大家のターン再び 6
嘘だというように父さんは一歩足を出すものの
「孝さん。十代前半で結婚と出産を繰り返していた時代からの家系ですよ。今の我々の感覚よりもっと早く世代交代が行われていたのですよ。孝さんの家はせいぜい室町時代……江戸時代ですか?そんな最近の血統はちゃんと本家が管理、監視しています。
なんせこの異能を途切れないようにするために力ある者の所在はちゃんと確保しなくてはならないので」
自分の存在理由を知る男に結婚の自由がない事は仕方がないとあきらめをつけた言葉はひどく暗かった。例え奥さんと子供がかわいくて仕方がないという生活を迎える事になっても子供にそれを強要しなくてはいけない事に今から胸を痛めているのだから親バカとはいえ大変だと少しだけ同情をしてしまう俺の隣で
「究極のブリーダーだな」
対照的にものすごく現実的な言葉を呆れた声で響かせた。
だけどそれは当人が一番わかっているので
「自慢じゃないが俺は近年まれにないほどの傑作なんだけど」
胸を張って言うが
「こんなにも役に立たないのに?!」
心の底から驚く大家さんに強く言い返せないのは緑青を奪われて探すのに時間がかかったからというのも原因だろう。
全く持って胡散臭そうな視線を向ける大家さんの視線が耐えれないというように暁さんは父さんに目を向けて
「もし本家が孝さんをぞんざいに扱っていると思われるのなら申し訳ないと謝罪しよう。だが、本家としてはあなたの家系よりも優先して保護するべき家はまだまだたくさんある事をぜひとも知っておいてほしい。異形のモノを見て言葉を聞く程度、優先する価値もないという事を」
我が家をすべて否定するかのような言葉に父さんはぺたりと座り込んで
「我々の今までの努力は……」
これに関しては誰も答えることは出来な……
「ただの自己満足じゃね?」
いや、大家さんがバッサリと切り捨ててくれた。
大家さんよ。
もうちょっと空気読んでよとあまりのストレートな言葉に父さんは泣き出すし暁さんまで頭を抱えていたが
「そうやってはっきりと言わずに甘やかすからこういう勘違い野郎が生まれるんだろう。
血統、血統。そんなにも血が大切ならなんで自分を始点に何かを始めようとしない。ましてや過去にしがみ付いていつまでも本家の下で働いて自ら下だって行動で示している人間がどうして成り代われると思っているんだ」
これ以上とないくらい我が家の闇をきっぱりと切り捨ててくれた。
こうやって言葉にすると痛々しすぎて父さんを見てられないというように目をそらしてしまうけど、反らした先で暁さんがそこまで言うかと言うように目が死んでいた。うちのしょうもない話なのに申し訳ないと俺は手で顔を覆ってしまえば
「まあ、まあ、皆さん落ち着いて。
それより九条さん。あの素晴らしい香炉の入手方法がそんな手段をとっていたとは、いやはや。九条さんとは長い付き合いでしたがまさかそんな事をなされる方だとは……
そういう事ならこちらの若い方々が乗り込んで来られるのも当然でしょう。
皆さんも一度落ち着いて向こうで話し合いませんか?」
俺が見てもわかるしらじらしいまでの三文芝居を打つ爺さんは少し苛立気に口元を引きつかせるが、そんな交渉に乗る大家さんではない。
「とりあえずこの向こうにいる緑青を回収してからだ。襖を開けろ」
ぞっとするような声色だけど、向こうもそれなりに歳を重ねた人物。何事もないというような顔で
「でしたらどうぞお入りください。開けることが出来るのなら」
にやりと笑う口元に
「暁、開けろ」
「人使いが荒いな。だがな、これは力を込めた分だけ力が返ってくる呪法だ。しかも何種類も術が重ねられている。時間と手順を踏まないと簡単に開けることは出来ないぞ」
言いながらこの家主の爺さんを睨み付ける暁さんに
「さすがは九条家の次期当主。すべてお見通しか!」
見極めたか!でもこれでは無理だろうというように高笑いをする爺さんに大家さんはペン回しをするようにバールをくるりと回してから構え、襖や壁を軽く叩いてくすりと笑う。
バールをくるくる回す大家さんに気を付けろと暁さんは言うものの大家さんはなるほど、なるほどと笑い、バールを思いっきり振り上げたかと思えば
「綾人!あぶっ!やめっ……!」
力いっぱい壁の部分にバールの先端を突き刺していた。
ぼろりと土壁が落ちたのを見て大家さんはにやりと笑い、そこからは二度三度とバールを土壁に突き刺していく。
「や、やめろ!」
逆に慌てたのは爺さんだ。
「私の邸を!なんて事を!」
「これだけの家を建てておいてたかが壁の一枚二枚気にする事はないだろ!」
土壁から中の竹組が見えてきたところで大家さんは柱との境目にバールを差し込み梃子の原理と足を使って強引に壁を柱から外し、今度は壁に向かって何度も足蹴りを入れる。
やめろと騒ぐ爺さんたちが飛び掛かってくるのを俺と暁さんで抑え込めば
ドシ………
重苦しい音と共に壁が室内に向かって綺麗に倒れるのを見た。
同時に巻きあがる土埃と共に静まり返る中
「嘘だろ……
壁ぶち抜くとかこんな方法ありえねぇ……」
なぜか暁さんが信じられないというように室内に乗り込む大家さんの背中に向かってぼやいていた。
うん。壁をぶち抜くなんて普通考えないよねと俺も頷くけど
「あり得るだろ。
予想通り札とかなんかは出入り口の襖しか張ってない。
襖を一枚二枚と数えるように壁だって一枚二枚と数えるように襖と壁は別物なんだ。壁を叩いた時点で何の反発もなかったことから札の効力の範囲外ならブチ破れると思ったんだよ」
笑いもしない視線で俺達を見向きもせずに
「さび何処だ!山に帰るぞ!」
これ以上の茶番には付き合わないというような高らかな宣言と共に
「主ー?主ー!ここだよー!緑青はここに居るよ!主ー!!」
どこか涙声交じりの必死に主を求める緑青の声に俺も壊された壁を通って土埃の酷い部屋へと入れば、床の間の前に置かれた文机の上に置かれた異様な枚数の札が張られた鳥籠をみつけた。




