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6. 圧力

 放課後にはソフィア・トレヒュー子爵令嬢と会う約束だった。過去形だ。2年の教室がある校舎から応接室のある本館に移動する途中、バート・レノックス侯爵子息と私は並んで歩いていたが、前後から人が集まって来た。立ちはだかる男達と、後ろから集まる女達。…そろそろ何か荒事になるのじゃないかと思っていたんだ。だってバートは昨日は容赦なくナディア・ボーフォート侯爵令嬢の友人達とぶつかっていたから。

「通路に立ちはだかるのは止めて貰えないか?いい年をしてマナーも知らないのか?」

バートはさすがに侯爵子息、不遜だ。確かに貴族には守るべきマナーがあり、侯爵子息より上位の貴族家の者はここにいる人達の中にはいない以上、バートの進路を塞ぐのはマナー違反だ。

「薄汚い教会の味方をしている奴がいると聞いてな、許せないと皆思っているんだ」

「お前らが気が違っているのは分かっているが、まともな奴は教会批判なんてしていない。皆、はお前ら一部の人間だけだぞ」

「教会の嘘を信じて、ナディア嬢を貶める悪党が何を言うか」

「俺がナディア嬢の悪口を言っているのを聞いた奴が誰かいるのか?」

「ナディア嬢の友人達に圧力をかけただろうが!」

「だから証人を出せと言っている。誹謗中傷は止める事だな。ナディア嬢を誹謗中傷した者を断罪するなら、お前らも公正であるべきだ」

「寄ってたかって一人の無実の女性を貶めておいて何を言うか」

思い込んでいる連中には話が通じない、と言ったバートの言葉は正しいね。

相手の話なんて聞きやしないよこいつら。ただ思いのまま断罪出来れば良いので、それなら根拠もなくナディア嬢を貶めていた連中と一緒だ。だから自分の価値観だけで誹謗中傷も断罪も出来る。まず証拠を探そうというバートの行動は正しい。不遜で喧嘩を売っている様にしか見えないが。


「寄ってたかって証拠もなく一人の無実な男を貶めている奴の言葉じゃないな」

「お前ら二人だろうが!」

「ナディア嬢の友人達には言ったぞ?この娘は呼び出した女性に悪い噂が立たない様に立ち会っているだけで俺とは無関係だ」

「言い逃れするのか!」

汚いぞ、卑怯者、嘘つき、とはやし立てる前後の人間達。うん、ちょっと危険な状態だ。侯爵子息に危害を加えるつもりかもしれないし、巻き添えを食ったらどうしよう。


 その時、私の左に立つバートの右手が私の左手を掴んだ。なんか固い手だし、乾燥している気がするが、温かかった。

「逃げるぞ!」

「あ、やっぱり」

通路から外れて校舎間を走って行く。バートは私の手を引いて走るが、ついていけない程の速さではなかった。ここはバートの野生の勘に賭けるしかないのか。二日目で荒事になるなんて考えていなかったもんな~。


「追え!」

男達は追って来るし、その後を女達もついてくる。飽きない奴らだなぁ。

バートは校舎を回って校舎裏の雑木林の方に走って行く。

出来れば馬車の方に走って欲しかったなぁ…

「どうするの!?」

「どうにかするさ」

だったらどうするつもりか教えてよ!この人凄い勝手だよ!雑木林の合間の噴水の前のベンチでバートは一息ついた。

「大丈夫か?」

「こんなところで立ち止まっていると大丈夫じゃない気がするけど!?」

見る間に男達も女達も追いついて来る。

「あははは!逃げても無駄だぞ」

バートはしれっと言う。

「無駄かな?」

「もう学院の生徒の過半数は聖女と教会が悪だと気付いている!未だにそれを理解出来ない馬鹿者が何時までものさばっていられると思うなよ」

「そうか、過半数が真実を読めない馬鹿者なんだな。楽しい話だ」

「テメェっ」

数人の男達がバートに向かって走って来た。


 そこに大剣を手にした男が金髪をなびかせて間に入った。

「そこまでだ!この王家の伝家の宝剣の前で無実の者にリンチをしようと言うのなら、剣の錆にしてくれる!」

さっきから気配がしていたのはまさかの皇太子エドガーだった。伝家の宝剣を王城から持ち出さないでよ!それ罪になるんじゃないの!?

「ああ、あの剣なら陛下に許可を貰って持ってきているから大丈夫だ」

バートが言うが、何でこっちの思ってる事が分かるのよ!

「お前ならそっちを気にすると思ってな」

だから心を読んでるみたいに話さないでよ!


 王太子の登場に一堂は怯んだが、兵達が周囲を取り囲んだ為、逃げられなかった。つまりこれは罠で、私達は餌だったんだ。

「先に話をしてよ!」

「怖がって逃げてくれないと餌にならないんだよ」

だから勝手に餌にするな!

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