雨が降った空を見上げて駆けあがる 4
駅の有料駐車場に車を置いて電車に乗る。
どんな采配か一時間に一本やってくる特急電車にタイミングよく乗れて、不安に押しつぶされながらも大都市の総合駅にたどり着いた。
久しぶりの人の波にのみ込まれて改札口の方に流されてしまったけど何とか別の流れに乗って新幹線の切符を手に入れて京都方面のホームへと駆けあがればホームにも人があふれていて、その中にうつむいて座る兄貴の姿を見つけた。
大切そうに鞄を抱えて、その鞄の上にチョンと座りながら兄貴を見上げる緑青。
二人とも俺には気づいてないようで
「智、電車行っちゃったよ?次の電車待つの?」
「そうだな……」
緑青の不安そうな顔とまるで迷子になってどこに行けばいいのかわからない兄貴の姿。
理由は判らないけど足が動かせないと言うようにきっとずっと何時間も座り続けていたのだろう。
駅のホームの掃除している人もちらちらと見ている様子にすごく心配されているのは顔色の悪さもあってだろう。
体調の悪さ、それも心配なのだがここは駅のホーム。最悪の事を考えれば訳もない。
だけど足を運べずにずっとそこにいたという事は少しだけ期待してしまう。
俺が緑青を迎えに来る事を……
「兄貴、緑青を、迎えに、来た……」
エスカレーターの流れなんて待てなくて階段を駆け上がった事もあり、日ごろの運動不足もたたって息が弾むどころか虫の息状態の俺に
「真!」
兄貴はそれ以上の言葉が見つからなくって、とりあえずと言うように兄貴がずっと座って温めいていた椅子に俺を座らせてくれた。
「真ー!」
こちらもいきなりひしっと俺の顔に張り付いて
「ごめんなさいー!」
勝手にいなくなったことに対する謝罪だろうか。
兄貴はそんな俺達を見て大切に抱えていた鞄を俺に押し付けてすぐそばの自販機で冷たいミネラルウォーターを買って渡してくれた。
「すまなかった……」
すまないどころではない。
だけど、ホームで見つけた時の姿を見ればわかる。
まるで死刑を待つかのような罪人の顔で時間を過ごしていた姿にこれ以上何もいう事はない。
まあ、どうしてこんなことをしたのかと言う説明はきっちりとしてもらうつもりだけど。
たとえそれが分かり切った言葉が並べられるとしても、兄貴の口から聞きださなくてはいけない。
それを聞く事こそ俺のけじめだと思う。
だけどその前にどうするべきかと考えたと所で
ぶーっ、ぶーっ、ぶーっ、ぶーっ……
スマホが騒ぎ出したので
「呼び出しかかってるぞ。仕事かもしれないのだからちゃんと出ろ」
今も死にそうな顔をしているくせにどんな時でも兄貴面するからなんだか笑えてくるけど鼻から息が飛び出す程度にしか笑えなくて、でもスマホの画面を見ればどうしても無視できない人の名前。
呼吸が整わなくてしんどいけど通話を繋げれば
『兄貴捕まえたのならとりあえずうちまで来い。
まだ特急はあるから兄貴はともかく緑青を忘れずにつれてすぐ来い』
「ええ……」
何気に兄貴の取り扱いが酷いのは仕方がないとは思うけど……
『さっきの特急の折り返しが出るから。
とにかく走って乗り込め。切符は車内で買えば十分だ。急げ!』
そんな暴君の暴言は言いたい事だけを言って終了した。あまりの人使いの荒さに俺は泣きたくなって、膝はまだガクガクだけど立ち上がり
「兄貴、大家が帰って来いって……」
「ずいぶん横暴だな」
さっきまで死にそうな顔をしていたのに兄貴モードに入ったからか途端に血色良く立ち上がるも
「大家さんの言う事は絶対だって先輩が言うから!」
とりあえず俺は緑青をシャツのポケットに押し込んで香炉の入ったカバンを大切に抱えてエスカレーターでは迷惑になるので階段を駆け下りて買ったばかりの京都行のチケットをそのまま捨てるように改札機に入れて通り過ぎれば兄貴も頑張って追いかけてきてくれた。そして目的のホームへと上がる階段を駆け上がれば出発のアナウンスがかかっていて、俺達は飛び込み乗車のごとく電車に乗って人の少ない車両にへたばるように座り込んだ。
そして幾ばくもしないうちに電車は動き出し
「乗車券を拝見します」
「すみません。特急券と乗車券購入したいのですが」
一応俺も兄貴も新幹線の乗車券は手放さなかったのでそれを見せれば車掌さんはなんだかかわいそうな子を見る目で俺達を見てささっとを発券をしてくれるのだった。
一応全席指定席なのでたまたまいた場所の席にしてくれた出来る車掌さんに感謝。
やっとと言うように落ち着いた所で胸ポケットに居た緑青にペットボトルの蓋をコップ代わりにお水を飲ませれば喉が渇いていたのだろう。一気に一杯を飲み干す飲みっぷり。その後は満足して窓枠に座り込む。
「緑青、お外はあまり見えないから少し休んでいると良いよ」
言うも窓の外を眺めるその小さな背中に
「真ー緑青もこんな早く飛べるようになるかな?」
「そうだね。大きくなったらきっとどこにでも行けるくらい飛べるようになるよ」
「どこにでも行けるのかなー?主の所にもすぐに行けるのかなー?」
「大きくなったら大家さんの家にすぐ遊びに行けるようになるよ」
車で30分ほどの距離。
山道をうねうねと走ればの話。
だけど空を飛べる緑青なら細い田舎道も山道も急激な上り下りも関係なくまっすぐたどり着くことが出来る。
今はまだ烏骨鶏にさえ負けてしまうものの俺は思う。誰よりも早く飛んでどこにでも行くことが出来るからこその翼なのだろうと。
その証拠に俺が大家さんの家にすぐに遊びに行けるようになると言った事で心がもうすでに大家さんの所に飛んで行っているし、それに伴うように羽ばたいている様子なんかがどうしようもないほどかわいくて。
心に体がまだ追いつかない状態だけどいつかは自由気ままに空を飛び回る姿を想像すれば……
「そんなのヤバい一択だろ」
俺も兄貴も疲れ切って少しうとうととしている間に最寄り駅にたどり着き、駐車料金を支払って自分の家の前を通り越して大家さんの所にたどり着いた時に緑青との会話を話した瞬間のこの感想。
クールすぎて涙も出ない。
それどころか
「そんな妄想よりも大切な報告があるだろう。
まずはそっちを済ませろ」
なぜか俺と兄貴は首に緑青を巻き付けた大家さんが縁側から見下ろす庭に正座をさせられていた。




