4. 調査(2)
応接室にはもう女生徒が待っていた。エリー・キルビー男爵令嬢、ナディア嬢と親しくしていたらしいが、今は距離を取っている筈だ。
「どのような御用でしょうか」
「まあ、ちょっと待て、悪い噂が立たない様にジュディー・コベントリー嬢に立ち会ってもらっているが、基本は只の立ち合いだから、そこは気にしないでくれ」
「分かりました」
ちょっとこの娘はせっかちなのか、或いは集団虐めの被害者なりの防衛本能で人とは距離を取りたいのか、微妙なところだ。
「それで、用というのは聖女に対する誹謗中傷があって困っている。悪い噂を広めている人間を見聞きした事があれば教えて欲しい」
「…残念ながら、聖女関係の話は私の周りでは出ません。昔の友人について当て擦られる事はよくありますが」
「失礼だが、まだ当て擦られるのか?最近は風向きが変わってきているが」
「私の周りでは話はありません。1組ではそういう話がされているので?」
「まあ声を潜めての話だな。ナディア嬢は自分の肩を持つ話でも席を立ってしまうのでな」
「私には関係ない話ですね。いまは疎遠ですので」
「それでも君に当て擦る輩はいるんだな?」
「要するに誰かを虐めたいだけで、理由があれば誰でもいいのでしょうし、真偽など気にしていないのでしょう。誰かを貶して、虐められれば誰でも良いんですから」
「そうかもしれないが、君達は噂の発信源は誰だと思っていたんだ?」
「分かりませんよ。学院に入る前あたりから急に悪評が広がって、誰ともなく悪い噂を口にしていて。ご存じでしょう?」
「そうだな。全方位だったな」
「分かっていて見捨てられたのでしょう?」
「助けを求める声も無かったからな」
「じゃあ、声を上げれば助けてくれたので?」
「仮定で話は出来ないな」
「…他にお話が無ければ失礼します」
席を立つエリーの背にバートは言葉をかけた。
「まあ、聖女を誹謗中傷する者がいたら教えてくれ」
「そういう話を耳にしたらお伝えします」
うん、この娘も怒っているな。
「その、もう少し優しい言葉使いをした方が良いんじゃない?」
「昼にも言ったな。彼女達は我々に心を閉ざしているんだ。言ったところでそれは変わらない」
「じゃあ、何で話を聞こうとするのよ?」
「決まっている。情報が欲しいからだ」
「怒っている事以外、何も分からないじゃない」
「いや、一つ分かった事がある」
「何が?」
「連中は聖女を誹謗中傷している噂を聞いても、誰がその話をしているかこちらに教える気が無い」
「怒っているのを更に怒らしたら話す訳ないでしょ」
「ただ、分かったろ?」
「怒っているのが?」
「いや、今日会った二人は言い訳が無かった」
「問答無用で怒っているのだから、最低限の礼儀以外に話をしたくなかったのでしょ?」
「それでも、自分が広めているなら何か言い訳をしたくなった筈だ。あるいはもっと激昂して胡麻化した可能性もある」
「まあ、悪さを指摘された場合に言い訳をしたがるとは言うし、怒りで胡麻化す事はあるけど」
「そういう事だ。だから、少なくとも今日の二人を含む集団が結託して噂を広めている可能性は低いと思う」
「揚げ足を取られるのを避ける為に必要最低限の話しかしなかった可能性もあるんじゃない?」
「まあな。それならもっと隠そうとする様な態度を取るだろう」
「その差が分からないわ」
「もっと人生経験を積むんだな。そういう場合は平然としたがる、怒りを出さないんだ」
「…そうかしら」
「まあ、断言は出来ないな。まだ調査は始まったばかりだ」
「それ、これからも付き合えって事?」
「物分かりの良い相棒で助かるよ」
「言葉の意味は分かったけど、納得して付き合ってる訳じゃないんだからね!」
「付き合って貰えれば、それで満点だ」
くそう、酷い一方通行な奴だ。童顔の癖に。