんなとき、どのくらい濃くなるのかで、避けるべき状況が把握できるでしょ?」


「確かに」


「でもこれは、不安が付きまとった状態じゃあまり効果がない。小さい子どもならまだしも、彼女くらいの歳なら、先に瞑想でトレーニングの効果を実感させてからの方が効率的だと思ったんだ」



 そう言われて納得した。

 確かに、いつもやが増えるのか、もやを消せるのかわからない状態ではずっと不安が渦巻いて常にもやが増えた状態を維持することになっていたかもしれない。

 改めて恭太さんの配慮に感謝したが、疑問も残る。



「でも、どうやって判断するんです?自分じゃいまいちわからなくて」



 常にもやに包まれているため、多少もやの量が増えたところで気づける自信はない。



「だよね。そこが問題。親とべったりっていう年頃じゃないもんね」


「はい……」


「だからひとまず、自分でわかる範囲でやってみたら?細かく観察するのは無理でも、ざっくりと“ちょっと増えた”“ちょっと減った”くらいなら把握できるかもしれない。でも詳細は……」


「詳細は?」


「来週、伯父が帰国予定なんだ。そのときにいい方法がないか聞いてみるよ」



 恭太さんと凪さんの伯父さん。

 彼ももやとともに生まれてきたという。

 私は少しドキドキしながら、こくりと頷いた。

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