大家のターン 4
祐樹先輩の悲痛な叫び声がスマホ越しに響くけど大家さんは負けずにどころか全く気にもせずに
「そういばお前有休消化しないといけないんだっけ?確か来月までに最低三日取らないといけないんだよな。
ちょうど良い。
明日の土日を使って月、火、水と休みを貰えばクリアだなwww」
『綾っちの鬼ー!
知ってたけどもう一度言わせて!綾っちの鬼ー!!!』
「それぐらいなら何度でも言えw
そんでいま電車を予約したからすぐ来い」
いつの間にかもう一つスマホを取り出してもう片方の手の指がサクサクと仕事をしていた。いや、本当に呼び寄せるつもり?いきなり会社休ませるつもり?驚きの展開にどうなっているの?本当に素直に来るつもりなのと目を点にして口もはさめずに話を聞いていた。
『知ってたけど人でなしー!!!』
「急がないと間に合わないぞー。せっかく指定席取ってやったんだから急げー」
『財布とスマホがあれば十分って言いたいんでしょ!」
「さすが我が弟子。よくわかってるな。着替えは麓の家にあるから問題ないな。
お礼に飯ぐらいはおごってやるぞ」
『神飯でお願いします!』
何かすごく酷い交渉を聞いている気がしたけど口をはさむすきがない合間に背後から聞こえていたゲームミュージックはいつの間にか聞こえなくなり、駆け足で動いているのかバタバタとしている音がスマホ越しでも聞こえたかと思えばエレベータの呼び出し音が聞こえた。
本当に先輩を巻き込んでしまって良いのだろうかと思えば
「まあ、独りじゃ寂しいだろうからあと何人か見繕っておくから安心しろ」
『水野よ、巻き込まれてくれてありがとう』
交渉する前から確定の会話と、先輩の家で何度か会った事のある人の名前を聞いて驚いてしまうも、少ししてスマホを片付けた大家さんは俺の手を引っ張って
「あともう一人も確定だからこれで人材は確保できた。俺の予想だとこれで間に合うから」
そう言って寝室のドアを開けて俺をベッドへと放り投げた。
「わあっ!」
なんだか俺放り投げられてばかりじゃね?なんて情けなくなるものの、その後すぐそばに置かれた土鍋に玄さん達を真白中心に盛り合わせていく。これはなんて鍋ですかと言うような彩を眺めて
「もう夜だからお休みの時間だぞー。
九条と一緒にみんなで良い夢を見ような?」
「「「「「主おやすみー!真もおやすみー!」」」」」
寝る前だと言うのに元気いっぱいのご挨拶。
電気は点けずに真っ暗な部屋で強制的に横たえる事になればすぐそばの土鍋から真白は今日体験した大冒険を興奮気味にみんなに請われるまま冒険譚を語るのだった。
「それでね、真白の足の裏が赤くなってちょっと痛くなったの。だけどね……」
なんてみんなに驚きの長い一日の様子を聞かせていた。
俺もどういう事だと聞きたかったが今の俺にはちょうどいい子守唄のようで……
眠りこけてしまう前に三時間ほどで起きれるようにとアラームをセットしておいた。
もちろん誰かさんの手によってアラームが解除されて次に目が覚めた時には先輩たちがいた事には驚いたけど、すっきりとした頭で部屋の様子を眺めていればいつの間にか作業が驀進していて……
「よお、目が覚めたか?」
大家さんの挨拶から始まって
「とりあえず向こうにご飯を用意してあるから食べておいで」
「お邪魔してまーす」
祐樹先輩と水野さんがすでに応援に駆けつけてくれていた。
さらに
『初めまして!アイヴィーよ。
オンライン越しで参加するわ!』
よろしくとほほ笑む金髪の日本語がたどたどしいのがまたかわいらしい人がもう一人の巻き込まれた人らしい。
大家さんと何やら打ち合わせのようにしゃべりながらモニターの隅に小さな画面に現れる怒涛のテキストはもちろん彼女が手伝ってくれているプログラミング。
あまりの速さに驚きと言うか、このプログラミングが外部で普及している事に驚きだった。
ほんとこの調子なら間に合うなんて希望がうまれ
「真ー、寝ぼけるのはいいけど早くご飯食べて仕事に取り掛かれー」
脱力系先輩の力ないフラットな声の指示にハッと意識を取り戻し、でもその前に全員が見える立ち位置の所であの、と声をかけて
「助けて下さってありがとうございます。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
気にするなと言うようにみんなは言ってくれる。
だけど体とは勝手に動いてしまうもの。
本当に感謝をしたい時、人は頭を自然と下げる、そんな言葉を実践していたのだった。
視界の端では今日もお庭でちみっこ達が元気いっぱいに遊んでいる。
台所には一人分の食事が用意されていて、後は綺麗に片づけられていた。
ご飯を食べながら足が触れる床はさらさらしているし、干されている洗濯物も風でなびいていた居心地の良い家に何やらほっとしてしまう。
ほっとしてしまいつつも手っ取り早く食べて食器を洗い、ここに居るメンバーにだけになるけどお茶を入れて配って回った。
「おー、いい香りのお茶だ」
大家さんが一口飲んで嬉しそうな声を上げてくれた。
「相変わらずお茶派だね。俺もしっかりお茶派に染められたけど」
「ティーバックのお茶じゃない所が嬉しいよなー」
東京にいた時にたまたま立ち寄ったお茶屋さんで購入したもの。残りはもう少なくなってしまったが、それでも喜ばれたのでネットでまた購入しておこうとおもてなしをするならこのお茶と言う事を決めてさっそくネットでポチッとして
「よろしくお願いします!」
気合を入れて自分のパソコンをみんなが作業している居間に移して仕事に取り掛かるのだった。




