大家と話をする時間をください 1
昨日アポイントメントを取って手土産にダブルトラップのある和菓子屋さんでそれなりに見た目の奇麗な和菓子を何点か購入。
一応ちみっこたちの数に俺と家主さんと家族(推測)の分を用意した。
ちみっこたちは久しぶりの里帰りにテンションマックスで案内をしてくれるもシンプルな道のりの車の中で暴れまわるのだから静かさを犠牲に何か歌を歌わせておとなしくさせた。
まさか今どきのCMソングでおなじみのPOPソングを歌われたのには逆に引いたが、とりあえず安全運転は確保したので良しとしよう。
山間の田んぼや畑の中を突き抜けるような曲がりくねった道が導くまま、目印の商店を左に曲がって道なりに進む。
確かに簡単な道のりなのだが心細いのが不安でしかない。
ましてや目印のお店を曲がってからは一軒の家もない。
本当にこの先に家があるのかと不安のままつき進めるのはちみっこたちのテンションがもう限界突破状態だから。
何と言うか……
家を追い出されたのにどれだけ主と故郷が好きなんだよと呆れてしまうも、まあ、気分は夏休みに祖父母の家に遊びに行くと思えば納得だろうか。
見た目も精神年齢もちみっこなだけに気分は幼稚園児を預かっている感じだ。
つまり俺は保父さんか?
早く早くとせかされながらやがて見えてきた山間の一軒家。
年季の入った古民家の風格に「へ~」なんて思いながらも家の前に柵があってそこで車を止める。
「呼び鈴なんてないよなー……」
車を止めてどうしようかとドアを開けて降りようとした途端
「主ーただいまー!」
「主ー遊びに来たよー!」
「主ー真がおやつ買ってきたよー!」
「主ー隠れてないで出ておいでー!」
「主ー会いたかったよー!」
車から飛びだしてその小さな手足を懸命に動かして柵の向こう側にいた一人の人物へと全力で駆けていくのだった。
小さな体からとは思えないほど大きな声に主と呼ばれる大家さんも気づいたと言うように振り向いて歓迎するかのように草刈りをしていたのか被っていた麦わら帽子を取り、木のそばで草を刈っていた鎌と軍手を黄色のコンテナに入れて門の所に居る俺達の方へと向かってきてくれたのでちょこんと頭を下げて挨拶をした。
が、その前に……
「主ー!」
唯一飛行能力のある緑青がむき出しの地面に足を躓く事もなく気持ちのまま真っ先に主と言うゴールに飛び込んで胸に張り付いていた。
「おー、さびが一番か。相変わらず早いなー」
帽子を取った顔や声も意外と若々しい人だった。
なんか意外だなと思っている間に
「主ー!」
今度は真白が主にたどり着いたようだ。
「あー、お前は相変わらず登ってくるのが上手だな」
土埃のついたズボンなんて気に得ずにその小さな手足についている爪を駆使してよじ登り、ついには肩の所まで登り切ったのだ。これはお見事。
そして滑らかな動きでたどり着いたのが
「岩さんも到着。お疲れ様」
「うう、緑青にまた負けた……」
「まあ、飛べるからねえ。同じ爬虫類同士とは言えこればかりはどうしようもないよ」
言いながらそっと真白と反対側の肩に置いたと思えば
「主ー、朱華もついたよー!」
「ひよも頑張ったな。飛べなくても頑張ったな」
足と同じくらい小さな羽をパタパタはためかせながらなんとかゴール。
なんて言うかこの必死な姿をかわいいと思ってしまうあたり俺もかなりこのちみっこ供にやられていると思うも
「玄さんも頑張れー」
大家さんはみんながたどり着いたゴールの場所から一歩も動かず、しゃがみこんで文字通り亀の歩みの玄さんの到着を待っていた。
「主ー、玄頑張るからまっててねー」
「待ってる待ってる。玄さん頑張れる子だって言うの知ってるから転ばないようにおいでー」
「はーい」
草刈りをしていた木の木陰でしゃがみながらゆっくりとした亀の歩みの玄さんを根気強く待つ。時々雑草の草むらの中に姿が隠れるも、次に姿を現した時は口にはアザミの葉っぱを咥えて出てきた時はいいもの見つけたなと大家さんは笑っていた。
そして待つことしばし。
やっとの事でたどり着いた玄さんは無事大家さんのもとにたどり着いて両手ですくってもらった後山水が流れ込む場所に連れてってもらって半身浴をしながらクールダウンをしていた。
「ええと九条真さんだっけ。ずいぶんとお待たせしてすみません」
「初めまして。九条真です。お借りしているお家がずいぶん快適で助かってます」
「立ち話もなんですのでどうぞ」
「ありがとうございます。お邪魔します」
水場でちみっこ達ものどを潤したあと水遊びに発展をする前に回収して立派な古民家の中へと案内され
「これ麓の和菓子屋さんの物ですがどうぞ」
「お?美園屋さんのお菓子。ここのあんこ美味しいですよねー」
つかみは良しと心の中でガッツポーズ。
玄さんが言うには気難しい人だと聞いていたので第一の関門クリアと言った所だろう。
「少し待ってて。せっかくのおいしいお菓子だから美味しいお茶でいただかないと失礼ですよね」
なかなかにこだわりがある人だと言う情報もゲット。
後姿を追いかけるように視線を動かせば風通しの良い部屋から見えるのは広い土間越しの土間キッチン。
もうほとんど見なくなった古民家ならではの造りに視線はきょろきょろと彷徨ってしまうのはどこか懐かしい景色だから。不便で実際に生活をするなんて俺には無理だけど
「古民家って風情があってやっぱりいいなあ」
そういわずにはいられない丁寧なつくりにそっと感嘆の溜息を落とすのだった。