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大家と話をする時間をください 2

 緑茶を啜りながら麓の和菓子屋さんのお菓子を頂く。

 ちみっこ達も幸せそうにイチゴ大福に齧り付いていたけど、おなかがいっぱいになったのかさっそくと言うように大家さんから渡されたボールを追いかけながら遊んでいた。

「なんていうか、癒される光景ですねー」

「まあな。だけど夢中になりすぎて障子を破き始めたらただの悪魔の集団だ」

 そういってお茶を啜った直後、ボールに乗って遊んでいた真白がバランスを崩して障子に穴を開けた。

「あ……」

 一瞬頭の中が真っ白になりながらもちらりと大家さんを見るも達観したかのように上用菓子を黒文字で品よく食べていた。

 良かったー。

 手土産に何を買っていけばいいかわからなかったけど綺麗なお菓子があって良かったー。

 見た目重視で買ってみたけど元々が美味しい和菓子屋さんだったからきっと何を食べても美味しいだろうと信じて買ってきて正解で本当にほっとした。

 だけど本当の地獄はここからだった。

 一度破れたっ、べりっと障子を破る音。

 さらにそれを真似るように緑青までも障子に穴を開けて楽しみ始めていた。

 幸いと言うか、玄さんは頑張って後ろ足で立ち上がっても障子の紙にたどり着かないが、あまりに楽しそうに破っている緑青と真白の様子に朱華も一番下の段を破りながら飛び越えたり、岩さんも緑青に紙の部分まで連れて行ってもらって桟にからみついてうねうねと破きながら遊んでいた。

 もう一度ちらりと大家さんを見る。

 まるで見えてないかのようにちみっこが食べ残したイチゴ大福のイチゴなしを絶賛しながら食べていた。

 ああ、大家さん現実逃避してるんだ……

 この域に達するくらい苦労したんだなと思ってそっと涙をぬぐっていれば


「主ー、お外で遊んでもいいー?」

「お外は今鳥さんがいるから駄目だよ」

「「「「「えー?!」」」」」


 ちみっ子たちの不満のコーラスはなかなかの迫力があった。

 大家さんは知っていたと言うようにすぐに両耳をふさいだものの、このちみっこ達の小さな体でなんでこんな大きな声が出せると言うくらいの煩さをまだ賑やかと言う程度の認識しか知らない俺は遅れて耳をふさぐもちみっこの声が耳の奥でぐわんぐわんと反射するかの様に耳鳴りをしていた。

 ああ、小さくても付喪神だったか……

 外見のかわいさにその力を見誤っていた俺の失態でもあった。

「大丈夫か?」

 まるで慣れていると言うように耳から手を放した大家はどこからか取り出したスーパーボールをポンポンと跳ねるように投げれば障子で遊んでいたちみっ子たちは障子遊びなんて忘れてスーパーボールが跳ねる様を追いかけるようにジャンプをしていた。


 かわええー。

 

 思わずニマニマしてしまえば俺の事をもう大丈夫だと思ってかお茶を啜り


「で、あいつらの何の話があって来たんだ?」


 そうでした。

 一応それを理由でお邪魔したのでしたと言うように居住まいを正す。


「あいつらに名前を付けたのは大家さんだと聞きました」

「まあ、そうだな。名前がある方が区別も出来て呼びやすいし」

 

 声をかけると全員が返事をするから不便だからと言う理由に思わず呆れながらも納得の理由に苦笑。

 前にスーパーで母親を呼ぶためにうっかり「母さん」なんて大きな声を張り上げたらたくさんの妙齢の女性が振り返ったあの光景はなかなか忘れる事が出来ない。


「一応あの掛け軸とか香炉、彫り物に似合った名前を付けたつもりだったが、名は体を表すじゃないけど、掛け軸や香炉、彫り物からわかるような立派な姿で生まれたんだ」


 どっと疲れたような声に何があったんだと思えば


「その姿で知能はあのレベル。

 家も壊れるし、山も荒れる。本当にひどい事になって緑青なんて立派な名前なんて必要ないとまあ、その名前の意味する通り「さび」だったり、真白の名前の通り「しろ」と呼んだり、玄さん岩さんはまったく別の名前だったけど素材の玄武岩からおとなしくなるように武を取り除いた上に文字を分けて力を半減させてね。

 まさかあの眼鏡が置いて行ったラノベの知識が役になって驚きだよ」

「ラノベ知識ですか……」

 

 さすがにそれは驚きだった。そしてあの眼鏡と言う人物について詮索はしない事にした。きっと俺の中の尊敬度がこれ以上落としたくないと言うストッパーが働いたからと思いたい。

 正しい名前を捩らせることで力を隠す事はよくある事だが、知識もなさそうな大家さんのまさかのアドバイザー≠ラノベに世の中すごいなと感心するしかなかった。

 

「まあ、おかげで幼稚園児以下まで退化したけど、一から鍛えやり直すと言う意味では正しいよな」


 なんて自信ありげに力強く頷いていた。

 いや、そういうものじゃないんだけど……

 なんとなく納得できなかったけどこういう場合のケースを前に親父が話してくれた時の事を思い出した。


 格上が格下に施す場合は必ずしもそうではない、と……


 俺が見る限りではお菓子を堪能してまったりとお茶を飲む大家にしか見えないのだが、生まれたばかりとは言え付喪神に名前を与える力と言い、一度つけた名前にもう一つの名前を与えて力を封じるなんて本家の方達でも早々できない技をラノベの知識だけでやってしまう大家の存在に警戒するしかない。

 家に帰ったら親父に連絡だと考えた所で


「そういや朱華の名前は……」

「ひよこか?ひよさんはあの家の欄間から生まれたからな。まあ、あの家にさびたちを連れて行ったところで縄張り争いどころか、長い事空き家にしていたからな。

 可哀想に。寂しかったんだろう。

 すぐに仲良くして一緒につるむようになったさ」

「あー、ひよこ…… ですか」

 

 名は体を表す。

 名前通りのひよこの姿に半分意識が遠くなる理由はあの家の欄間の見事な彫刻からかけ離れた姿に納得と言うかなんというべきか……

 少しだけ名前のセンスを疑ってしまうのだったその時


「岩さーん!!!」


 玄さんの悲痛ともいうべき泣き声と共に大家さんと一緒に声の方へと振り向ければそこには庭にいた真っ白なひよこたちによって岩さんがくちばしで引っ張られると言う光景があった。







障子はこの後友人を呼んで直させました。(友人不憫)

 

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