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7. 聞き取り

 私達を追ってきた男女は、本館の大講堂に集められた。講堂の舞台上では演台の後ろに皇太子エドガーが座り、バート・レノックス侯爵子息と私は舞台の片隅に立たされている。後で度々証言が求められるのだろう。

「さて、伝家の宝剣を持ち出した、という事は、私が陛下に代わって判断をするという事だ。異論があれば後日、貴族院にて起こされる法廷にて申し立てよ。また、公証役人を4人連れてきている。ここでの発言は記録され、裁判上の証拠になる。よって偽証は罪になると心得よ。」

集まっていた男女は顔が青くなった。そろそろ正気に戻ったんだ。群集心理恐るべし。侯爵子息を害しようとしたのだから。


 皇太子エドガーが聞き取りを始めた。

「では、バート・レノックスと話をしていたマイルズ・グレイ、前に出よ」

皇太子だから同年代の貴族の顔と名前を全部覚えている、そういう事もあるだろうが、この場合は目を付けられていたと判断すべきだろう。名前を呼ばれてマイルズは真っすぐ歩けなかった。舞台に上げられ、人々の前で皇太子の質問に答える事になった。

「まず、お前がバートに主張しようとしていた事を明らかにせよ」

お前、と呼ぶ事で一般の証人でなく、容疑者扱いである事を皇太子はマイルズに示しているのだろう。怖っ。

「ナディア嬢の悪評は教会が流した誹謗中傷であり、それを抑える為にナディア嬢の友人に圧力をかけるのを止めて欲しいと言いたかったんです」

「バート、それに相違ないか?」

バートは答えた。

「薄汚い教会の肩を持つのは許せないという趣旨の発言を聞きました。それを判断した理由が、私がナディア・ボーフォート侯爵令嬢の友人に圧力をかけた事だと言われたと記憶します」

「マイルズ・グレイ、それに相違ないか」

「そういう内容の発言をした記憶があります」

「二つ確認したい事がある。一つは教会がナディア・ボーフォート侯爵令嬢に対して流言飛語を流した証拠はあるか?あるなら示せ」

「大規模に誹謗中傷を流せるのは多くの人の流れがある教会に決まってます!」

「お前らも大規模に誹謗中傷を流せたな?教会以外でも誹謗中傷を流せる事はお前らが証明した。証拠は無いと言う様に記録するが良いか?後で証拠を示すとこの発言が偽証と扱われるから心して発言せよ」

「確証はありません」

「もう一つ、バートがボーフォート侯爵令嬢の友人に圧力をかけた、という証拠はあるか?誰に圧力をかけたかも述べよ」

「同じクラスのダーナ嬢に圧力をかけました。一人だけ呼び出して圧力をかけたんです」

「なるほど、一人だけで呼び出される事も、二人しかいない時に多数に囲まれる事も圧力になるという事だな?」

マイルズは汗をかいている様だった。

「一人だけ呼び出された方が圧力を感じる筈です」

「それをダーナ・ストーン嬢に聞いたのか?」

「小耳に挟んだだけで、直接は聞いていません」

「では本人に確認しよう」


 講堂の扉から騎士の後に続いて三人の女生徒が入って来た。ダーナ・ストーン、エリー・キルビー、レベッカ・バイロンの三人だ。三人は講堂の前の方まで連れてこられ、そこからダーナだけ舞台に上げられた。ああ、私がこの舞台上に立たされている意味が分かった。証人に偽証しない様に圧力をかける事が期待されているんだ。仕方がないので口元を少し上げて、冷ややかに笑っている風に見せよう。バートがちらっと横目で見た。これで良いんでしょう!?


 ダーナはちらっとこちらを見ながら通り過ぎて行った。青い顔をしている。

「ダーナ・ストーン嬢に質問がある。昨日、バート・レノックスに呼び出されたが、どんな会話をしたか述べよ」

「…聖女に関する悪評を流している者がいたら教えて欲しいという依頼でした」

「バートに圧力をかけられたという事実はあるか?」

「…ありません」

むしろ彼女の方が喧嘩腰だったとも言えるが、それは言いたくないだろう。皇太子の側近候補のバートが相手だったんだから。

「分かった、下がっていい」

ダーナは震えながら頭を下げ、舞台を降りて行った。


 そうしてマイルズ・グレイが再び舞台上に上げられた。

「そういう訳でバートがダーナ・ストーン嬢に圧力をかけたという事実は無い。お前の発言の根拠が無い事が分かったが釈明があるか?」

「こんな場所では言えないだけで、本心は違うだけです!」

「ほう、それを直接ダーナ・ストーン嬢から聞いたのか?」

「聞いていませんが当然じゃないですか!」

「聞いていないのだな?」

「…はい」

「では次の質問だ。バートが今日、あそこを通る事を誰から聞いた?」

「誰からも聞いていません。見かけたから追いかけただけです」

「お前の仲間が50人以上集まっているが、自然に集まったと言うのか?」

「そうです。皆、バートの圧力に怒っているんです!」

「それでは証言を求めよう。ミランダ・パーラー子爵令嬢、上がり給え」

ミランダ・パーラーは見たことがある。そういえば追ってくる女達の前の方にいたかもしれない。

「ミランダ・パーラー、あの集団は自然発生的に集まったのか?それとも事前に招集がかかっていたのか?」

「招集がありました。2年2組ではマイルズ・グレイ男爵子息が数人の男子に声をかけ、その男子から私に人集めの依頼が来て、数人に声をかけて来ました」

ミランダはあっさり白状した。皇太子に盾を突いて嫁の貰い手が無くなるのが嫌だったんだろう。そしてグレイ家は南部派閥の男爵家、パーラー家は南部派閥の子爵家。爵位の差もあり、事実を語る分には問題が無い。マイルズは下を向いてしまった。


 その後も証言に立った10人の女達はマイルズ・グレイ、ウォーレン・ルーカス、トミー・ウェインらに声をかけられた、とほぼ同じ事を言った。これって、個別に聞いた方が色んな人の名前が出たんじゃないかな。それとも、皇太子側は扇動グループを調査済で、主導者達を特定出来るだけの証言が集められれば良かったのか。バートがこちらをちらりと見て口元を上げている。だから他人の心を読んで笑うな!童顔の癖に!

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