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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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大家のターン再び 3

 真剣に脱出をしようと奮闘する緑青がいればそれをあざ笑うやつらもいる。


「あの付喪神は元気だねえ」

「ピィピィ鳴きやまなくて本当に元気よのう」

「封印の札で力を奪っているのだから逃げ出せるわけもないのに」

 

 無駄な努力だと笑うもそもそも既に緑青の力は最大限封じられているのを知らない男たちは封じられている籠を眺めながら杯を交わす声は喜びに満ち溢れていた。

 こんなにもたやすく、こんなにも希少な龍が手に入るなんて笑いが止まらない。そんな祝宴はそれでも窓一つない暗い一室でかすかな明かりの中繰り広げられていた。

「さて九条の、この龍の付喪神我らが引き取り九条の宿願を果たそうぞ」 

「古き本家と同じ血を分かち合う九条が主になるには十分な血統。当代当主にはできなかったこの見事な龍を連れてきたのだ。誰も文句は言えんよのう」

「なに、本家の付喪神や式神にもこんな立派な龍はいない。それこそ数百年ぶりに現れたと言っても良い我々の間でも伝説になりつつある物をよくぞ見つけて連れてきてくれた」

 手放しで褒められて悪い気のしない真の父親の孝はふんと鼻息を吐いて

「我が家はいつも向こう通りなどと呼ばれていたがこれからは向こうを奥通りと呼んでやる」

 かなり酔っぱらっているのだろう。

 子供の喧嘩のような啖呵だった事に一瞬場が白けた事に気が付かないのは本人だけ。

 だけどそれだけ恨みがこもっていると言うもの。

 たとえ的外れだと言われようとも孝の人生はそう言われ続けて半生を超えたのだ。

 同姓が多い土地柄、場所を指して呼ぶことも多いので向こう通りなどと呼ぶのはその程度の意味合いだったがまさか当人にはこれほど恨みを重ねるほどの物だったのかと同席した者達の酒の肴になってしまったものの、それを利用するかのように笑う人間もいる。

「なに、これからは孝が本家だ。おおいにそう名乗ればいい!」

 笑いながら酒杯を掲げれば誰ともなく杯を掲げ

「新しい九条の当主に乾杯!」

 声高らかに笑いあい、今も逃げ出せるわけのない脱出を試みる小さな龍の付喪神を濁った瞳であざ笑い、酒杯を重ねるのだった。




「で、お前はいきなり敵地に乗り込むのか?」

「当然だろ。敵地に乗り込まずどうやって緑青を助け出す」

 日はとっぷりと暮れて暁と真は疲れていた。

 それもそのはず。

 駅で合流してから既にいてもよさそうな場所をいくつか回っているのだ。

 特に暁は自分の能力を駆使して今にも突撃しようとする綾人を抑え込みながら敵陣視察と言うように型紙を使って緑青がとらわれている邸内を確認するという作業をこなしているのだ。

 車の運転は真が代り、綾人の指示の中暁がのぞき見をしている間は近くの店でとにかく甘い食べ物と甘い飲み物、ちょっと塩気のあるものを買いに走らされて車での移動中に食べさせていた。


「主ー、シュークリーム美味しいねー」

「主ー、限定のメロン味のシュークリーム美味しいよ」

「玄さんも岩さんもせっかくの旅行だから美味しいものいっぱい食べると良いぞ」

「「わーい!」」


「いや、俺一年分のスイーツを堪能してるんだけど。無理ってくらい堪能してるんだけど」


 玄さんと岩さんとは違い今にも吐き出しそうな顔で食べている暁に

「何馬鹿な事言ってる。お前の為のスイーツじゃなくって脳の為の餌だ。お前に脂肪を供給するためのものじゃない。

 結局その力だって頭でコントロールしているのだろ。だったらしっかり働かせるために摂取しておけ」

「うん。知ってる。お前が効率重視なのよく知ってる。

 だけどな、食べるものも飲み物も甘々だと舌が拒絶するんだよ」

「だからその為の梅干しだろ?口内のpHを整えてくれる素敵食材だ」

「糖が必要ならうどんやおにぎりだって十分だろ?!」

「うどんやおにぎりは量のわりには持続力ないからな。やっぱりスイーツの方が少量で効率よく吸収できるからうどんとかは却下だな」

「もう甘いモノなんて全身が拒絶する……」

「この件が形が着いたら美味いもの食わせてやるから今は仕事のうちだと思って諦めろ。決して緑青の足取りがつかめんポンコツに対する嫌がらせじゃないぞ」

「どうせそんな事だろうと思ってたよ!」

 本日十二個目のケーキを召し上がる暁さんに思わず味噌汁を購入してしまったけどそれはそれで酷い食べ合わせだと大家さんを笑わせる結果となりお許しは出た。

「しょっぱいのうめぇ……」

 味噌汁の塩気に泣き出してしまった暁さんだが

「目的地に着きました」 

 本日五件目の心当たりのある邸の植栽の影にあたる部分で車を止めた。夜だから影はほとんどないけど、邸の中から見えない場所なので気づかれないようにエンジンを止めれば暁さんは型紙を取り出して邸の中に放り込んだ。

 その姿はあっという間に存在を消すように薄くなり、建物の中へと溶け込むかのように潜り込むのだった。

 印を組んで集中する様子の暁さんだったけどその顔が途端に緩んで

「真の親父を見つけた。他にも四人。

 あった、封印の札の貼られた鳥かごか?中を確認……

 いた!緑青だ!ああ、たった一日でぼろぼろじゃないか……」

 期待は込めない、そんな顔でパソコンをいじっていた大家さんだったけど暁の言葉にパタンと音を立ててパソコンを閉じて玄さんと岩さんを入れた鞄をもって車から飛び出した。

「真!綾人を確保!」

「ええ?!大家さん正面突破とかありえないでしょう?!」 

 まさかのピンポンを押しての正しい訪問に暁も頭を抱えて今までの隠密な行動は何だったのだと泣きたくなるもののインターフォン越しに


「逃げるなよ。俺のさびは返してもらうからな」


 そんな宣戦布告。

 きっと鍵はかかっているはずなのに何かを鍵穴に突っ込んで開けた大家さんの手際の良さに俺達は何を見てるのだ

ろうと待てと伸ばした手がそのまま何も掴む事はなく異様な踏み心地の空間に入ってしまった。


「なんだここは」


 一歩踏み出して違和感を覚えた綾人は二歩目を進まなかったことに暁はほっとして同じように室内に潜り込む。

「幻覚だろうな。

 異空間を作り上げるほどの能力はなくても幻を見せる事ぐらいはできるだろう」

「それは、脳を支配してるという事か?」

「そこまでの力は今の九条家にもない。

 強いて言うのなら視覚の錯覚程度だ」

「なるほど」

 そう言って足を進める綾人に真は一人で乗り込まないでと慌ててついて行った。







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