大家のターン 1
さびの元気な姿を確認した大家はとりあえずと言うようにこの悲惨を極めた室内を見て
「とりあえず掃除をするか」
げっそりとした顔でご飯を炊く為にまずカピカピになったお米が張り付いたお釜を洗ってお米を研いだ。
給水時間から炊き上がりまでの時間を逆算して約90分。
その間に何ができると脳内でスケジュールを組みながら
「朱華、なんかお庭に黒い煙が漂ってて鬱陶しいから羽でパタパタして吹き飛ばして」
「主ー解った」
そう言って肩に停まってからずっと離れずにいた朱華はひょいと軽く跳んだとおもったらすいーっと換気の為に開け広げた窓から外に向かって羽ばたいていった。
「朱華すごい!大きくなったしお空も飛べるようになったんだね!
一緒にお空をお散歩できるのかな?」
ワクワクとした瞳の輝くさびに
「んー、お仕事終わったらまたひよさんになるから。
朱華のお仕事が終わったら少し一緒に遊んでもらうと良い」
「真白も朱華にお空飛ばしてもらうー!」
「それは朱華に聞こうな」
「えー!」
何とも言えないかわいらしい抗議だが
「さて次はお風呂でも洗おうか」
一瞬で俺と距離を取って
「真白は玄さんと岩さんを起こしに行ってきます!」
お風呂と聞いて慌てて逃げるような足取りで客間の香炉があった近い場所に丸まっているタオルを一生懸命引っぺがそうとして逆にタオルに丸め込まれている真白をさびが悲鳴を上げる。
「真白ー!緑青も一緒に遊ぶー!」
仲良しで何より。
すっかり元通りだなと呆れながらも何日も使われた様子のないどこかぬめりのあるお風呂を気合入れて洗った。
風呂の準備を完了して台所へと向かい、机の上はちょっとだけつついたような傷んだ場所から痛みが広がった食べ物を大家はもったいないとは思わず全部処分した。
それからどれだけ洗わずに置きっぱなしかと言う食器を洗い、冷蔵庫を確認すれば案の定ろくに食材もないので持ってきた食料で肉類は一切なしの塩で整えただけの野菜たっぷりのスープを作った。
さすがに肉なしは寂しいので別皿にチキンを塩コショウだけで焼いて余った時間は掃除の時間に充てる。
ろくに着替えてないのか洗濯物もない事にドン引きしながらもざらつく床にワイパーをかけて少しだけ居心地よくなれば
「主、黒いのいなくなったよ」
すいーと飛んできて差し出した腕に停まったのを確認したあと窓から外の景色を見れば眼下に麓の街を見下ろし、視線を上げれば満天の星空が広がっていた。
輝くお月様を満足げに眺めて
「ひよさん頑張ったな」
いい子いい子と頭をなでる頃には朱華はまた小さな手のひらサイズのひよこに戻っていた。
「朱華頑張ったよー」
どこか幼い口調にまでなってしまったもの体は大人、頭脳は子供な生まれたての付喪神の力を封じた未熟な姿はそのまま子供らしく、図体が大きくてもすべてにおいて子供っぽいギャップは微笑ましい。
とは言え緑青相手の時は命がけになるので必死だが、まだまだこうやって手乗りサイズのうちはかわいがってやろうと心に決めている。
「さて、玄さんと岩さんはそろそろ起きたかな?」
様子を見に行けばタオルに翻弄されているのは真白だけではなく緑青もタオルにのみ込まれて大変な様子になっていた。
やっぱりこうなったかとおもったけど、そろそろ次の予定に入らなくてはいけないのでタオルを取り上げればいい感じに爪をひっかけた真白を吊り上げることに成功した。
「玄さんと岩さんは起きたかな?」
聞けば足元を見て
「まだ寝てるねー」
すっかり頼んだお使いを忘れていたようだった。
よくある、よくある事だと自分でも反省しながら
「玄さーん、岩さーん。そろそろ起きてご飯にするよー」
言ってもピクリと動かないので仕方がないと言うように鍋にお茶っ葉がないのでティーバッグを入れてうすーく煮出す。そこにお水を合わせて人肌にした所に玄さんと岩さんを入れた。
朱華も真白もパーカーの帽子の中に隠れてしまったけど
「緑青も入るー!」
香り豊かなお茶風呂に緑青が飛び込めばもぞりと岩さんが動き出した。
「岩さんおはよー!」
体が温まったのか目を覚ました岩さんに緑青はそのしなやかな体で岩さんに絡みついて遊びだした。
まだ寝ぼけ眼だけど
「岩さんおはよう。目は覚めたかな?」
聞けば
「主ーおはよー。お茶美味しいね」
喉が渇いたと言うように今自分が浸かってるお茶をぺろぺろと舐める様子に緑青も
「お茶美味しいね!だけど主のお家のお茶よりおいしくない」
何気なくグルメに育っているちび達だがこれは気持ちの問題だと言うように
「そうか?家と同じお茶だぞ?」
さらりと嘘をつく。
「同じだってー」
「なら気のせいだねー」
言いながら狭い鍋の中を泳ぐ姿に主がドジョウ鍋が食べたいなと思っている事を知らないちび達は当然ながら
「玄さん!主がお茶のお風呂作ってくれたよ!緑青と一緒に遊ぼ!」
岩さんが玄さんをひっくり返さんとするぐらいの勢いで玄さんを起こせばさすがににょきっと手足、そして尻尾と頭が出て
「お茶のお風呂美味しーね」
しっかりあったまったと言う顔をしながらも岩さん同様玄さんもお茶を飲んで
「緑青もおはよー。痛いの治った?」
「緑青はもうどこも痛くないよー」
そう言って岩さんのごとく玄さんに絡まれば岩さんも負けじと玄さんに絡みつく。
仲がいいのは何よりだが、玄さんの忍耐力は主に岩さんと緑青のせいじゃないだろうかと思いながらも
「じゃあ、そろそろ九条を起こしに行くぞー」
「「「「「はーい!」」」」」
返事が良いだけのちび共を引き連れてこれだけ散々ごたごたしても一向に様子を見に来る気配のないパソコンのモニターの薄明かりを落とす部屋のドアを勢いよくあけた。
スパーン!
勢い付けすぎてドアが半分ほど戻ってきたが、それは想定済みの勢いなので手で押しとどめればさすがに驚いて委縮するかのように脅えて縮こまり、その姿勢のまま声もなく固まっていた九条が死にそうな顔で俺を見上げていた。
「いい顔に仕上がってるな。
とりあえずこっちにこい」
気持ちいいほどの意表を付けた事に満足げな大家は身動きできない真をむんずとつかんで椅子から落ちるのも気にせずに引っ張って
「てめー何日風呂に入ってないんだ?!
この蒸し暑い季節にくっせーんだよ!!!」
容赦なく服を着たまま新しいお湯の貼られたバスタブに蹴落とすのだった。




