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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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自分と向かい合う時間 3

 ベッドでまだピクリともせず寝ていた人をベッドから落とせばさすがに驚いて目を開けた燈火と呼ばれた人は

「朝から人ん家に勝手に上がりこむのは魔王か!

 合鍵なんていつ作ったんだよ!」

 起き抜けに周囲を確認する事もなく言い当て凄い人だった。

 しかしそこは魔王と呼ばれた我らが大家さん。

 人を蹴落として空っぽになったベッドに座って

「知ってるか?鍵なんて簡単に複製が出来るんだぞ?」

 お宅もやられてたのねと仲間意識を持ってしまったのは当然だろうか。

 寝起きで会いたくないだろう相手から聞かされたくない言葉を聞かされて一緒に落ちた布団を抱きしめながら寝癖の酷い頭で信じられないという目で俺達を見上げるもこれがまだ朝の六時頃の出来事。文句を言われても当然でしかない。っていうか魔王って言うの、面と向かって言う勇気はないので俺も心の中でぜひとも呼ばせてもらいたい。

「なに、蔵のカギを少し貸してほしいだけだ。こいつに見せたいものがあるんだ。だからよこせ」

 差し出した手はいきなり人の家に俺を連れて乗り込んでいったかと思えば寝室で寝ている人を蹴落として鍵を強奪しようとする大家の横暴ぶり。

「人にものを頼む態度じゃないだろ!」

 文句は言えどもすんなりと鍵を渡すあたりこの人大丈夫だろうかと言いたかったけどなれてるなーなんて言う感想もおかしいと思いながら二人のやり取りを黙って眺めるしかなかった。


 鍵を受け取った後連れてこられた蔵を見れば頭の中はもう何も考えることが出来なかった。

 決して広いとは言えない蔵の中だけど柔らかな色合いのライトが照らす蔵の中はシンプルなまでに漆喰で仕上げているにもかかわらず、でもどこか品の良いレトロ感あふれる落ち着いた空間になっていた。

 その中に並ぶ机に置かれた美しい和紙で作られた伝統工芸品の数々。


「お前は運がいい。ここの作品はさっき会ったみち子さんの作品だ。

 これに合った書でたのむな」


 なんて無茶ぶり。

 しかし大家さんが魔王と呼ばれてまで横暴になった理由が分かった。

 常日頃からこういった質の良いものを目にしているからこそ当然のように要求してしまうのだろう。


 格が違う。

 下手なものは書けない。

 練習が全然足りない。

 練習どころか熟練度も足りない。

 だけど……


「なるほど、あの人はこういう感性を持っているのなら……」

 

 じっくりと作品と対面した事で俺の記憶にある漢詩が幾つかに絞られていく。

 これほど心を揺さぶられる作品を作る方だとは思わなく、だけど受信する俺の方が全くその技量に追いつけなくて、だけどせめて見合うようにみち子さんの作品と語り合うように燈火と呼ばれたこの家の人がご飯を誘いに呼びに来るまで向き合うのだった。


 




 蔵の中で長い時間作品と向かい合ってから帰ってきてまず始めたのは筆と墨を購入する事だった。

 掛け軸や額に入れる作品のサイズはだいたい決まっている。

 ただ持ち合わせている筆が全く合っていないだけの話し。

 就職して長年書き続けた書道をまた始めるかもと持っていただけの墨も足りなく、手持ちの筆もかなり古いので新しく買い替えなくてはと既に頭の中で何かが切り替わった。

 ただ家に貼るお札を書くぐらいならそれぐらいで十分だっただろう。

 だけど蔵で展示してあったみち子さんの技量には俺は全く追い付けず、せめて墨ぐらいは良い物を、そして書いているうちに毛が抜け落ちる筆ではないもので失礼のないように準備をしなくてはならないと思った。

 母さんが取り寄せていた墨や筆の購入先はネットでも買えるので問題はない。いつも母さんの筆を借りていたので気にした事がなかったけどいざ買うとなると思ったよりもお高くってびっくりしたけど先日のあの大騒動をしたプログラムの収入が入金されたのだ。仲介料こそ取られたけどそれでもかなり大きな金額が入ったので思い切っていろいろと購入する事にした。


 良い作品は人を触発するのよ。


 子供の頃母さんに連れられて書道の展示会に行った時の言葉だった。

 当然というように書かされていた習字だったので興味なんて持てなかった小学生の俺だったけど今なら解る。

 あのみち子さんの作品を見て揺さぶられる何かがあったのは確か。

 だからこそ環境を整えようとし、ネットで漢詩を選び、さっそくと言うように今あるもので練習をしようとすれば


「岩も書くー!」


 硯の中に岩さんが侵入したかと思えばそのまま半紙の方に向かって進んで……


「あーーー!!!」


 心の叫びが爆発した。

 声にこそ出さなかったけど、楽しそうに体についた墨を真っ白の半紙に塗り付けて楽しそうに岩さんは自分が進んだ後に残る墨の跡を満足そうに眺めながら半紙の上を移動していった。






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