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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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雨が降った空を見上げて駆けあがる 5

 これは、あれだ。

 

「お奉行!それは間違いです!どうか、どうかっ!!!」

「ええい、見苦しいっ!罪人を引っ立てぇいっっ!」


 なんてテレビのノリの様なあの光景。

 実際は淡々と進んでいらしいのだが現実は


「とりあえず九条兄よ、お前自分が何をやったか理解してるか?

 うちの子をさらっておいて地面に正座してるだけで許されると思ってるのか?」


 縁側で座り心地のよさそうな座布団の上で胡坐を組む大家さんとむき出しの地面に座らされているこの差が俺達との距離だった。そしてまたこの縁側との段差が絶妙な上下感を演出していて心理的にも抗えない圧力を感じてしまう。

 さらに距離をとると言うように俺達の間には網戸を挟んでいて文字通り壁まであるように思えた。


「え?網戸開けたら虫が入るじゃん。なんで俺がそんな罰ゲームしなくちゃいけないんだよ」


 普通に当たり前のように言われて俺達が虫にたかられても問題ないと言う顔で返されてしまっては何とも言い返せないが。

 まあ、この山の上には蚊は飛んでないので庭に放置されても問題ないけどさ。

「本当に申し訳なく思ってます。

 魔が差した、ではなく俺がしっかりしてなかったから……」

 兄貴は本当に心から悔いていると言うように謝罪をしていた。

 うちの子をさらっておいて家の中に入れてもらえると思うなと言われてから庭に回っての謝罪。もう十分以上正座をさせられれば俺も兄貴もさすがに足がプルプルだ。

 正座は慣れていたつもりだった。

 だけどここは石ころも転がる地面の上。

 俺達が慣れ親しんだ畳の上とは別世界の拷問だった。

 それを面白そうに見ている大家さんと大家さんを独り占めしてご機嫌の緑青は首筋にすりすりしたり少し襟足が長めの髪をはみはみと五感のすべてを使って主を堪能していた。

 途中耳たぶにも食んでみたりして大家さんも困り顔だった為に罪悪感いっぱいの兄貴はともかく俺はもうこの茶番はいつ終わるのかと泣きたい。


「どっちにしろ三十過ぎて親の言いなりってどんだけ残念なんだ九条兄貴」

「智です。

 親と言っても職場では上司ですし年功序列が色濃く残る社会なので俺の意見なんてただの戯言でしかありません」

 

 なのに大家さんと兄貴は真面目に受け答えはしている。

 だけどその大家さんに張り付いている緑青が多分眠いのだろうな。

 耳たぶを食む緑青を引きはがして抱っこしていたけどその指に吸い付いていて……

 ああ、だから朝起きると真白のしっぽがカピカピになっているのかと理解した。


「だからと言ってさびを本体ごと持って行ってどうするつもりだったんだ?

 誘拐に監禁か?まあ、警察には理解できないだろうけど十分窃盗で通すことが出来る。

 ちなみにこの香炉はどこかの茶道楽が茶室を作る為に材木を買いに来た時に置いて行ったものだ」

「こういう言い方はいけないのかもしれませんが、なんでこんな山奥の家にこんな立派な香炉があるのか理解できました」

「昔はこの一帯の山で林業をしていたからな。今でこそ杉だらけだけど昔はいろんな木があったからマニア受けしていたみたいだし。お金も大切だけど基本は物々交換がまだ主流だったからな。縁起を担ぎに来る人が多かったからこういった魂のこもった作品ばかりおいていくんだよ」

 そうして長い年月を経て付喪神となった。

 当の付喪神様は主の指に吸い付いていたけど今は逆におなかや首をくすぐられて身もだえて笑い転がされている。どうやら電車での旅行(?)に興奮してなかなか寝付けられないようだ。

 話に集中できない。

 だけど折れたのは大家さんで

「とりあえず玄関から回って家の中に入れ。

 遅いから今日は泊っていけ」

 そう言って玄関を開けて仕方がないと言う顔で敷居を跨がせてくれた。

 俺は二度目だけど初めての兄貴は未だに囲炉裏や竈のある古民家を物珍しそうに眺めていた。

「悪いが囲炉裏の部屋はちび達が寝てるからそっち側の部屋を使ってくれ」

 土間を挟んだ台所の隣の部屋を指さして言う。

 緑青を抱える大家さんは囲炉裏のそばに座り

「ほら、みんないるから。寝ない子は大きくなれないぞ」

「緑青は主と寝るー」

「そんなこと言うとまた潰されるだろう」

「やだー!やだー!主がいいー!主といっしょがいいー!」

 なんてやっぱり眠いのだろう。寝つきの良いちみっこ達なのに今日はよほど興奮してぐずってしまう緑青に大家さんも困ったと言う顔をするが

「緑青ー?おかえりー。

 玄のお隣の朱華がぽかぽかであたたかいよー?」

 ひょこりと首を伸ばして黒い瞳が俺達をとらえれば真も智もおかえりーと言ってくれた。

 どんな時もマイペースな玄さんは緑青においでおいでと招く小さな手に緑青がためらっていたから大家さんが背中を押すようにそっと緑青をそばに連れて行けばぽかぽかで温かいと言う言葉が魅惑的だったようですぐにくるりと潜り込めば

「あったかいねー?」

「うん。あったかいねー」

 そんな内緒話の様な小声で笑いあったかと思えばその後はもう声は聞こえなくなってしまった。

 あれだけ主がいいって言ったのに朱華の羽毛100%には抵抗できずに一瞬で陥落してしまう姿がかわいかったけど


「ところでなんで囲炉裏の鍋で寝かしつけているんですか……」

「ん?お前らが来るまでこの部屋で遊んでいたからな。ちょうどいい所に鍋があったから放り込んだら速攻で寝落ちしたからそのまま寝かせてるだけだ」

 それはいかがなものだろうかと思うも

「かわいいですね」

「かわいいだけなら問題はないが、とりあえず改めて説明してもらうぞ」

 なんて大家さんは言うものの台所からお惣菜やいろいろ食べるものを持ち出してきた挙句に

「何呑む?ビールもあるし日本酒もあるぞー。寒いなら焼酎もあるし、何にする?」

 説明がはかどらない原因は俺達ではない気がしてきた。

 それどころか俺達叱られに来たんだよな?

 思わず兄貴に視線で確認を取るものの兄貴は困惑を浮かべた顔で

「焼酎のお湯割りを頂いていいでしょうか?」

 これが社会人経験が長い人の対応のだろうか。

 たくましいと思う合間にも大家さんは缶ビールを開けて一人先に飲みながらあつあつの骨付き鶏肉の鍋を机の真ん中にどんとおいて

「体温まるぞ」

 暦の上では夏だと言うのに出された鍋は体の芯から温めてくれて……

 隣で黙々と食べだした兄貴が突然泣き出したけど大家さんは何も言わずに兄貴に焼酎のお湯割りをもういっぱい作ってくれたのだった。 




 


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