大家のターン 3
着替えて再び大家さんの目の前に立てば
「おう、綺麗になったな。次は飯だ」
目の前にことりと差し出されたものは野菜がたっぷりと入ったスープと鶏肉を焼いたもの。
そして
「おにぎり!」
「コロコロおにぎり!
「真白大好き!」
「玄もすきー!」
「主ーお替わりあるー?」
ちみっこ達の大人気メニューのおにぎりが俺の前にも並べてあった。
「これ被害が少ないメニューな」
何がとは言わない。
食べているうちに転がっていくおにぎりだけど机は表面的にしか汚れず、そして一口大の小さなおにぎりはみんな抱えて食べるので悲惨な状況を生み出さない。
後はお茶とトウモロコシのつぶつぶを添えてあるのも食べきった所でおなかをひっくり返して満足げに寝転ぶちみっこがいた。
そんな様子を見ながら大家さんは冷める前に食べろと言ってくれたので頂く事にしたが
「なんか久しぶりのご飯かも……」
ほっとした溜息を落としたくなる優しい味のスープはしばらくの間無言で食べ続けてしまい、あっという間に空にしてしまった。
「お替わりあるぞ?」
そんな呼びかけにハッと意識を取り戻せば
「ありがとうございます。ですがちょっと仕事が立て込んでいて……」
「真白が言ってたけどパソコンの中身がなくなっちゃったってどういう状況だ」
思い出せば顔を青くしてしまうものの
「ブレーカーが飛んで、パソコンが出荷状態に戻ってしまいまして……」
「今どきのパソコンがそんなやわなもんじゃないだろう」
落としても早々壊れないのにと不審そうな視線に
「多分、緑青が感電してそのショックが影響したのかと……」
それを霊障と言っていいのかと思うも近しい言葉はそんなものだろう。
大家さんに理解しえ貰えるかは分からないが。
「あー、多分俺のスマホが何回か出荷状態になった奴と同じか」
半分死んだ目の顔にきっと一度や二度の経験じゃないのだろうと察した。
「で、仕事の方は大丈夫か?」
何度も仕事に戻ろうとする俺に大丈夫じゃないだろうと言う顔で言われたら自然と素直に頷いていた。
「来週の木曜日に納品なので……」
視線はお替わりを貰ったスープ皿のジャガイモに落としていた姿に大家さんはため息をこぼした。
「とりあえずどこまで仕事ができたか教えろ。そしてどういった仕上がりにしたいか言え」
なんて、どこか命令し慣れた口調が癇に障って
「言ってもわかるのですか?」
分かるわけがないだろう。そんな簡単な意趣返し。
だけど大家さんは何を言ってると言う顔で
「あの眼鏡を育てたのは俺だぞ?話してみるだけでも自分の中で整理ができるんじゃないのか?」
予想外のアドバイスだった。
「周囲が見えないくらい、自分の管理もすっ飛ばせるぐらいだから相当混乱していたんじゃないか?」
そんな気遣い。
決してやさしい言葉ではないけど、会社勤めだったころに気にかけてもらったさりげない気配りにやっと気が付くことが出来た。
情けない。
ここまでしてもらってやっとそのことに気が付くなんてと、突然気付いた優しさに涙がぽとり、ぽとりとスープ皿に落ちていけば頭の上に手のひらのぬくもりを感じた。
「判ったのなら話してみろ?」
そんな言葉にぐっと目元を手の甲で拭って仕事部屋へと案内する。
空っぽのコップがいくつも並べられたパソコンデスク周辺の惨状の酷さはちみっこ達の食事後の風景よりも更に酷いものの大家さんは何も言わずに俺がパソコンを立ち上げてファイルからプログラムを組んだものを見てもらいながら
「これが基本となるプログラムです。
そしてこちらが依頼書のファイルをプリントアウトした書類で、それに沿った内容に肉付けしていくのですが今はまだこの段階で……」
「やっと一割程度終わった所か?
これを木曜日までに仕上げて渡すって無理だろう?」
先輩が師匠と崇める方と言うべきか、見ただけでそこまでわかってしまうのかと驚きながらも
「とりあえず人材確保するか」
言ってスマホを取り出した。
「人材確保って、このプログラム理解できる人ってうちの会社の人間しか……」
と言った所で大家さんは悪魔的な笑みを浮かべた。
「知ってるか?使えるものは使えって言葉があるのを?」
言いながらスマホをブラインドタッチで誰かに連絡を取ったと思えば
『綾っちからの連絡だー!嬉しいけどなんで嫌な予感しかしないんだけどw』
「綾っち言うな。
って言うか相変わらず感だけはいいな植田よw」
思わず悪魔的に笑いながらの挨拶にスマホ越しの相手が先輩だと理解すれば驚きに目を見開いてしまう。
『ですよねー。綾っちが理由もなく連絡なんてくれるわけないから何かあった時だろうってわかってたけどwww』
「なかなか察しの良い後輩をもって俺は幸せだなあ」
俺は全く笑えなく焦ってしまえば
「お前の自慢の後輩、来週木曜日の納期なのにデータぶっ飛ばしてものすげーピンチ状態なんだけどw」
確かにピンチだけど笑いながら言うのは止めてくださいともっと近しい人ならスマホを取り上げたいところだけどなんとなく大家さんが俺を見る視線がそうはさせてくれない。
『ガチで?!あれ、ものすごく大きな仕事なのに?!』
そんな先輩の悲鳴の奥から聞こえるゲームミュージックの音楽が緊張感を限りなく殺してくれた。
「だもんでさー、植田よ今すぐちょっと来い」
『うわー!!!ついに俺まで召喚された!!!』
叫び声と共にスマホから何かにぶつかる音が聞こえた。
まさかスマホを投げつけたわけじゃ……
投げつけても仕方がない状況に申し訳なさにいっぱいになる真だった。




