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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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自分と向かい合う時間 5

 岩さんが思わぬ才能を発揮して想定外の時間を取ってしまったが、なんとかお昼寝を期に俺は仕事に戻り、ごはんとお風呂に入った後ちみっこ達を寝かしつけてから仕事部屋で硯で墨を磨って床に頂いた紙を広げて筆を滑らせた。


「……すごっ。

 この紙筆が動かしやすい」


 古い紙で売り物にならないからと譲ってもらった紙だったが筆も滑らかに滑るし、墨の吸収具合も理想的だった。

 見るからに質の良い紙だとは思っていたけど古いからと言って舐めていた自分を恥じた。

「まさかこんないい紙、母さんが知ったら驚くだろうな」

 試し書きと言って隅っこの変色した部分を切り取って書いてみたものだが墨の乗りがよくっていつも以上にお札の複雑な文字がすらすらと書けて

「会心の作!」

 そんな自画自賛。

 さっそく写真を撮ってつっきーの所に送ればすぐに添削の返信ではなく電話が来て

『なんかすごいお札作ったなwww

 玄関の正面の壁に額縁を飾ってその裏に貼っておくのがいいぞ』

 そんなホテルの事故物件的な部屋の対処をするように勧められてしまった。

「やっぱり良いお札になりましたか?」

『急成長したって言うくらいに。何か変わった事でもあったのか?』

「実は……」

 聞かれて今日大家さんに掛け軸を書けと言われたところからご近所の紙漉きをしている方の家に出向いて書道用の紙を頂いたことを告げた。

『ああ、あのご夫妻か。引退しているとは聞いていたがこれだけ良い紙を漉いているなんて知らなかったな。俺もお願いしてみようか……』

 真剣に悩んでいるようだけど

「引退した人をこき使うの止めてください」

 大家さんのお願いだから紙を漉いてくれるのだからと注意を促せばやっぱりそうだよなと判ってるなら言うなよと言う言葉が出てしまうも

「やっぱり出来が良かったのはこの紙のおかげですか?」

『あといつもの筆ペンじゃなくってちゃんとした墨を使ってるだろ?多分それも相乗効果だろうな。真は意外と才能あるぞ』

「そんな才能があってもな……」

 と言いかけたけど、それで安心した生活が手に入るのだから悪い事ではないと黙ってしまう。

『とりあえずその紙と墨でお札を作って今まで張った奴全部と交換しておけ。

 そろそろ効果がなくなるぞ』

「もう?!」

『それだけ向こうもムキになっているって事だ。くそっ……』

 苛立気な声を意外だというように、でも少し急な口の悪さにびくっとしてしまえば

『ああ、悪い。八つ当たりだな』

 そんな謝罪と

『あいつの方からもこの攻撃が鬱陶しいから何とかしろって言われているんだ。これだけの攻撃だと周囲に被害が広がるかもしれないからなって。

 俺達側の問題をこっちに飛び火させるなって言われてたから』

 こんな辺鄙な所で生まれた付喪神に執着するなと言いたいのだろう。

 とはいえ京都から距離のあるこの地域で何ができるのかと思うも

『どうもお前の父親達は仲間を集めて付喪神を捕まえようとしているようだ』

「は、はあ?!」

 なんでそんな事になっているというように声を上げれば

『それだけあのちび達の力が魅力的だって事だ。

 もちろん俺達も対策をしているが、巧妙に隠すから向こうの規模とか実態がつかめん』

 ため息交じりの声をこぼすあたり本当に頭の痛い問題なのだろう。

『とりあえず、あいつが本気を出す前にお前は出来る限りの事をしておけ。

 あいつだって鬼じゃないからな。お前のできる事はあいつだってわかってるから、お前は出来るだけの事をすればいい。それだけだ』

 こうやって聞くと俺がちみっこ達にできることが本当に限られている事と大家さんにとって全く戦力にされていない事だけは判ってしまい、なんだか情けなくなってしまえば

『もし今の感情に悔しいと言うモノがあれば助言してやる。

 お前のお札はあいつには作れない。胸を張って誇っていいぞ』

 そんなお言葉だった。

「そう言われても素直に嬉しいって思えないんですけど」

 大家さんがいるだけでちみっこ達の意識が変わるし、大家さんの家に行けばいやでも理解できる。

 一見どこの田舎にでもある様な古民家なのに家を取り巻く空気はとても澄んでいてあんな風に維持なんて出来るはずもなくて、それだけで格の違いというものを見せつけられているのにと思うも

『安心しろ。本当にお前が頼りなかったらそもそもあのちび共をお前に預けたりはしない。ほんとムカつく奴だけど苦労してきた分あいつは人を見る目があるからな。あいつが当てにするぐらいだから自信を持て』

 そんな励ましの言葉に胸が熱くなるもののふと思い出してしまう。今朝の出来事を……

「そう言えば街の喫茶店……カフェ?のオーナーさんに会ったのですが大家さんの事魔王って呼ばれてたんですけど謂れは何か知ってますか?」

 そんな質問につっきーは声を立てて笑いながら真剣な声で

『今でこそ丸くなったけど昔のあいつはほんと愛想のかけらもなかったからな。よかったな、今のあいつで出会えて』

 それはどういう意味だろうかと思ったが

『あ、悪い。下の子が起きたみたいだから電話切るから』

 そう言ってまた何かあればすぐ連絡しろと言って俺が何か言う前に切ってしまった。

 まあ、そんな非常識な時間に電話をかけているから仕方がないんだけど……


 スマホを置いて筆を持つ。

 母さんはあまり言葉では褒めてくれなかったけど、俺がいいと思った書をいつも飾ってくれた程度には褒めてくれていた。

 今思えば言葉よりも分かりやすい褒め方だったのにあの頃は自分の作品を飾られるのが恥ずかしかった思春期と言うものですごく嫌だった覚えがある。

 だけどこうやって改めて他人から褒められるとなんだか無駄じゃなかったなと思いながら筆を走らせる。

 体に馴染むように何十枚、何百枚と練習した文字を程よい大きさに切りそろえた練習用の用紙に書き続ければ無心となって一枚一枚丁寧に漉いた和紙に向かい合う。

 この貴重な紙に見合うように、そして何十年と漉き続けた熟練の腕にせめて見合うようにと真剣に向かい合い、自分にも向かい合うように一筆一筆丁寧に筆を走らせた。





「真ー、お札張り替えるのー?」

「真ー、この紙少し黄ばんでるよー?」

「真ー、古いお札ぼろぼろになっちゃた」

「真ー、あっちに在るの剥がすの手伝ってあげるね」


「真ー、このお札お鍋の底にも張っておいてね」


 岩さんのお願いに俺は少しだけぎょっとしながらも

「それで安心して寝れるならいくらでも貼ってあげるからね」

 満足げな顔でお札探しに混ざる岩さんを見送りながらみんなもそれなりにこの攻撃に不快を感じているのかと思うもいつまで続くのだろうかと少し辟易とするのだった。





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