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大家と話をする時間をください 4

 そして残された一行もうらやまし気に大家さんをうるうるきらきらの大きな瞳で見上げていた。

「ああ、ほら。

 みんな怖い思いしたな。帽子の中で少し休んでろ」

 苦笑交じりに手を伸ばすも玄さん以外はみんな自力でよじ登って帽子の中に吸い込まれていく。

 何そこ。なんて言う人気スポットなの?

 さすがに玄さんは時間がかかるからとひょいと手で持ち上げられて肩の所に置かれてやっと帽子の中に潜り込んだ。

「玄さん、岩さんのそばにいてあげてねー」

 大家さんが言えば

「岩さんとはいつも一緒だよー」

 なんて玄さんの何処かのんびりした声。

 だけどまだまだぐずるような鳴き声は止まらず、やがて静かになってそれは小さな寝息へと変わっていった。


「やっと静かになりましたねー」

「帽子の中はあったかいらしくって人気スポットなんだ。鬱陶しいからいつも入れてやらんが…… それよりも悪かったな。情けない所を見せて」

 どっと疲れたような大家さんの方こそお疲れ様ですと言いたい。

「それにしても大家さんの家のひよこ強いですね」

「んー、まあ、のちに白い悪魔って呼ばれるからな。烏骨鶏に限らずこの山の生き物は食べる事には貪欲だから」

 それが自然ですという言葉に笑いそうになるものの

「四神セットなのにこの山で一番の最弱最低レベルの生き物はあいつらだからな。何とか守ってやりたいと思うんだが……」

 自由気ままなお子様と言うか、ここに来てからのちょっとの間でさえああなのだ。確かに難しいなと思いながら頷いていれば

「それでもって馬小屋壊したり烏骨鶏全滅させたりで相談役に話を聞けば、契約者から切り離せばおとなしくなるって聞いたんだが……」

「一瞬でうちになじみましたね」

 大家さんはどうせそうだろうとがくりと項垂れてしまった。

 だけどそこは大家さん。

 あの先輩が師匠と仰ぐお人。

 これだけ色々なことがあってもうなだれた頭を力なく持ち上げながら策を探す努力はさすがだと思う。

「とりあえず今日はこのまま朝まで寝るだろうからまた明日連れていくけどこいつらをあの家で面倒見てもらえないだろうか」

 付喪神がひよこの餌になるような日常はさすがに大変だと思うも一度世話をしたら最後まで続けてほしいと願うものの


「もちろんお礼もする。

 今貸している家賃を値引きしよう」


 何とも言えない魅惑な提案に

「あの、それはいかほどで?」

 確実に下がった給料にそれ以上の魅惑的な申し出はないとつい乗ってしまった。

「今十万だっけ?それを五万にしよう」

 いきなり半額とはなんてステキな提案。

 俺が東京に住んでいた時の家賃を基準から見たらこの家で十万でもお安いと思っていたのにさらに半額かと思うも少しだけ欲をかいてしまう。


「でしたら一万で?」

「よし決定!自分で決めた価格だから責任持てよ」


 なんて途端ににっこにこな顔で誰かに電話をして家賃の変更を伝えていた。

 確かにひどい値段を言ってみたけど交渉もなく即決ってあんまりじゃありません?

 よくよく冷静になればちみっこ達のシッターをお金を払って引き受けた、文字通り買って出ることを進んで申し出たという内容に思わず頭を抱えてしまう。

 いや、別に嫌じゃないんだけどね。

 ただあれだけ主ラブなちみっこと本当に仲良くやっていけるのかが不安で仕方がないのだけど……


 何とかなるか?


 そんな楽観的希望に逃げ込めば思考は完全にストップしていた。


「明日には書類が出来るらしいからもう一度再契約と言う形になるからそこはもう一度付き合ってもらうぞ」

「……はい」

 なんだかキツネにつままれたと言うか騙されたと言うか。

「あ、ちび達はこのまま明日の朝まで爆睡だろうから明日買い出しに行くときにつれていくからな」

 ものすっごい良い笑顔で悪いなと言いながらも庭の畑から野菜をしこたま収穫してきて簡単に泥を落とし

「あ、これつまらないものですがお土産にどうぞ」

「立派なトマトですねー」

 他にもキュウリとかナスもしこたまお土産に持たせてくれた。

「あとLIMEの交換お願いできますか?何かあった時こいつらのトリセツお聞きしたいので」

「OK!って言うか割と出歩いてるからこれの相談の方がありがたい」

「あとお名前改めて聞いてもよろしいでしょうか」

 玄関に表札はかかっていたけど名字だけ。

 何かあった時不便だろうと聞けば


吉野綾人(よしのあやと)です。親しみを込めて大家さんって呼んでくれればいいよ。ただし綾っちって呼んだら家賃上げるから注意するように」


「んな事を理由に家賃をあげるなんてひどいけど、そんな風に呼ぶ人がいるんですか?」

 その年って言うのは失礼だが綾っちって呼ぶ人がいるのかよと心の中で疑問に思っていれば

「案外そう言うやつが多いんだ」

 思いっきり苦虫を潰したかのような顔で言うあたりほんと嫌なんだろうなとこれ以上は突っ込まず笑ってごまかしておいた。

 それからもう少しこのちみっこ達の取り扱いや好き嫌いなどの話しを聞きながら失礼させてもらうのだった。


 行はあれだけ煩いと思った車内だったけど、今は寂しいくらい静かすぎて。


「楽しかったな」


 すれ違う車もなければ歩いている人もいない静かな田舎町を車で飛ばせばやっと見覚えのある街並みが見えた所でほっとして


「そういや、俺聞きたかった事全然聞けてないや」


 とりあえず聞きたい事リストを作ろうとしたところでもう一つ思い出す。

「親父に電話しなくちゃ」

 リストを作る手を止めて仕事を辞める時以来ぶりに電話をするのだった。

 


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