微睡の午睡
朝起きたらちみっこのお世話におばあちゃんの猫のごはんの準備に畑のお世話が加わった。
ありがたい事に池に注ぐ水を畑に流すので水道代ゼロ円は小さい畑とは言え正直助かる。とりあえず今は遠藤さんに教えてもらった通り苗がしっかりと根付くまでの間はお水をしっかりあげる事とこの時期朝と夕方の二回水やりが必要になる事を教えて貰った。
意外と水が必要な事に驚いたが
「真ー、緑青もお水あげていい?」
小さなおもちゃのバケツを持ってやってきた緑青は池から汲んできたお水をもってトマトの苗の上でパタパタと飛んでいた。
「いいぞー。ただし朝と夕方だけだぞー。
お昼にお水を上げると茹っちゃうからな」
と遠藤さんは言っていた。
それだけ暑くなるという事なのだろう。今まで考えた事の無かった事を一つ一つ知る事は新鮮に思えて暫くの間緑青の水やりに付き合う事にした。
「緑青はお花が好きなんだね」
「好きー!お花可愛いよね!主も大好きなんだよ!」
「大家さんが好きだから好きなの?」
ちょっと意地悪な質問に
「主も好きだから好きなの!」
屈託もなく言うあたり危険だなと思いつつも、それを良しとしないだろう大家さんのあの性格なので俺はあまり危機感は覚えなかったが
「お花はいい香りや蜜も甘くておいしいんだよ。時々舌がピリピリするけど緑青はお花の匂いにいっぱい囲まれてるとおなか一杯になれるくらい幸せなんだ」
「へー、さすが香炉の付喪神かな?
良い香りが好きなんだ」
「そーなの?」
幼いだけあってまだよくわからないと言う顔だけど
「主はお花が咲くと美味しい食べ物がいっぱいできるから好きなんだって。
あと昔死んじゃったバアちゃんがお花が好きで、主の家はバアちゃんのお家だからお家も寂しくないようにお花をいっぱい咲かせるんだって」
ほら見ろ。
やっぱり下心満載じゃないかと思いつつも後半の部分はなんと返せばいいのか言葉に詰まってしまって
「へー、だから紫陽花がいっぱい咲いてるんだね」
深く意味を捉えない返事で返せば
「バアちゃんの花畑は主が守るんだって言ってたんだ」
誇らしげに語る緑青に思わず心の中で涙がほろり。
大家さんのくせに良い話ししやがって……
俺に対しては親切なのか雑なのか今一つ酷い対応だけど、こうやってちみっこには過去を話してくれるあたり信頼の差なのだろうなと思い至れば納得するしかないだろう。
そしてこんな良い話を聞かされてる横で少し離れた池のふちで
「「朱華がんばれ!」」
玄さんと岩さんに応援されながら緑青とおそろいのおもちゃのバケツを足でつかんでるように見えて蓋をするかのように座り込んでバタバタと羽を羽ばたかせていた。
なんという事だろう。
意識が遠くなると言うのだろうか。
「なあ緑青、朱華また太ってないか?」
「主のとっておきの常備菜をもって花ちゃんのお家に遊びに行ったからね。
朱華は花ちゃんと一緒に飲み会してたからしかたがないよ。
緑青は杜ちゃんと一緒に遊んでたんだ」
知らない名前が出た。
むしろ誰だ?と思えばそれが顔に出ていたのかちみっこなのに気を利かせて緑青が教えてくれた。
「杜ちゃんは花ちゃんの子供さんなの。いつも遊んでくれるんだ」
なるほど。
花ちゃんの家に行く、つまり杜ちゃんに遊んでもらえると言う図式か。
そして朱華は花ちゃんの家に行く、それは食べ放題というパーティと言う事か。
朱華の思惑以外みんな子供らしくてよろしい。いや、ある意味朱華も欲望に忠実で子供らしくてよろしいと思うのだがいかんせん。
バケツを運ぼうと羽ばたかしてはいるものの全く浮かび上がらないその姿に岩さんも玄さんもとっくにお池遊びに戻り、その間に玄さんと岩さんに水くみをしてもらった真白がおもちゃのバケツを俺の所に持って来て側の謎の植物に水を与えていた。
「真白はお水が苦手なのに頑張り屋さんだな」
「真白もやればできるもん!」
褒めたのがきっかけかまた玄さんと岩さんにお願いしてバケツにお水を汲んでもらって、持ち手を咥えて運んできてくれた。
これはナイスチームワークと褒めるべきだろう。
たとえ真白がここまで持ってくる間にバケツのほとんどのお水がなくなってしまってちょびっとのお水しかなくてもこれは内容ではなく意気込みの問題だと言うように二度目のお水を持って来てくれた所で真白をわしわしと首周りを撫でるようにして
「ありがとうなー。お花さんももうおなかいっぱいになったって言ってるよー」
なんて感謝をすれば嬉しそうな顔で
「じゃあ、真白遊んでくるね!」
そう言ってたたたーと駆けて行ったかと思えば池に飛び込んで……
「浅瀬で涼んでいるとか……」
意味わからん。
あれだけ水が嫌いなのにそれはいいのかと突っ込みたいがそれよりもその近くで今もパタパタと頑張る朱華よ。その努力は認めるが……
「朱華、気持ちはありがたいけどそろそろ疲れただろ?」
ウルっとした目で俺を見ないでくれ!
俺が悪いわけでもないのに何で俺が心を痛めなくては?と思いながらもそこは気づかれないように今もバケツを持ち上げよとする朱華を両手で掬いあげて
「朱華がまたお空を飛べるように協力するよ」
お空と言うか低空飛行だけど。
めそめそと泣き出した朱華を優しくなでながら縁側の土鍋ベットに置けばするりと緑青も隣に潜り込む。
「緑青は前に大きくなった朱華を覚えてるよ。
あの時は一緒にお空をお散歩できなかったけどまた今度一緒にお散歩しようね!」
言いながら朱華を長い胴体でくるりと囲んで目を閉じる。
逃がさないと言うようにそっと羽を朱華の上に伸ばせば暫くして朱華も目を閉じた。
なんだかこんな小さくても思いやる心を持つちみっこの眠りを守るように静かにそっとこの場から足を運んだ。




