大家のターン再び 2
さらに恐ろしい事を大家さんはさらりと言う。
「知ってるか?ばれなければ確定はしないんだよ」
いや、こればれない事前提の懸案なのか?
この人いったい何を言っているんだ?
恐ろしいを通り過ぎると考える事を拒否する俺に大家さんは綺麗に笑い
「さすが観光都市だけあって電子マネーがメインで笑えるよなあw
あ、こいつ銀行の口座番号もスマホにメモってるとか馬鹿じゃねw
この馬鹿、家のローンをこの口座で振り込みだったとかw連絡来た時は給料全額飛ぶなwww」
やだ、何しようとしているのか知りたくないけどものすごく生き生きしてる大家さんすごくいい笑顔が素敵すぎて怖いんですけど。
「とりあえずご家族には悪いがうちの家を燃やしたお礼はしっかりと家族にも連帯責任取ってもらおう。まずはライフラインを停止させてもらおうか~。人の家を燃やしておいてぬくぬく過ごそうなんて許せるわけないよな~。
ガス水道電気使えないと不便だよな~、でもうちじゃしょっちゅうあるけど生活に何の問題ないし~、何の問題もないよね~。
とりあえず全員のスマホのパスワード変えておくか。こういった地味な嫌がらせって機械類が苦手な年齢層の人には初歩の初歩だよねー」
妨害って言ってなかったっけ?この時限式の嫌がらせってどうよ、他人のスマホ勝手にいじれるものだっけ?と身震いをしながら
「とりあえず銀行のアプリはログインの失敗を重ねてロックをかけて金銭的な部分を封印。明日から土日だから月曜日まで耐えれるかな~」
目の前の光景に現実逃避している俺だけどさすがに周囲を確認してしまえばいつの間にかこの車両に俺達以外の乗客がいなかった……
嫌がらせの限りを尽くす大家さんを横目に不思議そうな顔をして車両の中を見ている俺に大家さんは気づき
「新幹線の各駅停車なんてそこまで需要ないと思ったけど使い勝手いいよなw」
そう言って俺に見せてくれたのは俺が作ったお札。しかも練習用の物で後で処分するつもりで置いておいたものだった。
人の注意をそらしたり何気なくこの場から足を遠ざける程度の効果だけどこの新幹線という密室に使う分には効果抜群すぎたようだ。
ホームに上がってちょうど来た電車に飛び乗ったという考えのつもりだったけどこの人確信犯だったかと大家さんの笑みの恐ろしさに俺は耳をふさいで目を瞑るのだった。
「それにしても俺も優しくなったよな~。この程度で留めようとしてるなんて」
それからもパソコンを操る手は止まらない。
それよりもこの程度ってどういう事?
優しいってどんな意味だっけ?
そして到着した駅のホームにはたくさん人がいるのにお札の効果で誰一人この車両に乗ってこない事を良い事にスマホも容赦なくかけている。
誰もいないからってマナー違反は止めてくれ。
俺の心の声はガン無視されるのは判ってるけど側にいる分良心が本当に苦しい。
「よお、あと三十分ほどで京都駅に着くから迎えに来い。
ああ?誰のせいで京都まで来ていると思ってる。今出ればちょうど三十分以内で来れるだろ。来なかったら本当に勝手に動くぞ?
……なんだ、分かってるじゃん?とりあえず駅で合流な」
聞いてる方が胃が痛くなるような脅迫じみた会話に電話の向こうの人が誰か知らないけどなぜか俺は心の中で
「大家さんが俺様でごめんなさい。
大家さんが強引でごめんなさい。
大家さんの口と性格が悪くてごめんなさい」
なんて必死に謝っていた。
そして胃の痛くなるような旅は終わりを告げて、大家さんは岩さんと玄さんを起こしてからカバンの中に入れて改札口をくぐった。
待ち合わせをしているはずなのにまっすぐタクシー乗り場へと向かう鬼畜ぶり。
当然のようにタクシーに乗り込もうとした所で
「よう、人を呼び出しておいて無視とはいい度胸だな」
「お?暁間に合ったか?」
「間に合わせた。今のお前を野放しにするほど危険はないからな」
突如現れたイケメンさんのギラリとした視線で大家さんを睨みつけながらタクシーに並ぶ列から力技で引っ張って外れれば大家さんは何も面白くないという顔で
「九条、これが暁。お前と同じ苗字のはるか遠い昔の兄弟だ。
是非とも親しみを込めてつっきーと呼んでやれ」
「え?つっきー……は?本家の暁様?」
あまりの情報量と言うか親父たちが呪文のように唱えていた本家の若様がつっきーなのかと緊張のあまりぎこちなく記憶を探る俺とは別に
「わー、つっきーだ。おひさしぶりー!」
「つっきーだ!お供の子たちはいないの?」
顔見知りと言うような玄さんと岩さんにつっきーこと九条暁は頭が痛そうに
「急に呼び出されたから一緒に来てくれる子はいなかったんだ」
期待に沿えなくて悪かったなとぞんざいに謝る暁さんに
「そっかー、だったら仕方がないねー」
「そっかー、つっきー人望ないもんねー」
「さすがお前の式だから性格までそっくりだな!」
お願いだから煽るような言葉は止めてくださいと岩さんに心の中で訴えておく。俺を見て知らないよと言う顔をされてしまったが、絶賛大家さんびいきの二体は大家さんの感情にシンクロするように暁さんには塩対応だった。
まあ、それは仕方がないだろう。
「で、緑青の居場所は判ったか」
つっきーが車を止めた駐車場まで移動する間も時間を無駄にしない大家さんの質問に
「今探させている。
そもそも真の父親の足取りがつかめない。どこかの奴らとも結託しているようでずいぶんと隠れるのが得意らしい」
さすがに焦りを隠せない様子の暁さんだが
「だったら九条の父親達がいても違和感がなく付喪神が多い場所に連れていけ。周囲から一番気づかれ難い場所だ」
言いながら大家さんは案内された車の後部座席に一人で乗り込めばまたパソコンを開いて何やら調べ物を始め、暁さんは心当たりがあるのか舌打ちをして車をすぐに発進させるのだった。
「ねー!出してー!
ここ狭くていやー!」
天井が針金で出来たドーム状の檻だった。
小さな入り口から押し込められ紙をペタペタと貼られて外の景色も見れない息苦しく狭い檻だった。
「こんな狭い場所じゃ飛ぶこともできないよー!出してー!
真のお家に帰してー!
主の所に帰るんだからー!」
ジャンプして飛んでは羽を痛めながら針金で囲われた檻へと体当たりを繰り返す。
すでに羽はボロボロでうっすらと赤い痣も浮いていた。
だけど緑青は一人ぼっちの心細さからぽろぽろと零れ落ちる涙をぬぐいながらも檻から脱出しようとすることを諦めなかった。
カシャン、カシャン……
檻に体当たりする音は鳴りやまず、だけど痛いとは決して言わなかった。
前にもこういう事があった。
真がちゃんとお迎えに来てくれて、主が待っていてくれたのだ。
その出来事のおかげで真が迎えに来てくれることを、主が待っていてくれることを緑青は疑わなかった。
だからこんな所自分から抜け出して主の待つお山の家へと帰るように、むしろ主を迎えに行かなくてはとそれだけの思いが原動力だった。




