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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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静かな庭を臨む部屋 2

 飯田さんが大家さんを抱え、俺は大家さんの荷物と自分の荷物をもって追いかけるようについて行けば客間へと案内されるようだ。

 すでに明かりがついていた部屋は何やら物音がしていて

「布団は敷いておいたぞ」

 まさかの料理長に布団を敷いていただく事になるとは……とは言えとりあえず大家さんの分を敷いてくれただけ。だけど俺の分も用意しようとしてくれているので

「あ、あとは自分でやりますので」

 その手に何かあったらただでは帰れないと冷や汗をかきながらこんな夜遅くの突然の訪問にもの係わらずありがとうございますと頭を下げた。

「じゃあ、後は俺がやるから二人は先に寝てください」

 そんな息子の言葉に

「薫も明日はゆっくり寝てていいぞ。

 そちらの子の面倒も見てあげなさい」

 そんな言葉を頂いてもう一度ありがとうございますと頭を下げれば女将さんも一緒に下がっていった。

 そして飯田さんは俺を見て

「終い湯ですがお風呂をどうぞ。着替えは来客用の浴衣がありますのでそちらを使って下さい」

 頻繁に来客があるのか押し入れから浴衣を取り出して風呂場へと案内された。

 夏なのでシャワーだけを借りて用意してくれたタオルでその辺を綺麗に拭ってから着慣れない浴衣を何とか帯で止めて再び飯田さんの前へと立てば苦笑しながら帯を直してくれた。

 気が付けば大家さんもいつの間にか着替えさせられていた。大家さんいくら意識がないからと言って無防備すぎません?まあ、だから飯田さんの家に行けって事なんだろうけど、とりあえずそれぐらい安心の家だって事だと思う事にしよう。

 大家さんがそれだけ信頼を預ける家。当然無駄はなく……

「夜の間に綾人さんの分と一緒に服を洗っちゃいましょう」

 俺の服も強奪されてしまった。

 大家さんが繰り返す破壊活動に確かに洗いたくなるほど埃まるけになったなと決してよそ様に訪問するにはふさわしくないいで立ちだった事を改めて反省する。 

 今の季節夜に洗っても服は乾くしねと甘えさせていただいた所で客間の縁側の所に用意されていたお茶を頂きながら

「何があったのですか……」

 心配そうに、大家さんを見守る視線に俺は今日一日の出来事を話せる部分だけざっと話すのだった。


 お借りしている家で放火による火災があった事。

 幸い被害は台所だけで済んだものの消火活動で家の中はどろどろの事。

 更に火事場泥棒にあった事。

 それが運悪く大家さんが家の雰囲気に合うからと置いていたものだった事。

 その相手が知っている人で京都まで取り返しに来てひと悶着あった事。

 

 さすがに実の親が犯人でしたって事までは言えなかったけどこうやって箇条書きで説明すると大した事ではないように思えるけどこれが昨日一日、いやたった半日で起きた出来事。

 大家さんの行動力ヤバすぎだろうと昨日の火事を見て何もできなくてただ茫然と立ちすくんでいた俺とは全然違う修羅場慣れしているような人だった。

 話せば話すほど飯田さんは頭を抱えて途中話をストップしてお茶からお酒にお飲み物が変更した理由も理解できる。俺もキンと冷えた缶ビールを頂きました。

 

「そんな事もあって盗られたものも無事取り返しまして」


 龍の香炉を机の上に置いた。 

 飯田さんは知っていたようで

「緑青の香炉と言ってましたね」

 はい、そのまんまです。

 そこの突込みはぐっと息とともにのみ込んで

「お借りしている家の欄間に見事な鳥の彫刻がありまして、それに合わせて掛け軸や置物、そして香炉を選ばれたそうです」

 そんな流れだったはずだ。

「普段は見向きもしないのに珍しく引っ張り出したと思ったらそんな遊びをしていたのですか」

 やれやれと言いたそうに今年漬けた梅干しですと出されたものをかじりながらお互い手酌でお酒を頂く。

「ですが大家さん良い趣味してますよ?

 ちょっと書道をかじった程度だけどこういうものを常日頃から側に置いて目を養っているはずなのに俺に掛け軸を書けとか、そう言うのを楽しまれる余裕は早々持てないと思いますので」

 面白そうに眉を跳ね上げて

「そのうち襖にも書いてくれって言うかもしれませんよ?」

「うわー、そうなったらまた筆を探さないと」

「あ、断るという選択はないのですか……」

「え?俺は書くだけなので全く問題はありませんよ?」

 久しぶりに筆を握ればやっぱり物心ついた頃から触れていた物だけあって楽しかったのだ。新たに趣味を持とうと思った時もあったけどこういったことがきっかけで原点に戻る。それも悪くはないと思ったし

「知っていると思いますが大家さんのお知り合いの方にカフェをなさってる方が見えまして」

「ええ、燈火君ですね」

「はい。今はまだリハビリ状態だけどいつかあの蔵で個展なんて出来たら良いなって。大家さんにみち子さんって言う素敵な紙漉き職人を紹介していただきまして、その頃にはみち子さんに紙を漉いてもらえるぐらいまで上達していればなんて目標が出来ました」

 中々恥ずかしい事言ってるぞと思うけど口は止まらない。これがお酒の罠かと思いながらもふと気づけばにこにことした飯田さんが黙って俺の話に耳を傾けていた。

 エアコンが付いているはずなのにあまりの恥ずかしさに汗が噴き出してくるけど飯田さんは飲みかけのお酒を飲み干した所で

「ではそろそろ休みましょうか。

 九条君も家が火事にあって疲れたでしょう」

「疲れたというよりショックの方が大きかったのですが」

 実の親に家に火を着けられたことよりあんなにもかわいいちみっこ達の正体があんな巨大生物だったとかそっちの方がショックだった。

 いや、見た目の問題ではない。

 大きくてもちみっこ達はかわいかった。

 ただ心構えがなくって素直にビビっただけの話し。

 いや、真白を見ていた時点で気づけよと突っ込まれればそれまでだ。だからと言って玄さんの巨大さや岩さんのあの姿。

 ごめんなさい。きっと夢に見ます。

 だけど玄さんや岩さんが悪いわけではなく、俺が情けないだけの話しなのでその時は叱ってやってくださいと誰に言うわけでもなく一人反省会。

 そんな俺を見てか小さく笑った飯田さんは席を立ち

「明日は気兼ねなくゆっくり休んでください」

 そう言ってお休みなさいと一言残して出て行ってしまった。

 だけど俺は知っている。

 気兼ねなくゆっくり休んでくださいって言うけど当然実家にいるみたいに昼間で寝ていいわけではない事を。

 階段を上る音、廊下を歩く音、そして扉を閉ざす音。

 飯田さんにもずいぶんと遅くまでお付き合いしてもらい、明日も仕事があるのに申し訳なく思いながら俺も部屋の明かりを落とす。

 大家さんの静かに落とす寝息。

 鞄からはみ出るように緑青が浮いてきたので捕まえて大家さんの側へと連れて来れば小さな鼻がひくひくと何かを感じ取り、迷いなく小さな手を伸ばして寝返りも打たずに眠り続ける大家さんの首元へと甘えるようにすり寄り……


 必死になって取り戻す大家さんの行動力に納得と俺は明かりと落とした部屋の縁側からしばらくの間その光景を眺めていた。




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