小さいながらも作る夢の国 9
庭に立ち込める炭の匂い。
焼ける魚ととうもろこしの皮が焦げる香ばしい匂い。
つまり、何かと言えば食欲をそそる匂いなのだ!
「大家さん、いつもこんな生活をしているのですか?!」
「まあ、ここだとガス代よりも薪や炭を燃やした方が効率的だし?」
「いや、普通は炭の方が手間がかかるでしょう」
何が効率かは判らないが
「うち持山があるだろ?
知り合いに炭焼き職人さんがいて、山の管理をお願いする代わりに木を無償で提供してるんだがいつもお礼に炭を頂くから積極的に使う事にしてるんだ。
もちろんちゃんと生計が立つくらい炭を売ってるからお互いwin-winだしー」
誇らしげにビールをくぴっと音を立てな美味そうに飲む。
「説明聞く限り良い話に聞こえるけどなんでまったく良い話に聞こえないんだろう」
軍手を借りて玉蜀黍の皮をむいてしゃくしゃく齧りながらぼやいてしまえばせんせーは笑いながら
「そう言う所に疑問を持つのはいい事だぞー。
こいつの一見良い話に聞こえる話の裏にはいかに自分が自堕落に過ごせるか計算づくめだからな」
「せんせーには言われたくないしー」
昼間からビールを飲み、プリっと焼けた蠣にレモンを絞ってちゅるんと食べる大家さんからも説得力は全く感じなかったけど
「それにこういう平和な時間を手にする為に俺は頑張って来たんだ。文句があるならこの夏休み出禁にするぞ」
「何を言ってる。せんせーの実家はここなんだから綾人に禁止される謂れはない」
一瞬親戚かと思ったけど
「あ、まったくの赤の他人だから信じちゃだめだよ。全くせんせーはさらっと本当の様な嘘をつくんだから」
「園芸部は何を言ってる。こういう軽いジョークから若者と距離を取る年齢の俺様を見て自分の十年後だと想像して予習するべきだろ」
「いやー、俺の十年後は綾っさんの畑の専属管理人になる事なんで」
「実桜ちゃんを追い出してその座を奪おうとは、せんせー後で伝えておいてあげるわぁ」
「ジョーダン止めてください!」
なんて笑いあう輪の中に俺がいると言う不思議。
話は分からないけどなんとなく人間関係がよくわかるから知らない話をされていても不思議と疎外感を感じない。
そんな風に笑いあっていれば車が一台やってきて
「あー、もうみんな先に始めてるなんてひどいー!」
「なあ、これ俺達のお疲れ様会じゃなかったか?」
なんかすごく気の良い感じの人と目つきは悪いがやたらとイケメンな人が来た。
「おう、香奈はどうした?蒼は奥さんと娘の家族サービスって言うのは理解したが」
「香奈ちゃんは妊婦さんだからお酒が飲めないから実桜さんの所でケーキ焼いて女子会するって」
「蒼が不憫w」
大家さんは少し酔って機嫌よく笑っているけど
「で、そいつはどこで拾って来たんだ?」
なんてせんせーに問いただすけど野良犬野良猫じゃないんだけどと言いたい。だけどあまりの目つきの悪さに何も言い返せない俺の代わりに
「麓の家のちょい上の借家を借りてる真だよ。
庭の手入れに綾っさんの所から苗を貰いに来たんだ」
あとから来た二人にビールを用意しながらの遠藤さんの説明に
「あの家の!やっと人が落ち着いて住んでくれたんだ!」
「何かあるかと思ったけど空き家にならずに済んでよかったな」
「ちなみに真は植田の職場の人間で独り立ちしてあの家を紹介されたんだとさ」
そんなせんせーの雑な紹介。
まあ、彼女に振られてやけになっての下りは言わないあたりがせんせーなんだろうなと少しだけ見直してみた。
「植田も相変わらず元気そうだね」
「お前らがバタバタしてる時に年休消化で水野を巻き込んで帰ってきてたぞ。なぜか不思議な事にあいつらが高校生の時の夏休みの終わり頃みたいなやつれ方してたけど」
せんせーはそう言いながら大家さんを睨みつけていた。
しかし後から来た二人は原因はやっぱりお前かというように溜息を吐いていて、やっぱり大家さんは油断ならない人だと考え直すのだった。例え原因が俺にあったとしても……
「それより九条にも紹介しておくな。
目つきが悪い方が圭斗でもう一人が宮下。高校の時からつるんでる二人でお前の家のちょっと下の俺の家の所の工場で働いてるから何かあった時は飛び込めばいいからな」
すでにうちのちみっこが飛び込んでますとは言わないが
「宮下さんって、坂を下りた所のお店が確か……」
「俺の実家だよ。今は結婚して麓の街に住んでるけど、ちょくちょく綾人のお世話をしに帰ってきてるからうちのお店もご贔屓に?」
「早速手土産にアイス買ってきてくれたぞー。冷凍庫にあるから食べてくれ」
「アイスも魅惑的だけど今は網の上の方が気になるから後でいただくよ」
言いながらトングで適当に取り皿の上に乗せて食べ始める。
「おなかすいたー!アツアツって幸せだね!」
「だな。今回仕事先が遠くてハードだったし。園芸部も悪いな。一人でこっちの留守任せて」
「問題ないっすよ。師匠が綾っさんのせいで荒れていた程度の問題だし、真のおかげで庭造りを一からする事になって楽しんでますから」
にこにことビールを呷いだ遠藤さんは
「あと重大報告です」
真剣な顔をして皆さんに告白をする。
「ついに真君が園芸部に入部してくれてボッチじゃなくなりました!」
一人でぱちぱちと拍手する遠藤さんに皆さん俺を正気かという顔で見ていたが
「園芸部やっと増えて良かったね」
「だな。園芸部って呼ばれて何年だ?やっと仲間が出来たな」
「あれだ。実桜さんの腕前のせいでお前の存在が霞んでいるけどお前だって十分にすごいからな」
「ともあれ仕事と趣味は別だからしっかり仕事の内容を趣味に活かせろよ」
宮下さん、圭斗さん、せんせー、大家さんの言い方はなんか辛辣だけど遠藤さんはふふふと笑い
「任せてくださいよ。
パチラーだったころの俺はもういないのですからね!」
みんな褒め称えるように、でもどこかどうでもよさげに拍手を送っていた。
って言うか自分でパチラーって言うのまずいっしょ。
いや、無事パチラー卒業できたのを褒めるべきか悩むも
「まあ、植物のお世話は日の出に始まり日の入り後もいくらでも仕事はあるからな。パチンコなんぞに時間を使ってる暇なんてないぞ」
「ですよねー。おかげで毎日が充実してますから!」
さりげなく恐ろしいまでの言葉を聞いたような気もしたけど、俺も皆さん同様に聞こえませんでしたと言うようにビールを呷いで気が付く。
こうやって親睦が深まっていくのかと田舎のBBQからの交流が重要な社交の場だと大切だけど勘違いするのはきっと……
雰囲気の楽しさに完全普段の飲む量を余裕でオーバーしているからだろうとすでに空き缶が5個も並んでいる現実に付き合いは大変だっていう事を思い出すのだった。




