筆に願いを 3
どこで覚えたのか玄さんの楽しげな駅のアナウンスの声と共に出発した電車を見送ればここはやっぱり心配なのでとスマホを取り出して
『はーい、こちらはこの世の摩訶不思議なお悩み相談所、所長のつっきーでーす』
相変わらずのハイテンションな応答に
「ネタつきませんね」
最初の何回かは楽しかったけどここまでくると良く続くなと感心しながらどうでもよさげに言えば
『そんな九条君に今回の依頼料は一割アップだ』
ノリと言うかささやかな反応が欲しかったつっきーからの嫌がらせ。
もちろん小学生ではない大人なのできちんと対応します。
「大家さんに伝えておきま……」
『やだなーくじょー君。ただのジョークじゃないか』
あははははは……なんていかにもその場をごまかすような笑い声をこぼすつっきーからかろうじて聞き取れる声でぼやいてくれた。
『やっべー、あいつに下手な事で絡まれると碌な事がないからな……』
絡まれる懸案だったんだと言うか五百円の一割なら知れたものだしお子さんのおやつになるのだから構わないと言いたいけど不意に大家さんの考えが頭の中に響いた。
こういうのを一回でも認めるとなし崩しになるぞ。
声は先輩の声だったけど会社の先輩だけの付き合いだったら気付かなかったけど田舎に戻ってきた先輩を知ったからこう言える。
「先輩、それ誰の受け入りですか?」
はい。そうですよね。
絶対大家さんですよね。
当然だろと胸を張って言い返してくることも想定内です!
大家さんをネタに少し空気もほぐれたのでここから本題に突入する事にした。
「実は今回は岩さんの事なのですが……」
そう切り出して今日あった事を話した。
家に黒い煤の様な見ているだけで良くないものが出てきた事とそれらはお札で払う事が出来たという事。
そこまでは問題がなかったが、その黒い煤を岩さんが食べていた事は問題ないかと言うのが今回の相談。
『いや、うちの式神にもほんのわずかだが穢れを食べるやつらがいるけど別に好き好んで食べてないからな。なるべくなら食べさせないほうがいい』
「ですよねー。どう見たっておいしそうじゃないし」
『美味しいとかいう話じゃないんだが……』
「岩さんがそう言ってたのでつい」
基本ベジタリアンな玄さんとは違い何でも食べる岩さんの食生活は何を好むのかいまだに不明。雑食と言えばそれまでなのだろうけど、一緒に暮らしている以上好き嫌いは把握したいとは思っているがご飯の時はいつも玄さんのお世話をしているのでそれ所じゃないのだろう。
なんせ玄さんと同じベジタリアンな朱華が常にゆっくり食べる玄さんのご飯を狙っているのでその防衛に岩さんは必死なのだ。だから出されたものをほぼ丸のみする形で早食いの朱華を迎撃するのだが……
あ、丸のみこそ蛇の食事スタイルだっけ?
蛇の生態を思い出しながらも
「体とかには影響ありませんか?」
『食べ過ぎなら危ないけど、まずあれを食べると言う行動に出られるだけあって抵抗力があるわけだ』
「そういや真白なんかは近寄りもしないですからね」
『それは成長して強くなれば解決する問題だからな。ちゃんと子供らしく防衛本能が働いているって事で無茶はさせないように』
なるほどと聞きながらタブレットにメモを取る。
『うちので時々体調崩す奴がいるがそう言うやつは大体穢れを食べ過ぎて消化不良になったのか黒い塊をぺって吐いたからな。吐けば元気なものだけど吐き出したものは多分真が見ている黒いふわふわな物とは違ってもっとどす黒い恨みが形になって固まったようなものだから。お札……破邪のお札って知ってるか?』
「ええと、黒いモノを払うお札があっているのならそうだけど……」
そんな大層な名前だったのかとうちでは払いの札って呼んでいたので自信はないが
「この後答え合わせで写メ送ります」
『そうだな。って言うか札を作れるのか?』
「ええと、黒いモノを払う札と、悪い気が家に入ってこない守りの札と自身を守るための守りの札の三つですね」
うーんと悩む声が聞こえた後
『写メでどのレベルか見たいから、紙と筆は何でもいいからその三つを書いてすぐ送ってくれ』
そう言って通話をぶっちぎってくれた。
仕方がないと言うように片づけてしまった半紙ではなくプリンターからコピー用紙を何枚か持って来て筆ペンでささっと書く。
さっき書いたばかりなのでまあまあな出来だなと自画自賛をして写真をパチリ。録ったそばから送り付ければすぐに電話がかかってきて
『真、これだけできるのならもう一つ強力な結界の札を教える。
写メを送るから部屋に一枚ずつ見えない所でも十分だから貼っておくように』
「えーと、トイレとかふろ場にも?」
少し声が硬くなったつっきーとの会話をほぐすように冗談っぽく言えば
『当然だ。だが風呂は……脱衣所で十分だ』
そんな真剣な声。
『もちろん納戸とか押し入れとか暗くてめったに開けないような場所にもすべて貼れ。出来れば家の外の物置とかもあればそこもだ』
真剣過ぎる声に少し引きながらも
「どうしたんですか?いつものつっきーらしくないっすよ」
逆にその真剣さに不安になれば少しだけ黙ってしまった。
それからゆっくりと語りだした言葉は想像を超えた内容だった。
『悪いな。どう伝えればいいか迷ったが結論から言うぞ。
その穢れは誰かが故意に真の所に送り付けている』
背筋がぞわっと粟立った。
『しかもかなり悪意を持った攻撃だ。
綾人から聞いたか知らないが前にお前が住んでいる家が真っ黒になるほどの穢れで埋め尽くされていたと』
前にも言っていた事だが今聞いても背筋がぞわぞわとする言葉にもうぞわぞわが止まらなくてスマホを持たない手が助けを求めるかのようにシャツを強く握りしめていた。
『綾人が全部追い払って朱華が浄化させてからこんな短期間でまた発生する事はまずない。ましてや付喪神が住む家でそんなものが発生するわけがない』
確信を込めた言葉に思い浮かぶ顔が三つ。
『そうだ。お前の親たちだ。ただ三人で実行するにはかなり大きな力が動いている。そこが心配なのだが……』
「あ、あの!」
思わず声をかけてしまう。
言われる前から想像がついていただけに答え合わせをして落胆とまではいわないがやっぱり諦めなかったかという考えは幼いころから兄貴にかけたプレッシャーを見ていたから理解していたつもりだ。だけど何百㎞と離れたここよりもっと近い所に居るじゃないかと声に出そうとしたところで
『目的は緑青だ』
俺の疑問は言葉にする前に答えを出してくれた。




