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第7話

「クソッ、クソッ!」

 豪奢な内装が施された部屋に散乱する物。部屋の主が目に映るものを次から次へと投げている。

「カトレア様、どうか落ち着いてください」

 ヒステリーを起こす彼女を宥めようと、女中がカトレアに触れる。

 彼女は自分に意見をする女中を憎たらしげに見ると、髪の毛を乱暴に掴んで引っ張った。


「事が上手くいかないのは何故? お前たちが愚図だからでしょう!? 正妃と王太子の命を奪うのがそんなに難しい事なのかしら。でしたらわたくしがお前を殺して『出来る』事を証明しましょうか」

 普段の優しく愛らしい様子は微塵もない。黄色い瞳をぎらぎらと光らせて、髪の毛を掴んでいる女中の顔を覗き込む。あまりの恐怖に震え、涙を浮かべる彼女を汚らわしいものを見るかのようにカトレアは見下す。


 強く髪の毛が引っ張られ、ぱらぱらと数本の髪の毛が床に落ちる。カトレアは、激昂してまたも部屋に置かれた家具やドレス、宝石、装飾品を投げつけた。

 悲惨な状況になる中、扉がノックされる。カトレアは怒鳴りながら入室を許可すると、年老いた女中が入ってきた。部屋の惨状を見ても動じることなく、冷静に主人と対面する。


「王妃殿下がお会いして話がしたいとおっしゃっています」

 カトレアは髪をかきあげると頷き、震えている女中達にすぐに部屋を片付けるよう命じた。


 準備が出来たのを確認すると、カトレアはバーバラを出迎えた。先ほどまで鬼のような形相をしていたとは思えない満面の笑みを浮かべて。

「申し訳ございません、王妃殿下。部屋を片付けておりましたので出迎えが遅くなってしまいましたわ」

 カトレアの言葉にバーバラは気にする様子もない。彼女の動じない態度にカトレアは内心苛立った。


「今日は貴女と腹を割って話そうと思ってきたの」

「とりあえず、お紅茶でもいかがです?」

 カトレアの誘いにバーバラは答えず、部屋を見回した。

「およそ貴族の令嬢らしからぬ部屋ね。観葉植物が好きなの? あの木はトウゴマね」

 指をさした先にある植物を見て、カトレアは顔を引きつらせる。


「え、えぇ。令嬢は花を愛でるものなので、珍しいですわよね。わたくし、あの木が好きで」

 カトレアの女中が運んだ紅茶をバーバラは手にとり、こくんと喉を潤した。

 口角が上がりそうになるのをカトレアは必死に抑える。毒に強いバーバラでも仕留められるよう、特別に高濃度の毒を入れておいたのだ。さすがに耐えられないだろう、とカトレアは目論んだ。


「この紅茶にもトウゴマから採れる毒が入っているものね」

 バーバラはカトレアの目の前でカップに入った紅茶を飲み干した。美味しかったというように笑みを浮かべるバーバラに、カトレアは混乱する。確実に死に至る計算のはずなのに、目の前のこの女は何故生きている?


「貴女はトウゴマの種から抽出したリシンを紅茶に混ぜて私を毒殺しようとしているわね。お生憎様、私には毒の耐性があるので効きません。どんな濃度でもね。幼少時代から仕込まれてますから」

 勝ち誇ったように笑いながらハンカチで口を拭うバーバラに、カトレアは激昂した。

 王妃の目の前であるということも忘れて、紅茶の入ったポットやカップを床に叩きつける。


 ヒステリーを起こすカトレアを見ても、バーバラは動じることが無い。


「リシンといえばリリアナを殺したのも貴方だものね」

 口角を上げ、冷たい目でカトレアを見るバーバラに、我に返ったカトレアは呆然とした。


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