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9. 皇太子のまとめ

 聞き取りを行った応接室は証拠保全の為に閉鎖された。その隣の小さい応接室で、ようやく私は座らせて貰えた。多分王城の侍女とおぼしき使用人がお茶を入れてくれた。そして男達の中で私が一人にならない様に、レノックス家の侍女のヘレナが後ろに控えていてくれる。用意万端な事だ。バートが私に話かける。

「そろそろ構図が見えて来ただろ?」

「私に分かるのは、調査が済んだからバートと私を餌に表と裏の首謀者を釣ろうとしたという事だけ」

「上出来だ」

皇太子エドガーが話を続けた。

「迷惑をかけたがおかげで一先ず首謀者の一部を捕らえられた。ありがとう」

「いえ、殿下のお役に立てて光栄です」

そこでバートが茶々をいれる。

「そうは思ってないだろ?」

「ちょっと迷惑とは思ったけど、それはバートの事だから」

「お褒め頂き光栄だ」

「褒めてない」

皇太子が苦笑いしながら話を続ける。

「バートと話をした時に出た様だが、ナディア嬢の悪評の出所と教会は無関係だ。またボーフォート家からは告発が無かったが教会からは告発があり、ここまで動いていたんだ」

「ケイリー嬢に言ってあげればよろしかったのに」

「もう、彼女は教会が悪と使嗾されているから何を言っても聞かないさ」

「使嗾?」

「そう、今回は計画的に扇動が行われている。その絵を描ける様な経験はケイリーにはない。本当はその絵を描いた者を捕らえたかったんだが、ケイリーがあれだと聞き取るのは無理だな」

そこで皇太子がバートを見る。そうしてバートが話を続ける。

「分かりやすい扇動のパターンというのがあってな。まず分かりやすい敵を作る。それを憎悪させる。この段階で敵の足元を貶めて発言の信頼性を無くすか、または自分達の批判者の足元を貶める。民衆の目を塞ぎ耳を塞ぐのは洗脳の基本でもある。その後に小さいグループを作って共同作業をさせる。今回はそれが場所を分担しての噂の拡散だな。そうすると仲間意識が出来て、もう敵グループ対味方グループという意識となる為、味方側が多少無茶をやっても文句を言わなくなるんだ。巻き込まれた連中がな。こうなるともう敵を攻撃する事しか考えなくなるから、元の問題は話に上がらなくなるんだ」

「つまり教会が本当に悪評を広めていたかどうかとか、ナディア嬢が聖女を虐めていたかどうかから論点をずらされる」

「今回はそうだな。だから分かったろ?」

「ケイリーすら表の首謀者で、裏の首謀者は多分ナディア嬢の悪評を流した連中という事?」

「そこまでは分かるんだけどな。本当にそいつがこんな扇動を裏で操っていたかは不明だ」

「扇動っていうのは貴族よりむしろ革命家の手法だから?」

「そういう事だな」


 ここで再度皇太子が口を開いた。

「そういう事で、とりあえず教会から告発のあった事件の首謀者として4人を発表して、この件は終わりになる。多分4人は勘当されるだろう。その後、監視を付ける」

革命家の知識を知ってしまったのだから、当然危険人物扱いになるだろう。もっともバートの意見は少し違った。

(こいつは甘いからこれで一段落だろうが、教会の悪評が広まり始める頃にケイリー・ヒュームに接触した人間は全員監視対象だ。宰相に名簿を出してあるし、向こうでも調べて、適当なところで処分する様に動くだろ。皇太子の治世に不安材料を残せない)

「ナディア嬢の悪評を広めた者は分からずじまいなんですか?」

「ああ、そちらは宰相の方で調べが付いている。今回の問題が公表された直後に発表する予定だ」

じきに分かる事なら聞かないでも良いか。そう思ったらバートが教えてくれた。

「婚約者争いと派閥争いの複合だ」

「つまり西部の派閥争い絡みと」

「そう。だからナディア嬢は結局、皇太子の婚約者候補から外れる」

派閥争い絡みで皇太子の婚約者とならない様に貶められたと。しかもそれをボーフォート侯爵は自発的に解決しようとしなかったのだから、ボーフォート侯爵はその無能さで王家の外戚にはふさわしくない。そうなるとナディア嬢は王妃どころか良縁から見放される事になる。王家が無能とみなした貴族と縁戚になっても貴族としてはうまみがないのだから。


「そういう訳だ。楽しかったか?」

バートは言うが、淑女としては危険が過ぎた。

「もうちょっと安全なら楽しかったかもしれない」

「そうか、じゃあ次はもう少し敵が少ない話題を調べよう」

「え、これで終わりじゃないの?」

「何言ってるんだ、皇太子の周りには相談事が一杯だ。暇つぶしはしばらく続けられるぞ」

「いや、別に暇じゃないけど」

「今から用はあるのか?」

「ないけど」

「じゃあ、今から調べよう!」

と言ってバートは私の手を握って引っ張っていく。


 …楽しかったというか、この手の温もりがすこし惜しい。そうして早足で歩いて行く二人に侍女のヘレナが付いて行く。レノックス家は子息の教育に成功したかは分からないが、侍女の教育はいき届いている様だ。

 お読みいただきありがとうございました。


 個人的なメモを読み物仕立てにしただけで、お蔵入りする予定でしたが色々思うところがあり投稿してみました。何等かの理由をつけて誰かを悪者に仕立て上げれば支持してくれる仲間が増えると思っている人が多すぎます。

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