小さいながらも作る夢の国 3
庭改造五日目。
今日は遠藤さんと一緒に農協に苗を買いに行く事になった。
ちみっこ達には刺激が多すぎると言うか大家さんがいないと迷子になりそうなのでお留守番をお願いしたがちゃっかりと
「「「「「真お土産忘れないでね!」」」」」
そんなかわいらしいお土産の大合唱。
農協のスーパーに行くと地元の方が作ったお惣菜やお菓子が置いてあったりするので覗くと楽しいし、普段俺が買わないようなお菓子が置いてあったりするので俺も楽しんでいたりもする。
何を買おうかなときょろきょろしつつもまずは苗を物色。
「じゃが芋とさつま芋、人参とかキャベツも初心者向けだよな」
「うん。初心者向けって言うのが分からないけどとりあえず知ってる名前の野菜にて貰えると愛着がわきますね」
「じゃあ、もう遅いけど実がついてるトマトならイケるからそういったものも選ぼうか」
そんな超初心者向けのチョイス。
すでに実が生っていれば失敗もないと言う選択にこれならちみっこ達も大喜びだと俺も盛大に頷くのだった。
本当なら種から育てていくのがちみっこ達にも良いのだろうが、あいにくその時期はとうに過ぎている。次からでいいかと今回は諦めて遠藤さんのおすすめを聞きながら他に必要なものを買っていれば
「園芸部と九条じゃん。珍しいコンビだな」
大家さんが出現した。
ではなく、カートにはそれ誰が食べるのと言うくらい魚介類と肉類がてんこ盛りになっていて
「先日はお世話になりました。
それにしても大漁ですね」
どうやれば籠から零れ落ちないかと言う計算でもしたかのような絶妙な盛り具合。俺の着目に大家さんは気をよくして
「たまには自堕落に過ごす日もないと生きてる楽しみがないからな」
なるほど。
それがオール生臭な理由ですか。
俺に家賃の割引と引き換えに得たストレスフリーな食事はそれですか。
訴える俺の視線にさっと視線を反らせながら
「それより畑でも始めるのか?苗ばっかり買って。畑を始めるならまずこれって言うレパートリーだな」
「うぐっ……」
そこは年の功と言うべきか誤魔化すのが上手いと唸ってしまえば
「畑を始めたいって言ってたから園芸部として準備を整えてあげましたー。
ちなみに真は二人目の園芸部でっす!」
胸を張って言う遠藤さんに
「おおー、やっと仲間が出来たな」
ぞんざいな拍手がもらえた。
「で、植えるのは野菜ばっかりか?」
そんなカートに乗る苗を見ての疑問に
「今までできなかった事なので挑戦をしに」
大家さんなら俺の言いたい事を理解できるだろうと思いながらも言えば少しだけ視線を遠くに投げての納得。
だけど大家さんのご自宅を窺った時大家さんはそれなりの思いを込めて庭を作っているのは理解できた。
でなければあの広大な敷地にもかかわらず雑草の少なさの理由にならない。
動画で綺麗なお庭の家はちょっとはあこがれていたと言うのもあったがせっかくお池もできたし庭いじりと言う趣味をもって良いだろう。まずは単純に畑づくりと趣味とちみっこへの教育という観点からもばっちりだと言うように言えば
「だったらもう終わったけど紫陽花を分けてやるよ」
「紫陽花、ですか?」
花も終わったこの季節に何故と言うように聞けば
「これから剪定をするんだが紫陽花って簡単に増やすことが出来るんだ。クローンだが種から育てるよりは確実に成長するぞ」
「へー」
なんかよくわからん園芸用語が来た。
「園芸部、とりあえず挿し木の状態で準備しておくから面倒見てやれ。九条にやらせれば確実にダメにするからな」
「了解っす!むしろ俺が挿し木からやってもいいですよ」
「なら剪定からやらせてやろう」
「あざーっす!明日も休みなので朝からお邪魔します!」
喜びをあらわににこにことした顔で無償の労働を引き受ける遠藤さんにまじか?!なんて思っていたら
「真は綾っさんの庭見た事無いだろ?
まじ何処の植物園かってぐらい作りこんでいるから勉強がてら見に来いよ」
「ふっふっふ、死んだばあちゃんから受け継いだ自慢の庭を見せてやろう」
「そうなんだよ!あそこは今まさに見ごろなんだよ!」
「満喫するために世話をさせてやろう」
「あー、怒られないかな……」
「なに、紫陽花畑の方で発狂してたから当面大丈夫だろ」
「相変わらず鬼っすね」
なんて二人だけに分かる会話に何が何だかと言う顔をしていれば
「あとで俺の師匠を紹介するよ。まじ凄い人だから。いろんな意味で」
うんうんと頷く大家さん。
この人をそう言わせる人ってどんな人だろうと不安になってしまうものの
「まあ、庭づくりの参照になるなら一度足を延ばしてこい。先生もいるけど今夜飯を食べるつもりでくればいいから」
「ごちになりまーす」
「ありがとうございます」
すかさず返事をした遠藤さんにつられてそうは言ったものの大家さんをちょっと引っ張って
「あの、ちみっこ達も一緒でも構わないでしょうか?」
「寧ろ残してくる方が心配だから連れてこい」
そんな小声でのやり取り。
遠藤さんは気にせず近くにあった商品をこっそりと大家さんのかごに中に入れていたが後で怒られても知らないぞと思いながらも黙っておく。
「じゃあ、後でな」
「はい、後程お邪魔します」
そんな感じで別れてから会計を済ませ
「じゃあ、次は師匠の所だ」
遠藤さんの車に乗せられた俺は引っ越してきてまだ数か月。初めての道からの住んでる街の見知らぬ景色を楽しみながら
「あー!なんで知らない苗がこうも勝手に増えてるのよ!!!
何でもここに植えればいいってものじゃないのよ!!!」
怪しい山道に入って一面紫陽花畑が目に飛び込んできたと思ったらの女性の絶叫。
え?何があったの?
思わぬ悲鳴を聞いて固まっていれば
「あれ、俺のお師匠さま。
年齢は俺よりちょい上あたりだけど俺の造園技術はあの人から一から学んだで……
綾っさんまた勝手に植えてったんだな。綾っさんの土地だけど確実に師匠が育てたくなる苗を植えるあたりやっぱり鬼だな」
お願いだからしみじみと言わないでくださいと思うのはなんだか俺もこういう事に慣れそうな予感がして、勘弁してくれと願って天を仰ぎ見るのだった。




