神降臨! 5
なんて優しい味なのだろう。
感動しながらすっと噛み切れてしまう野菜はそれでも口の中で心地よい食感と共にかみ砕かれていく。
人参、じゃが芋、玉ねぎと言ったスープの定番野菜から
「蓮根、蕪、椎茸もある」
驚きの具材にこれもポトフの具にしていいんだと小さな発見に感動しながら蓮根の食感を楽しむ。
「あー…… やっぱり飯田さんのベーコンはサイコーっす!」
「市販品が物足りなくってすっかりベーコン買わなくなったけどやっぱり美味しいよな」
水野さんも祐樹先輩も再度確認するかのようにごろっごろにカットされたベーコンを堪能していた。
なるほど。
コンソメスープだけでは出せないこの深い味わいはベーコン由来のモノか。いや、舌に慣れ親しんだかつお出汁か。
水野さんがご飯のお替わりをしているのを見てポトフのお替わりもあるかなと器を持って鍋の中を覗けば
「べ、ベーコンがない、だと……」
たっぷりのスープと野菜しか残ってない鍋にショックを受けていれば
「真ー、みんな飯田さんお手製のベーコン狙いなのは当然だろ?」
「そうだぞー、早い者勝ちだぞー」
大家さんにまで言われる始末。
いや、ちょっと待て。
大家さんよ、そのスープ皿に盛られたベーコンの山は……
「相変わらず容赦ないですね」
「綾っち独り占め禁止ー!」
「俺だって久しぶりの飯田さんのご飯楽しみにしてたのにー!」
「黙れ。美味しいものは早い者勝ち、そう教えてきただろ。あと綾っち言うな」
「飯田さーん、綾っちが大人げないー!」
しくしくと飯田さんに泣きつく水野さんだけど
「綾人さんが大人げない時ってありました?」
そんな質問に先輩と水野さんは二人顔を合わせて
「ないっすね」
「寧ろ安定の通所モードだね」
妙な納得をして二人も残りのスープを温めだしたかと思えば先輩は冷蔵庫からソーセージを取り出して
「真も食べるだろ?」
容赦なく鍋に投入してくださった。
なるほど。
お師匠さんをよく真似て育ったのですね。
なんとも言えない表情の飯田さん以外は誰も疑問に思わない顔をするのだから性質が悪いと思うも
「そうだ。お前の冷蔵庫の中身空っぽだから適当に詰めておいたから頑張って消費しろよ」
そんな大家さんの気づかいにあのソーセージは大家さんが買ってくれたものだという事が分かった。
そういや俺、ここ一週間ほど買い物してないなと気づいてしまい
「お支払いしますのでレシートを……」
「気にするな。買いに行ったのは水野と植田だから」
「先輩、レシート……」
「支払いは綾っちだから」
なんか遠回しに支払いを拒否されているような気がする。
こんなにも甘えていいのだろうかと不安になれば
「真、そんなビビらずとも洗い物を引き受ければそれで十分だから」
甘えておけと言ってくれた先輩に素直に甘えていいのだろうかと今まで割り勘しかしてこなかった人間関係なので戸惑ってしまえば
「九条君、こういう言い方は下手な誤解を生むかもしれませんが……」
少し言い淀むような口調でもゆっくりと口を開き
「新入りの下っ端が洗い物をする、当たり前の事です」
そんな当たり前知らなかった……
ではなく、みんな一つ一つ自分の仕事をこなしているから気にせずに食事の分はそうやって払えという事だとやっと気づいた。
「で、では、食べ終わったら洗い物をさせていただきます」
これはありがとうございましたと言うものだろうかと思うも
「あとはよろしくー」
「悪いなー」
大家さんと先輩の満面の笑顔にこれは平等なのだろうかと一番楽なのを回されても素直に喜べなかった。
大量にあったはずのご飯を綺麗に食べつくして食後のネットで届いたばかりのお茶で一服していれば
「じゃあ、電車の時間まで俺達一度家に帰って顔みせてくるからまた後で荷物取りに来ます」
そう言って荷物だけおいて飯田さんの手土産を手にご実家に帰って行った里帰り。
いや、荷物もって帰れば二度手間にならないのではと思うも二人ともにこにことした顔で飯田さんを見上げていて、仕方がないですねと言う言葉を引き出したのはお見事と言うしかない。
大家さんも飯田さんも玄関までお見送りしてくれたけど
「では、俺も一度山の方に戻ります。
竈の中のシチューの状態が気になりますので」
「ぜひよろしくお願いします!」
何シチューか知らないが飯田さんの両手を握りしめて全力でお願いしていた。
お昼のご飯を食べる前ならどん引きだったけど、今なら言える。ぜひご相伴にあずかりしたいと。
だけど飯田さんのお前の分はないと言うように俺の方を一度も視ないから指をくわえて見送るしかない。無念!
「ごちそうさまでした」
深々と頭を下げて見送れば最後に残った大家さんは俺を見て
「じゃあ、今回の一番改造点の引継ぎやるぞ」
とてもクールな顔で温度もない言葉で言って下さいました。




