雨が降った空を見上げて駆けあがる 1
一つの大きな仕事を終えて、仕事を頂いた元職場にも無事運用がスタートした事を報告が出来た。
もちろんトラブルの事は先輩から会社の方へと先に連絡が回ったが、そういったトラブルはどうしようもない事もよく理解してくれる職場なので不運だったなと逆に慰めてもらうのだった。
まあ、無事納品が出来たからの話しだけど。
その後次の仕事を貰うのだけど後日会社のシステムも大幅アップデートをしたと元同僚から聞いた。
もちろんすぐさま先輩に連絡を取れば
「あれだけの進化系を見たからな。うちだって導入しない理由はないだろう?」
しれっとした顔で言うのだろう姿を想像して笑いながら
「実際綾っちにも言われたんだ。
もし万が一あればこれぐらいのリターンがあればすぐに切る事はないだろうって」
切るって、やっぱり俺の事だよなと信用信頼が一番のシステム開発と飽和状態の人材はすぐにどうとでもなる業界。
いかに有益プラス何かの部分にうま味がないと繋がりを持ち続ける理由はないという事を嫌でも理解してしまう。
実際先輩には応援の代わりに新システムのお持ち帰りと言う作業をしてもらったのだ。
是非とも繋がっていたいパイプラインと言うように先輩の重要性もより増す事になるが……
「あのデスマーチが終わったのに会社でもデスマーチ再びだよ。周囲は屍類類でもうデスパレードだよ」
つまり今回俺の仕事が会社のバージョンアップの為のプロトタイプとなったわけか。どのみちあれだけ変わるとハッキングとかはさらに難しいだろうから安全が守られれば良いだろうと釈然としないものが残ったがほぼほぼ手伝ってもらったのだ。文句が言えるわけもなくそれを手土産に会社に戻った先輩の疲労からの顔色の悪さに愚痴は言えなかった。
会社での寝泊まりのせいでお疲れの様子にようやく夜はぐっすりと寝れるようになった俺はあの目の下のくまはもう綺麗に消え去っていて、先輩にお疲れ様です。ですががんばってくださいとものすごい良い笑顔でエールを送るしか言葉が見つからなかった。
そうやって手に入れた穏やかな日常。
今日も日の出と共に一日が始まって
「真ー朝だよー!」
「真ーおなか出して寝ると風邪ひくよー?」
「真ー朝ごはんは西瓜がよろしいかと思います!」
「真ー朱華は西瓜もよろしいかと思いますが葡萄も食べたく思います!」
「真ートイレー!」
ますます容赦ない目覚まし時計のちみっこ達に確実に俺は寝起きが素晴らしく良くなったと思う。
いつものように真白を抱えてトイレへと連れて行き、その後は朝ごはんの準備に取り掛かる。
ちみっこ達は基本野菜や果物と言ったものから生臭を避けた料理で十分。
まあ、真白のような肉食系の子には姿から本能的に肉類を求めるのでそこはお肉の味を覚えないようにカリカリで埋め合わせる事にする。
そして今新たな住人…… とまではいわないがお客様が来るようになった。
「あ、猫のおばあちゃんだ!おはよーの挨拶してくるね!」
「だったら後でご飯を持っていくからちょっと待っててもらうように伝えてね」
そう。
あの日、真白が勇気を振り絞った冒険をした時に助けてくれた老齢の猫が縁側でお昼寝に来る時にニャーとご挨拶してくれる仲になったのだ。
真白に通訳してもらってお世話になったお礼と言って真白のカリカリをおすそ分けするようになれば朝と夕方に顔を見せてくれる常連さんになった。
家にいたずらはしないしドアを開けていても決して家の中に入る事もない。
少し寂しく思うも真白も少しだけ残念そうな顔をして
「この家には入れないんだって」
「そうなのか?」
野良猫だからって気にする事はないのにと真白の恩人に遠慮しないでと思うも
「この家は神様がお住まいになる邸だから扉の内側に入ることは出来ないのだって」
なんて真白から教えてもらった。
まあ、五体の付喪神がいればそうだし、そもそも朱華がこの家の欄間から発生したのだ。家自体の格式が上がるのは当然かと思うも、俺はそんな家を事故物件並みに汚してしまい……
浩太さんが綺麗に手を入れてくれたことで朱華が力を取り戻したと言う事例を知っていたのに、家の取り扱いに手を抜けばそれはまた朱華にも影響するのかと思えばつっきー懸案だなと久しぶりに連絡を取るのだった。
「やっぱりまずいでしょうか」
『そりゃもちろんまずいな。それなりに力のある場所なんだから、汚れがたまれば運気も下がるって言うようによくないものも集まる。そう言うモノならお前だったら視えるだろ?』
「ええ、確かに視えていたのですが、なんだか綺麗さっぱりいなくなっていて……」
「それねー!朱華が羽でパタパタしてお空に追い払ったんだよー!」
突然会話の中に混ざりこんだ。
普通の人なら聞こえないけど
『そっか。朱華が頑張ってくれたんだ?』
「主がねー、パタパタして来いって言ったの。主もお家の中お掃除してたから朱華がお外をお掃除したんだよー」
『朱華はすごいな!そしてあいつは相変わらず無意識に払いまくってるのか』
「え?無意識に払いまくるって、そんな事して大丈夫なんですか?」
あり得るのかと思うも
『あいつはいろんな意味で規格外だ。人間じゃないって言われた方が納得する』
なんで人間なんだよとさりげなく酷いことを小声でぼやいていたが
「まあ、すごい人ではあるけどかなり人間味にあふれた人ですよね」
先輩を高校生時代から面倒を見ていて今も変わらず続いてさらに人外の面倒まで見てしまうのだ。面倒見良すぎるだろうと俺もそのうちの一人に数えられているのは棚に上げておけば
「俺も十年以上の付き合いになるけどあいつは確かに面倒見はいいけど自分に有益にならない相手は容赦なく切り捨てるから気を付けろよ」
まだ知り合って間もない俺にはできない評価を教えてくれた。
でなきゃあんな山奥に住んでないよなとそこは黙って聞いておく。
いや、口が挟める状況ではなくなったのだ。
朱華がスマホ越しに乱入してきたのを羨ましく思ったのか他のちみっこ達までやって来たのだ。
「つっきーだ!あのね、真白凄い冒険してきたんだよ!」
「つっきーおひさしぶりー!玄はね、泳げるようになったんだよー」
「つっきー今日もお暇なんだね?岩は今玄さんに泳ぎを教えてもらってるんだー!羨ましいでしょ?」
「つっきー、あのね……」
なんていつもは真っ先に飛んできて一番に飛びつくのに今日は一番最後の上どこか元気がない。
『緑青今日はどうした?元気いっぱいが緑青のかわいい所だろ?』
そんなつっきーの心配げな声にすくっと顔をあげた緑青は
「なんでもないもん!」
そう言ってぴゅーっとお外へと行ってしまうのだ。
「な、なんだ?」
俺はその後姿を見送るだけだけどつっきーは仕方がないと言うように笑い
『多分これが成長段階の前触れってやつだ。
五体の子育ては大変かもしれんが暫くの間緑青には気にかけてくれ』
そんな警告を受けて今回の相談会は終わった。
つっきーが何を警告してくれたのか俺には全く分からないけど元気いっぱい一番が大好きな緑青のらしくもない姿。
警告されるまでもなく心配になるのはそれだけ近しい関係になったと嬉しいのにあんな顔をされては素直に喜べず、庭に植えられた梅の木の洞の中に隠れていたのをどうやって声を掛ければいいのか、聞こえてきた泣き声についに言葉を見つけることが出来なかった。




