先輩と一緒 3
俺の一人暮らしの年数はまだ片手でも余るほどとは言え大家さんは包丁の使い方一つとっても丁寧で今まで碌に使ってこなかった調理機が活躍する様は持ち主の目にも新鮮に映った。
俺が買った調理器有能!かっこいい!
宝の持ち腐れとはきっとこの事を言うのだろ。
手伝いをしながらその淀みない手さばきを見るために無駄にちょろちょろとしながら
「俺は当面スキルアップだけど料理もレベルアップしたいですね」
「まあ、生活必須スキルは上げておいて損はないぞ。でないと水野みたいになるからな」
窓から外を見れば水野さんと先輩は今もギャーギャー騒ぎながら肉を焼いていた。
「あ、水野さん先輩に主導権を奪われた」
「植田の奴はやる気に火が着くまでが長いからな。やればそれなりにこなせるくせに自ら器用貧乏に突き進むから」
どんなキャラづくりだと思うも焼けた肉をそばから削ぐようにして二人で味見をしている様子は
「なんだか熟年夫婦みたいですね」
「そうだな。知り合った頃はすでにコンビが結成されていてあんな感じだったからな」
いや、笑いを取りにいったつもりなのに何しみじみと返してくれるのですか大家さん。
おかげで空気が気まずくて居た堪れないのですがと思っている間にも野菜の下ごしらえを終えた大家さんは野菜のホイル包みを作ってくれて
「おら!二人で味見ばっかりしてないでちゃっちゃと飯の準備しろ!」
「綾っちが怒ったー!」
「そんな綾っちには冷えたビールを献上!」
「許す!だが綾っち言うな!」
そんなコントの様な掛け合いに先輩たちは笑いながら焼けた肉をサンチュの隣に並べ空いた隙間にホイル包みを並べていった。
「タレを絡ませてお召し上がりください」
しっかりと準備は万全だったが
「じゃあ、俺は肉担当な」
空気を読まない大家さんは本能のままビール片手にお肉を食べていき
「ちょw綾っち肉の独り占めは禁止!サンチュの存在思い出して!」
「真!早く肉確保しないと綾っち全部食べるぞ?!」
「は?まさか、これ二キロほど……」
「外で食べるとあっという間になくなるぞ!」
「ええ?!」
目を覚ますまで独り泣きながら仕事をしていた事が嘘みたいなそんな賑やかな食卓。
しかもこれからもう一仕事するつもりなのに全員ビールを飲みながら今日これからの仕事の進め方のミーティング。
こんなにも仕事の合間も楽しいなんて経験した事がなくっていっきに水野さんや大家さんとの距離が縮まった気がした。
たっぷりと英気を養って仕事に戻ればいつの間にかうっすらと朝日が昇り……
「では、水野彰宏は五時からのミーティングに出席してまいります!」
「おう、頑張って逝ってこい。その後仮眠をとって昼飯を買ってこい」
徹夜して会議に出るってどれだけタフだよと改めていつかは自分もこうなるのかなと徹夜したポンコツの頭で訳の分からない尊敬をするのだった。
「じゃあ、綾っち俺も食べたら先に寝ます」
あくびをしながら朝食を作る祐樹先輩は朝から鍋を作っていた。
しかもよくよく見ればいきなり〆から始まる雑炊鍋はくたくたになった雑炊の上に野菜や肉が申し訳程度に並んでいた。
「水野はおにぎり作ったからもってけー」
「さんきゅー」
なんて言いながらささっと準備をして
「綾っち、麓の家の二階借ります!」
「おう、掃除も頼むな」
「会議優先させてもらいます!」
なんて大声を張り上げながらまだ朝の空気を含む世界の中へと駆けだしていくのを見ながら
「麓の家?」
「道路挟んだお隣さん。坂をちょっと降りた所に工場兼自宅のニコイチハウスがあるから。何か家の事で不都合があったら大体誰かいるから声をかけてくれ」
「あの、茅葺屋根の四阿のある?」
「知ってたか?」
「いえ、前にちょっとそちらの金魚さんに玄さんが泳ぎ方を教えてもらいまして……」
「なんで?」
驚く大家さんに
「家を飛び出してしまって迷子になってしまったのですが親切な鳥さんに連れて行ってもらったらしくて……」
言えば盛大に顔を歪まして
「あまり大きな声で言いたくないけど、この山の動物たちは時々親切だったりおせっかいだったりする奴らがいてな……
向こうの基準だから仲良しになれるとかそう言うのは考えるな。
ただたまにおせっかいが想像の斜め上を行く時もあるから痛い目も見るぞ」
仄暗い瞳の色に何があったのか聞けなかったけど、なるべく俺は努めて明るく
「とりあえずうちに来るおばあちゃん猫はちみっこ達と仲良しなのでそこは信頼してます」
「今度カリカリを買って献上しておけ」
「了解です!」
言いながらすぐにスマホで人気のキャットフードをぽちする俺を大家さんはどこか不思議な生き物を見る目で俺を見ていた。
何か間違ったか?
まあ、いいか……
とりあえず先輩がいきなり〆から始まる雑炊鍋に溶き卵を落としたところで俺達は頂きます!と朝の四時三十分過ぎの朝食を頂くのだった。
正直に言うと朝から鍋って食べれるのか?なんて疑問を覚えたけどそこは祐樹先輩の手作りごはん。
サイコーです!
程よい塩梅と鰹の風味の出汁でこんなにもおいしくなるなんて……
「料理まで上手だなんてほんと出来る人は何でもできるんですね!」
感涙、と言うように掻き込むようにして食べていれば
「はっ!よかったな?」
大家さんが何やら鼻で笑って先輩は気まずそうに、と言うか俺に哀れんだ瞳を向けて
「誉め言葉って時としてこれほど苦しい言葉に変わるなんて……
綾っち、寝ていいですか?」
「仕方がない。食ったら寝ろ。片付けは任せておけ。あと綾っち言うな」
俺がおじやをさらさらと食べている隣で先輩はよほど眠いのか何とか一杯を食べ終わった所で
「麓の家で寝させてもらいます」
「水野に起こしてもらえー」
食後の散歩は十分だなと思えば
「昼飯うどんでいいっすかー?」
「ピザでもパスタでもいいぞー」
適当に言って見送る。
なんか本当に適当な人だなと思うもくるりと振り向いて
「さて、ちび共、ごはんの時間だ!」
「「「「「主おはよう!真おはよう!」」」」」
「お、おはよう」
朝からパワフル全開のちみっこ達は一応先輩が出て行くまで柱の影でちょろちょろしていたのは気づいていたけど出て行った直後部屋の真ん中に駆け出してきたのでそれなりに気を使ってくれていたらしい。
いじらしい、そう思うのも数分の間。
「こら!ひよこは食べ終わらない間に次のに手を出さない!
しろはカリカリは食後だ!
玄さんはのんびりしてるとまたひよこにとられるぞ!
さびは食べ物もってふらふらしない!
岩さんはトマトがつぶれるから体を巻きつけない!」
ものすごい勢いでかつかつと食べている合間にも食事のマナーを教えようとする大家さんのお母さんぶりはなんだか微笑ましくて真白がコップを倒した所を玄さんが遊びだす前に俺は布巾でさっと拭く程度のお手伝いをさせてもらう賑やかな朝食を楽しいと感じていた。




