未知との遭遇カラフルワンダー 1
素晴らしい事にこの古い町には通いたくなる和菓子屋さんが存在する。
ただでさえ罠でしかない美味しい和菓子屋さんなのにさらに罠が待ち構えると言う二段構えの罠。
本気の奴だ。
コンビニやスーパーでもその一角を主張すると言うのに和菓子屋さんでも品よく鎮座するケーキやシュークリーム。
和洋折衷って負けるしかないでしょ?
イチゴ大福と和栗のモンブランと言う組み合わせを買ってうきうきと帰る25歳。
かわいくない?
この平均年齢の高い町ではお店のお姉さま方にはにこにこと微笑ましく見ていただけるので本日の戦利品を抱えて家路をたどるのだった。
「ただいまー」
誰の返事も返ってこない日常は就職して一人暮らしを始めてから続いているので慣れたものだ。とは言えついつい言ってしまうのが二十数年培った習性。
なんてこと気にせずウキウキした足取りで電気ケトルにお水を汲んでスイッチをぽちっと。
お気に入りの赤いステンレス製の電気ケトルが働き始めた横で本日の買い物した食料を冷蔵庫に入れる。その後洗濯物を取り込んでクローゼットに収納。
これだけの時間があればお湯も沸いたはずとスキップしながら台所に行けば……
ケーキと大福が入っていた箱が空いていて、しかも齧られた痕があった。
「ナンデ?コレハドウイウコト?」
思わずネズミではないのかと思うも齧った痕もいろいろと種類があるし、何より足音や気配と言うものを感じることが出来ない。
逃げられたか……
せっかく買ってきたのにさすがにこれは衛生的に無理と泣く泣く諦めるしかない。
シューっと蒸気をあげて沸騰を訴える電気ケトルのむなしさに本日の買い物袋からおせんべいを取り出す。
ウキウキで買ってきたイチゴ大福と和栗のモンブランからの何処にでも売っているおせんべいの変更にはテンションが下がってしまうもそれより喉が渇いた。
お茶を入れてせんべいをもって縁側に座り、庭に向かって足をポンと放り投げて日向ぼっこをしながらお茶を啜る。
「ふはー……」
お茶を一口飲んでほっと溜息。
引っ越しの片付けも済んで何とか街の様子も分かるようになった。
運動不足解消の為にスーパーまで歩いて行ってきたけどこれがけっこういい運動になっている。
街は川沿いにあり、なだらかな傾斜の趣のある町。
登山道の入り口もあるらしくお寺や神社もそれなりに風格もある。
住んでいるだけで観光気分でお得ー。
あこがれの先輩のご実家がまさかこんな場所だったのは驚いたけど住めば都。
コンパクトで暮らしやすいじゃないかと気に入っていたのに……
「ネズミ共め、食べ物の恨みは恐ろしいぞ」
パリッと乾いた音を立てて勢い良く厚く焼かれたせんべいをかみ砕いた。
ここに来るまで世間は容赦ない陽気に暑いぐらいだったものの引っ越した先では心地よい気温。いや、寒いぐらいだけど、縁側でごろりとなって転がるのが至福の時間。
仕事は独立して自分のペースを守るのが大変だけど、それなりに空いた通勤時間とか余裕が出来たからその間にいろいろなことが出来るようになった。
洗濯とかもその時間に十分だし、この広い縁側や軒先が雨の日でも安心して洗濯物を干せると言う心の余裕を俺に与えてくれた。
浴室乾燥機って結構電気代取るじゃん?
そんな心配もなく縁側の陽射しを全身で満喫していれば次にやってくるのはうつらうつらとした居心地の良い時間。
思わずと言うようにごろんとすれば
ふわり……
真っ白の毛玉が部屋を横切って行った。
思わず仰向けからうつ伏せになり室内を見る。
何もないいつもと変わりのない引っ越してきたばかりの閑散とした室内。
今のは見間違いか?
いや、見間違いじゃない。
なんとなく台所から気配がする。
抜き足差し足で物音を立てずに台所をそーっと覗き見れば……
ネズミに齧られたと思って放置していたイチゴ大福と和栗のモンブランに見た事のないものが張り付いていた。
赤いひよこや亀?蛇とか空飛ぶ青いトカゲとか?!
「なんじゃこりゃああっっっ!!!」
絶叫しても問題ないだろう。
むしろ絶叫するしかない。
ひよこや亀、蛇とかならこの田舎なら標準的な生物だろう。
ちょっと色が今時縁日でも見ないような派手なカラフルさを持っているけど、ホバーリングしながら大福にかじりついている青色のトカゲなんて見た事なんてない!
驚いて腰を抜かせばひっしになって俺のイチゴ大福と和栗のモンブランを食べていた生物はくるりと俺を見て
「なんだあの人間。俺達の事が見えているようだぞ?」
「たまにいるよねー」
「まあ、主ほどじゃない小物だから放っておいても問題ないだろう」
「それよりもこの甘い菓子は栗の味が濃厚で美味いねー。あっちの赤い奴も美味しいけど…… みんなおいしーねー!」
なんて言いながらも懸命にぱくついていた。
むしろ開き直って堂々と食べだした。
「いやいや、甘いだけじゃあきるだろう。
さっきこいつが食べていたものもなかなかうまいぞ?」
なんて白い毛玉の様な猫が俺の食べ残したせんべいを銜えて机の上に上がってきた。
白い毛玉はその小さな足でせんべいを砕きながらかけらを口にして
「甘いものの後のしょっぱいのも中々だな」
バリバリと音を立てながら食べる様子を見守る事数分。
「こいつらしゃべってるー!!!」
いやあああああああああっっっ?!
なんて絶叫するも小動物たちは満足するまで食べたのか口の回りを舐めたり前足で口元を整えたりしながら煩いと言うように鼻を鳴らしていた。
真、いきなり格下確定しました(不憫)