小さいながらも作る夢の国 10
結局大家さんの所でしこたま飲んで潰されて昼まで寝てやっと起きる事が出来た。
お台所の隣の部屋に敷かれた布団の上に転がしておいてもらってここはどこだろうと寝起きにプチパニックになったけど
「ああ、起きたか。トイレは隣にあるから。喉が渇いたらウォーターサーバーの水を飲むんだぞ。生水は飲むなよ」
土間を挟んで机に向かって何やらペンを走らせている人、せんせーが俺の方をちらりと見てからトイレの場所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
とりあえずと言うように教えてもらったトイレを借りて、ウォーターサーバーのお水を側に置いてあったコップを借りていただいてほっとした所だが
「それにしても昨日はよく飲んだが大丈夫か?」
「昼まで寝ていた時点で大丈夫じゃない気がしますが、今は何とか頭が痛いぐらいで……」
「台所に二日酔いの薬があるから一応飲んでおくといいぞ」
遠藤さんにも言われたけどまさかこういう事を見越してかと確信犯たちの罠に体を震わせてしまう。
よそ様の常備薬を頂くのは気が引けるけどそれでもこの辛さを素直に耐えようとする気にはなれなくてありがたく頂戴する事にした。
「あの、大家さんは?」
聞けば
「あいつも二日酔いで部屋でくたばってるから。気にしなくていいぞ。もうお約束だから放っておいていいぞ」
「あー……ほかの方は?」
「宮下と圭斗は家に帰ったし、園芸部は綾人の代わりに畑の手入れをしている。
お前は、今日はゆっくり休んでおけ」
「っすね。何もやる気が起きません」
お水を貰って薬を飲む。むしろこれで気持ちよく吐き出せそうだけどせっかく薬を貰ったんだから何とか耐えてみせた。
「無理しないで横になってていいぞー」
「いえ、大家さんと同レベルってなんか情けなくて」
俺には若さがあると言うように起き上がっていれば先生は苦笑して
「だったら悪いが園芸部呼んで来い。って、あーお前も園芸部か」
「ややこしいので園芸部の名前は遠藤さんで良いと思います」
「九条は若いのに分かってるなー」
園芸部とは園芸の活動の事ではなく遠藤さんを指すあだ名の事だと十二分に理解すれば俺が名乗るわけにはいかない。いや、むしろ名乗るべきではない。決して名乗りたくないと言うかなんと言うか……
「あの、因みになんで園芸部て呼ばれてるんですか?」
「ん?あー、確か……あいつが勝手に綾人の畑の手入れを始めたからつけられた名前だったな」
「自業自得っすね」
「まあ、本人が気に入ってるから厭味すら通じてなくて笑えるけど」
酷い教師がいたもんだと思うもこらえきれないあくびに先生はしょうがないなと言うように
「もう一度寝るとすっきりするぞ?」
「あー、やっぱりそうします」
胸もむかむかするし、頭もガンガンする。この状態で車になんて乗れない。
薬の効果はまだないし、食欲のかけらもない。遠藤さんを呼びに行くのは諦めて横になった。
「寝れば治るから寝れる時に寝るのが一番だ」
かなり俺を寝かしつけたい先生のようだが、ここは甘えておこうと素直に頷いて
「すみません。やっぱり寝ます」
「だな。九条、今相当顔色悪いの自覚しろよ」
そんなにと思うも布団に入って横になれば土間を挟んだ部屋から聞こえてくる陽気なテレビの音楽さえ子守唄に聞こえ……
「うそだ……」
次に目を覚ました時は夕焼けに染まる空を見る事になっていた。
「おー、やっと起きたか。
先生に寝かせておけって言われたけどやっぱり二十代だよな。いくらでも寝れるって言うのは。
あ、園芸部は先に帰るってさ。水撒きは任せとけって言ってたぞ」
「園芸部はほんとマメよねー。
因みにせんせーは五時間寝れたら御の字なのよー」
「目指せ六時間!」
「さすがに寝すぎじゃなーい?」
また無茶を言うなんて先生はぼやくもそれ無茶か?なんて疑問に思えば
「真ーおきたー?」
「真ー、お昼寝よく寝たねー」
「真ー、寝る子は育つって主が言ってたよー?」
「真ー、二日酔いって痛いのー?」
「真―、主がご飯食べれる―?って聞いてるよ」
先生の頭や肩に乗っかっていつの間にか勢ぞろいしていたちみっこの賑やかさが懐かしくて思わず笑みが浮かんでしまう。
「ええと、もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました」
「なに、綾人とセットで寝てるだけだから迷惑も何もない」
「それより飯にしよーぜ。とりあえず鍋。やっぱりこういう時はあっさりした鍋で〆は雑炊が一番だね」
「要はめんどくさいんだな。
じゃあ、せんせーは追加で適当に魚でも焼いて食べるから囲炉裏の準備と魚捌いておいて」
「全部かよ」
苦笑しながらも魚は獲って
「あの、先生って視える方ですか?」
「まったく視えないぞ。気配もかんじないし、だからかあいつらのおもちゃにされてるだけだから気にするな」
「おもちゃって……」
「ほら、視えると思わず剥がしたり気を使ったりするだろ?
だけど視えなければああやって遊びたい放題だから乗り物気分で楽しんでる程度だ」
それでいいのかと思うものの
「あとせんせーはいつも何か側に食べ物やお茶を置いておくからな。ちみっこがばれないようにおやつを貰おうなんて遊びに発展するから……子供は遊びの天才だよ」
そこ無理やり褒める所かなと思うもご飯の準備を始めるので手伝わせてもらい、〆の雑炊もしっかりと堪能した所でお暇する事になった。
もちろんちみっこも連れて。
「「「「「主また遊びに来るねー!」」」」」
バイバーイと手を振りながら俺にしがみ付いて車に乗り込み、家へと寄り道をせずに帰る事にしてたどり着いた明かりのついてない我が家。
だけどふと気が付く。
「こんな所に紫陽花なんて……」
まだ植えたばかりの土の様子にひょっとしてと思ってスマホで遠藤さんに連絡を取れば
『お?もう大丈夫か?』
「ええと、おかげさまで。ご迷惑おかけしました。
それより玄関の横のあじさいですか?これって……」
『それ師匠の畑から譲ってもらったやつなんだ。
ほら、挿し木したばかりだけど小さい苗の状態で植えたらこの冬は越えるの厳しいからな。昨日挿し木にした奴は来年植えれば十分だけどさすがに寂しいからな』
にかりと屈託もなく笑う顔が脳裏に浮かぶ。
『他にも譲ってくれるって言うから少しずつ植えて行こうと思うけど植えてほしいものがあったら言えよ。どんどん俺が勝手に植えていくから後悔するなよ』
すごくウキウキと弾む声の遠藤さんに
「でしたら藤棚じゃなくてもいいけどそういった場所の下でベンチが置けるような場所が欲しいです!」
庭は十分にあるからそう言うのもあればと思えば優雅だなと空想に胸を膨らませれば
『じゃあ、倉庫の周辺が殺風景だからそのあたりで何か作るのも悪くはないな』
そうやって夢が膨らんでいき
『なら明日仕事が終わったら話を詰めよう』
「お願いします!」
そう言ってスマホを切った所で
「ごめんね。今鍵開けるから」
玄関先で待たせてしまったちみっこに謝りながらドアを開けて明かりをつければ
「「「「「ただいまー!」」」」」
「はい、ただいま」
一斉に俺の肩から飛び降りて家に駆けこむ様子は今日も一日楽しかったと言うような弾む声に俺はさんざんな一日だったけど、良い事もあって
あんがい良い一日だったのではないかと家に帰ってきた安心感にそう思うのだった。




