大家のターン再び 4
視覚の錯覚からついに平行感覚がおかしくなった。
「うわ、なんだか気持ち悪い……」
暁は眩暈がしてしゃがみこんで手をついてもふわふわした感覚が付きまとう。
三半規管がおかしくなる、そんな感覚でも目の前を歩く綾人はまるで知っている家のようにどんどん進むし真は四つん這いでジグザグに、時々どこかにぶつかってひっくり返り、その直後体が半分消えてしまったそんなホラーな目の前の光景に暁はなんで俺を頼らないのかと半ばキレ気味に印を組んで力ある言葉を唱える。
「はっ!」
気合を入れれば平衡感覚は元通りになって
「お?なんか急に足元が安定した?」
「うわっ、いつの間に誰かのお部屋って仏間……
失礼しました!」
全然ありがたく思われなかったことに腹立たしかったが
「ちゃんと泥棒対策はしてあったって事だ」
奇襲対策とまではいわないが最低限の対策は取られてたという事だろう。
慌てて廊下に飛び出してきた真を見てそういう仕掛けかと大きな屋敷で無いくせにそうやって塵尻にさせるつもりかといら立ちは募るものの
「綾人、お前はどこに行こうとする」
どこか確信を込めて足を運ぶ綾人に勝手に行くなと言うものの
「こういう古い家は大体造りが決まってる。
外から見た限り玄関から左側が客間や仏壇のある部屋がある。だったら右側にプライベートな部分からの奥に台所がある。大体北東に位置になるから配管の関係で風呂やトイレもその近辺になるはずだ。そうなると納戸や荷物を置く場所もあるだろう。昔ながらの家だから窓のない部屋になるだろうし、そのあたりの部屋で板の間があればひょっとしたら地下室の入り口があるかもしれん。
隠し物を隠すにはぴったりだ。
特にお前たちみたいな職種の家なら隠し事が多いはずだから必然となってくる」
そんな風に言いながらい部屋の中を覗けばきなり地下室への入り口を見つけてしまった。
「おま、初めての人の家なのに詳しいな……」
素直に呆れながら板の間の押し入れの中にかすかに指先が引っかかるへこみを横にスライドさせれば
「増築してないからわっかりやすwww」
楽しそうな綾人の何処までもバカにした声。
案の定階段があり、思わず笑ってしまいそうになるものの綾人は入り口を閉め直す。
「行かないのか?」
暁はここまでためらいもなく来たくせに入らないというのが不思議で聞くも
「物事には順番がある。どうせまた変な罠でも仕掛けているのだろうからわざわざ罠にかかってやる必要もない。次行くぞ」
「次ってどこへ」
なんて聞けば
「決まってるだろ。この家の一番格式の高い部屋。
客間と仏間がある部屋だな」
「んな所玄関入ってすぐにあっただろう」
「あるに決まってるだろ。だけどそんな入ってすぐの場所で緑青を捕まえてお祝いなんてするわけないだろ。
つまりその近く、たぶん裏辺りだろう。外から見た様子じゃこの家はそれぐらいの広さもあるからな。さらに仏間と客間の間取りから二部屋ほどある。
これぐらいの間取りなら私室と書斎は別々だ。人は安心を求める時自分の匂いが一番染みついた場所に逃げ込むもんだぞ」
人の家に火を着けて付喪神を盗んだのだ。ましてや札を貼った檻の中に閉じ込めるくらいなのだから多少の後ろめたいそんな心理。少なくともそれぐらいの気持ちは生まれているはずだとそんなかすかに残った良心の判断を希望して誰も出てこない家人の家を靴も脱がずに歩く綾人にさすがの暁も畳の上を靴で歩く行為はさすがに居心地が悪かった。
「わかってて遠回りしたのかよ」
「こっちは情報のない人さまの家の訪問。最低限のチェックはしてからお迎えに行くだけの話しだ」
わざわざ聞く事かと言うが扉を一つ一つ開けては扉を開かないようにするラッチの部分にカバーを付けて閉じ込め対策をしているあたり本当に謎の準備万端だなとしっかり軍手をしている所も逆に悪意を覚えてしまう。
そしてもう黙って後をついてくるしかない真は新幹線の中の出来事もありなんでご一緒したいって言ったのかと今頃になって後悔をしていた。いや、緑青を助け出すのは賛成だけど、こんな事になるとは思わなくてなんとなく喧嘩を売ってきた相手に喧嘩を売る相手を間違えたなと不憫に思うのだった。
そんな感じで綾人達が人の家を探検して居る頃すっかり出来上がった男達は気持ちよさそうにごろりと寝ていた。
取り残されたように文机の上に置かれた鳥かごに封じられた緑青は今は疲れて座り込んでいた。
体は痛い。
だけどお家に帰りたい。
主に会いたいその思いで開くはずのない扉を開けようと奮闘をするもピクリともしない。
だんだん心がくじけてきて、またぺたりと座ってしまう。
「お腹すいた……」
基本ごはんはなくてもお花の匂いやお日様の光で緑青はおなか一杯になることが出来る。
主からのご飯は嬉しくって胸がいっぱいになるし、真からのご飯はみんなと一緒に食べて幸せがいっぱいになる。
一度覚えてしまったゆえの寂しさにぼろぼろになってしまった羽を抱きしめて寂しさを紛らわす。
「真が見たらまたびっくりするかな……」
主の庭に居る鳥に負けた時ちょびっと羽が破れただけですごく心配をしてくれた真を思い出して
「今回も心配してくれるかな?」
くすぐったいほどの優しさにやっぱりここは緑青がいるべきところじゃないと立ち上がって今度はどこから脱出をしようかと考えた所で
「無駄だよ。
このお札が張ってある限りお外には出れないよ」
外から声が聞こえた。
小さな隙間からそーっと外を覗けばいくつかの瞳と目が合って思わず飛び跳ねるくらい驚けば高くない天井にぶつかってすぐに床に落ちる事になってしまった。
「だ、だれ……」
知らない視線に恐怖を覚えて思わずしっぽを抱きしめてしまえば
「僕達はこの家にいる茶釜の付喪神の茶々だよ」
「あたしは蝶々の簪の付喪神の鳳蝶なのアゲハって呼んで」
「儂は急須の付喪神じゃおじじでいいぞ」
そんな見た目も全く違うように茶々は体が茶釜のようにぽっちゃりしているし、アゲハは彫刻で出来ているのか体が透かし彫りみたいになっている。挙句におじじはそう名乗るように見た目がものすごく年を重ねていて……
初めて緑青が知る付喪神以外の付喪神に出会って恐怖は吹き飛んでいた。
「緑青はね、緑青なの。
ねえ、ねえ、主の所に帰りたいんだけどこのお札剥がしてくれる?」
そんなお願い。
仲間意識を覚えてのお願いだけどだけどみんな困った顔をして
「そのお札は外からは剥がせられないの」
ものすごく申し訳なさそうにアゲハが教えてくれた。




