大家と話をする時間をください 3
「岩さんをいじめるなー!」
緑青が体当たりをするつもりかものすごい勢いで救出に向かうも
ひょい、ぱくっ……
岩さんを咥えていた鳥の仲間が緑青を咥えた挙句に食べやすいように頭から飲み込もうと向きまで変えていた。必死に抵抗する緑青だが
嘘だ……
小さくても付喪神。
人よりも動物によく悟られるもののまさかひよこにこんな目に合うとは誰が想像するだろうか。
それどころか岩さんにはいつの間にか何匹ものひよこが群がっていて引っ張り合いまでされていた。
「痛いよー!主ー!助けてー!」
「食べられちゃうー!助けてー!」
悲痛な叫びに真っ先に反応したのは仲間思いの二体。
「岩さんと緑青をいじめるなー!」
「主もつついちゃダメって言ってるでしょー!」
真白と朱華も全速力で救出に向かう。
しかしながら残念な事に……
ひょい、ぱくっ……
ひょい、ぱくっ……
「いたい!いたいよ!しっぽを引っ張らないで!」
「やめてよ!羽をむしったらいけないんだよ!」
うわああああっっっ!
正しく餌と認識されたちみっこの更なる悲痛な鳴き声が山にこだました。
そして遅れて救出に行った岩さんも
「目が回るよー」
しっぽを咥えられて振り回される全滅目前の様子にさすがに救出しなくてはと慌てて土間から回って助けに行こうとすれば
「こうなるから庭に降りるなって言っただろ!」
大家さんが裸足にもかかわらず縁側から飛び降りて
「ウコっ!ちび共は餌じゃないって何度言えばわかるこの鳥頭!!!」
大声で乗り込めば驚いたのかちみっこを離して塵尻になった所で怪我をしてボロボロになって泣きじゃくる五体を掬い上げる。
「ああ、ほら。もう大丈夫だから」
抱えて土間から台所に向かい、大きなテーブルの上に泣きじゃくる五体を置いて浅いお皿に水を張ってどこからか取り出した脱脂綿に水を浸してピンセットの代わりにお箸で怪我についた土や汚れを洗い落としてくれるのだった。
小さい体だからかそっと汚れをぬぐうさまはどこか手馴れている。
それでも未だにぼろぼろと涙を流して
「主ー、痛いよー」
「主ー、怖かったよー」
「主ー、あいつら食べようとするんだよー」
「主ー、毛をむしってくるんだよー」
「主ー、抱っこしてー」
「はいはい、解ったから。まずは治療をしないと……」
「「「「「うえええええーーーーーんっっっ!!!
抱っこーーー!!!」」」」」
とにかく今は何を言っても泣き止まないと言うように脱脂綿で洗いながした水分と涙の水分どっちが多いと言わんばかりに机の上はびちゃびちゃになっていた。
「俺も手伝います」
なんて手を出すも
「やだー!主がいいのー!」
なんて朱華に全力拒否をされてしまった。さりげなく傷つく。
「まあ、ちび共のイヤイヤ期だ。気にするな。
それよりも冷蔵庫にあるリンゴをすりおろして食べさせてくれ。おろし金は流しの横のかごの中に入ってるから……」
「ああ、ありました。冷蔵庫失礼します」
「あと麦茶も用意してくれ。ペットボトルであるはずだから……
食器棚にお猪口があるからそれで適当に入れてくれ」
何とわかりやすい指示だろうか。
リンゴをすりおろしてと言った時点で泣き声は少し小さくなり、リンゴをすりおろすよりも早く準備のできる麦茶を優先して用意しておけば綺麗になったちみっこから泣き叫んで喉がかわいたと言う様にさっそく喉を潤していた。
一番治療の難しい朱華はふわふわの羽を水でべとべとになってしまったのでドライヤーで乾かされていた。大家さんの胸に顔をうずめてふわふわになるまでおとなしくしていたけど
「リンゴ用意できました」
「小皿にスプーン一杯ずつよそってくれればいいから」
言われた通りに小分けすればみんなまだべそべそと鼻を啜りながらもすりおろしリンゴをぺろぺろと舐めるように食べ始めた。
スプーン一杯分だからあっという間になくなってしまったけどこのちみっこには十分だったようで、まだめそめそとしながらも主と呼ぶように大家さんに甘えるしまつ。
もう子供が親に甘えるしぐさそのものだった。
仕方がないと言うように
「ほら、今日はたくさん怖い事があったな。ちゃんという事を聞かないから罰が当たったんだぞ」
思い出してかまためそめそと泣き出す様子は本気で怖かったのだろう。
特に岩さんなんかはあとちょっとで本当にピンチだったし、緑青も少しだけ羽が破れてしまっていた。
破れてしまった事に落ち込むかの様に小さな羽の破れたところを握りしめている姿がどこまでも痛々しいが
「これぐらいなら時間がたてば治るから大丈夫だぞー」
「治るんかい」
そんなこと聞いたことないって言うも初見なので何を聞いても驚きなのだが
「意外と治癒能力高いぞ。
まあ、今までも何度かしでかしてきたからな……」
「何回も……」
「八戦八敗」
少しだけ遠くを見る目と先ほどの華麗な救出劇は経験を積み重ねた結果なのだと察することが出来た。どおりで冷静に対処しているわけだと感心するものの
「岩さん、疲れたから帽子の中で休憩しようか?」
着ていたパーカーの部分を少し広げれば一番怪我の酷い岩さんはするりと腕から伝ってもそもそと移動しながら吸い込まれるようにパーカーの帽子の中に吸い込まれていった。
大家、このためにパーカーを着て待機してました。