尽きる事のない悪意でも顔をあげてみせる 2
二回目の美園屋さんの訪問も
「真!無花果!あんな綺麗な無花果見た事無い!絶対美味しいに決まってるよ!」
「真!琵琶のゼリーだよ!琵琶がごろっと三つも入ってるゼリーだよ!三つも入ってるんだよ!」
「真!ブルーベリーのソースのレアチーズケーキがあるよ!ブルーベリーとレアチーズケーキが一緒に食べれるお得なケーキだよ!」
「真!桃のタルトも美味しそうだけど桃を丸ごと一個使ったゼリーも美味しそうだよ!」
「真!岩はいい子するから玄さんのお願い全部聞いてあげて!」
分かっていたとはいえカオス確定です。
ちみっこ達にせがまれて何を買えばいいのか、むしろどうすれば丸く収まるのか悩む俺を店員のお姉さま達は微笑ましそうにお待ちいただいている。
仕方がないだろう。
どれもこれもみんなちみっこと同じサイズのケーキばかりなのだ。
みんな一つも食べきれないしこの季節のお残しはとても危険だ。
そんなことわかってはいるが俺の首の回りで
「ねーねー、お願い!」
「真お願い聞いて!」
「ちゃんとお風呂に入るから!」
「真ー!お願いー!」
「「「「お願いー!」」」」
俺にはスーパーのお菓子コーナーでひっくり返って駄々をこねる子供を見捨てる母親のようにはなれなかった……
「ありがとうございました!」
すでに顔見知りになりつつある店員さんの微笑ましい笑顔に俺はどれだけスイーツ男子だと思われているのだろうかなんて考えない。
「真!早くお家に帰ろう!」
「真!早く帰って美園屋さんの美味しいケーキを食べよう!」
「真!玄さんが待ってられないから早くお家に帰ろう!」
朱華はともかく岩さんよ、玄さんをだしにしてまで食べたいのか。
あまり自分を主張しなかった岩さんだけど書道を経て少しずつ自分を出す事が出来るようになったと思ったら恥ずかしがり屋さんがすぐ直るわけはなく、それでもこう言ってくれるのが嬉しくて自然に笑みを浮かべながら
「今日はね、いつもの公園で食べようと思うんだ」
車に乗って家から持ってきた紙皿やいつもちみっこ達が使っているお猪口とペットボトルの紅茶を見せればまだよくわかってなくて、車を走らせてあれから遊びに来る公園の広場から外れた並木道のはずれにピクニックシートを広げてケーキを並べた。
ここに来るまでに緑青はどんぐりさんを見つけてかかえたり、朱華は習性のように小さな木イチゴを嘴に咥えながらついて着たり、真白はふかふかの落ち葉の道を歩いたりとケーキに視線は向けながらもいつもの散歩と同じようなスタイルを維持する当たりかわいい奴めと目を細めて笑ってしまう。
ピクニックシートの真ん中に俺は深型の紙皿を並べてそこにケーキを置いた。
まさかこんな所で?!
大好きな公園でケーキを食べていいのですか?!
驚きに言葉が出ないけど訴える視線のわかりやすさに苦笑をこぼしながらお猪口に紅茶を淹れて準備を終えれば
「では、手を合わせていただきます」
「「「「「い、頂きます!!!」」」」」
緊張しながらでもみんなのリクエストに沿ったケーキにかぶりつく様子を俺はシュークリームにかぶりつきながら見守った。
公園に来る時はお水だけを持ってきたり、家では台所のテーブルばかりご飯やおやつを食べてきたのだ。
初めてのピクニックはどうだろうかと思うも相変わらず食べる事にまっしぐらで苦笑をこぼすしかない代わりに紅茶を飲んで真剣に食べていく様子を見守っていればほどなくしてはち切れんばかりのお腹をひっくり返して転がるちみっこ達に分かっていたよと言うように失笑するのだった。
「ほら、みんな食べ過ぎだって」
どう考えてももうおなかには入らないケーキ達はケーキ皿の使い良さを利用してケーキを固定しながらまたケーキの箱へと片付ける。
「真、そのケーキどうするの?」
全部食べきれなかったとはいえ少しだけ切なそうな朱華の顔に
「残りは今晩ご飯を食べたら食べような」
どうせ一度に全部食べられない事は判っていたから最初から持って帰る事を前提に準備をして美園屋さんに乗り込んだのだ。
まあ、想像以上のカオスになったけど、満足そうにピクニックシートで転がっている五体の付喪神を見れば今日こうやってピクニックに来たのはちみっこ達にとって良い事だったと俺も一緒にひっくり返りながら木漏れ日が射す公園の林でちみっこ達と一瞬の転寝にこの出会い感謝をし、小一時間ほどのまったりタイムを過ごしながら緑青のおねだりにどんぐり拾いをしながら食後の運動を兼ねて林の中の小道を散歩して駐車場に止めた車に乗り込んんで家へと帰る事になった。
街に入る川を渡る所でふと異変に気が付いた。
「気のせいか?」
すっかり疲れてうとうとしていたちみっこ達もそのけたたましいサイレンの音で目を覚まし、その警戒音に不安げになってか俺へとまとわりついてきていた。
「真、この音なーに?」
「真、何かが怒ってるの?」
「真、何か怖いよ」
「真、側に居て」
初めて聞くだろう救急車や消防車の音に必死と俺にしがみ付くちみっこ達に
「大丈夫だから。怖かったら……シャツの中に入ってろ」
大家さんみたいに帽子付きのパーカーを着て来るべきだったかと反省をしながら後で買っておこうと考えているうちに
「真、なんか、熱いよ……」
「朱華?大丈夫か?風邪か?」
付喪神が風邪なんて引くのかと思えば川にかかる大きな橋を渡り、街を抜けた所でその意味を理解した。
「うそだろ……」
ここからでもわかるくらい特殊車両が並び、うすらと煙を上げる先にあるのが何かって事を理解すれば頭の中が真っ白になった。
「なんでうちに消防車が、煙上げてんだよ!」
あとわずかの距離と言うのに車のスピードを上げて車を道端に止めてたくさんの人に囲まれている家へと飛び出すように駆け寄るのだった。




