一人で歯を食いしばっていたつもりでも気が付けばたくさんの人に支えられている事を気付くのはいつも事が終わってから 3
二話まとめています。よろしくお願いします。
おばあちゃんの猫さんはそれを嫌がらず、それどころか毛づくろいまでしてくれた。
「最近姿が見えなかったから心配してたんだよ?
それよりもお散歩に出かけるには遠くまできてるよ?迷子になる前にお家まで送って行こうかね」
そういって首の所をパクッと銜えて持ち上げてくれたけど
「今日はね!お出かけするの!
主の街のお家に行って宮ちゃんに主のお家まで連れて行ってもらうの!」
だからまだお家に帰ったらダメなのー!」
そういって暴れて離れようとするもおばあちゃんは不思議そうな顔をして
「もう少し詳しく話してごらん?」
草むらの陰の中で離してもらい、真がおかしくなっちゃった事や緑青や朱華が出てこなくなった事、玄さんと岩さんが眠りについて起きてこなくなっちゃった事を話した。
「だから道を挟んだお隣の主の街のお家まで独りで行くのかえ?」
「うん!」
「主のお家は坂を下りた所なんだね」
「主が真の家を坂を上った道を挟んだお隣さんって言ってたからね!」
「そうか、そうか。真白は主の言葉をちゃんと覚えていて賢いの」
褒めるようにぺろぺろと舐められて少しだけ誇らしく思うものの
「だけどこの黒いのが痛くて向こう側に行けないの」
道を挟んだ向こう側にある主の麓のお家。足が痛いのを思いだしてぺろぺろと舐めてしまう。
だけどあれだけ一生懸命走ってもどこにも見えなくて心細くて、お家に帰りたいと情けない事だけは口にしなかった真白に
「頑張ったからおばあちゃんが連れてってあげるよ」
そういってひょいとまた口で銜えて、あの熱くて痛い道をなんて事もないように渡り、反対側の道路に飛び出した草の陰の中まで連れてきてくれた。
「ありがと!後は真白が頑張るから……」
安心してねと言おうとした所で
「あと少しだからおばあちゃんが一緒についていてあげるね」
そういって銜えたままトトト…… と、自分では出せないスピードの流れる景色を眺め、頬をくすぐる風の心地よさに目を細めながら草のトンネルの中を駆け抜けていった。
「あ!あの車!宮ちゃんの車だ!主のお家に連れて行ってくれる車だよ!」
しばらくの間おとなしく銜えられていれば目的の家がそこにあった。
真のお家はどこにも見えないけど、確かに道を挟んだお隣さんだった。
「間違いないかい?」
「うん!車の横の模様見間違いないもん!」
自信をもって言えばおばあちゃん猫は水路に流れる水をぺろぺろと舐めるようにしてのどを潤すのを真似て真白も水を飲んだ。
「冷たくて美味しいね!」
「おばあちゃんも真白と一緒にお水を飲めて嬉しいよ」
そんなおばあちゃんにすり寄っていれば
「じゃあ、一度家に帰るから。もし先に帰るなら鍵はよろしくお願いします!」
「おうおう、たまにはゆっくりしてこい。あと親父さんにはお大事にと伝えてくれ」
「うーん、ぎっくり腰だしねえ。心配する事はないと思うけどね」
「癖になるからのぅ。気を使ってやれ」
「まあ、母さんも兄貴いるから心配ないしね」
なんて心配とはかけ離れた明るい笑い声の挨拶。
どこか駆け足で車に乗り込もうとする姿を真白は見て慌てて駆けだした。
「おばあちゃんありがとう!おばあちゃんも気を付けて帰ってね!」
通り過ぎる宮ちゃんと言う主の家によく遊びに来るから覚えた顔の服にしがみ付けばそのまま車に乗って滑るようにして必死になって駆け抜けた坂を上がっていくのだった。
車が動き出して数分もしないうちに真の家の前を通り過ぎた。
あまりのあっけなさに何度も休憩をはさんだ道のりやカラスに脅え、黒い道が渡れなくて泣きそうになり、さらには意地悪な猫に酷いことをされそうになった出来事があったと言うのにそんな事も知らないと言うように安全に通り過ぎた事に多少の理不尽を覚えるも、陽気な音楽が流れるリズムに少しずつ楽しくなってそんな事も些細な事だと忘れてるようにしっぽを揺らしていた。
何曲か音楽を聴けば見覚えのあるお店が見えてきた。
主に何度かついてきてお買い物に付き合った覚えのあるお店は相変わらずお客さんもいないどころかシャッターが閉まっていた。
いつの間にか山間のお店は夕日が差し込むようになって、そのお日様もお山に隠れようとしていた。
途端に暗くなって涼しくなったけど、このお店が見えたという事は主の家まであとちょっとだという事に真白の心は跳ねていた。
久しぶりに主に会える喜びと、主なら何とかしてくれる安心感。
もうすぐだからみんな待っててねと期待に胸を膨らましていれば宮ちゃんの車はなぜかお店の駐車場の中で止まってしまったのだった。
「え?主のお家はあっちだよ……」
なんて訴えても宮ちゃんは何も聞こえないと言うように車から降りて
「父さん!ぎっくり腰大丈夫?!」
なんて叫びながら家の中へと入ってしまった。
「……」
ぴしゃっと閉められたドアはまるで拒絶させられたと言うにふさわしい象徴だった。
「宮ちゃん!主のお家行かないの?!」
ほぼほぼ毎日のように鳥さんのお世話に来たり、畑のお世話に来たり、主のお世話に来てくれていたのに何で今日に限ってお山の主のお家に行かないの?!とドアをくぐって宮ちゃんを探せば
「ああ、また派手にやったね……」
「前回の時のシップが残っててよかったわ。翔太も気を付けなさいよ」
「まあ、ぎっくり腰にならないように荷物を持つことから教えてもらったけど、父さんも今さら体を鍛えろとは言わないけど少しは運動した方がいいよ?」
「運動は畑仕事で十分だろっつ、いてててて……」
「全機械化された畑仕事は運動とは言いません」
「母さん、翔太が厳しい事を言う……」
「そう?お母さんは反対じゃないわよ?
それよりも翔太、お風呂入っちゃいなさい。お母さんお蕎麦打ったから圭ちゃんにも持って行ってあげてね」
「ああ、うん。貰って帰るよ」
そんな会話に主の家には行く事がない事に絶望する。
家の中を駆け抜けてお店の前から主の家へとつながる真っ暗な道を眺める。
木々にさえぎられていつの間にか隠れたお日様の代わりに浮かぶお月様だけど主のお家に繋がる道はどこまでも暗く、この道を行くのかと思えば足がすくんでしまった間に
「母さん、お風呂は帰ってから入るからいいよ。お蕎麦だけもらってくね」
「あらもう帰るの?もうちょっとゆっくりしてきなさいよ」
「香奈ちゃんおなか大きくて大変なんだから。それにちょっと顔見に行ってくるって言っただけだから!」
そう言って
「待って!真白を置いて行かないで!」
主のお家にも行けないとなったら真のお家に一度帰らないとと考えた所で宮ちゃんは車に乗って去って行ってしまった。
「どうしよう……」
誰も真白がここに居る事を知らないし、だれも真白を知る人もいない。
真の家の前の心細さとは比べ物にならないくらいの寂しさが沸き上がり
「主ー!主―どこー!主ー!真白はここにいるよー!」
腹の底から叫んで主に助けを呼んでみても誰も何も返事をしてくれなく、ただどうしよもない心細さについにぼろぼろと涙を流して
「主ー!主ー!」
声がかれるまでただ一人の主を呼び続けていたら、夜の空よりも黒い影が真白の上に覆いかぶさっていた。
はっ、はっ、はっ……
生暖かい風が背中に当たった。
まだまだ柔らかな毛が生暖かい風にあたる度に小さく揺れる。
主を呼ぶことに一生懸命で背後の事なんてすっかり気にかけてなかった。
脅えながら振り向けば真っ赤な大きなお口に真っ白な牙が目の前いあった。
「ま、真白を食べても美味しくないんだからね!」
あまりにびっくりしえ腰を抜かすようにペタリとしゃがみこんでしまった。
だけど真っ赤な大きなお口は生暖かい息を吐きながら長い舌も伸びてきて……
ぎゅっと目をつむって次に来るだろう傷みに恐怖から体が動かなくなってしまったと思ったら
ぺろん……
涙をふき取ってくれた。
それと同時に真白は舐められた勢いで転がってしまった。
「え?」
とりあえず食べられたわけではない事は理解した。
すぐにもう一度やってきて、少し濡れた鼻先で匂いを嗅ぐように、そしてちょんちょんと挨拶をするように触れてくる。
その度に勢いに押されて転がってしまうものの、涙でぬれた顔をぬぐうようにぺろんぺろんと舐めてくれた。
「ええと、ありがとう」
ちょこんと頭を下げるもののまだまだぺろんぺろん攻撃は止まらないようだった。それどころかぺろんぺろん攻撃によって顔の回りがどこかべっとりとしてきて
「もう大丈夫だから!大丈夫だからやめてー!」
痛くもなんともないけどさすがに自分よりもはるかに大きい相手からのぺろんぺろん攻撃から逃げるように走り出せば真白が美味しい匂いをしているのかと言うように追いかけてきて……
がちゃん
小さな金属音が悲鳴を上げた。
はっ、はっと響く呼吸音とは別にその首から延びる紐がお家の横の小さなお家に繋がっていて、それはまっすぐ引っ張った状態でそれ以上前に進めないようになっていた。
そこで目の前のモノが犬だという事を全体の姿が見れてやっとわかり、主もここに来るたびに遊んでいた相手だと思いだした。
主のお洋服についている帽子の所から見ていたから気が付かなかったけど、下から見るとこんなに大きいんだとびっくりしながら
「こんばんは」
ご挨拶をした。
そうすればしっぽをはち切れんばかりに振ってくれて、怖さは少しなくなった。
ちょこちちょこと側によれば前足を出してぺたりと座って視線を合わせてくれた。
「こんばんはおちびさん」
声を掛けられてこの犬さんがお話ししてくれたのだと少しびっくりした。
「こんな暗い中何処に行くんだい?」
すんすんと気を遣うように鼻を鳴らして周囲を警戒してくれる犬さんに
「主のお家に御用があるの!あの坂を上った所にお家があってね、今真白達がお世話している真がピンチだから助けてもらうの!」
「それは大変ねぇ。
所で主は坂の上のお家に住んでいるのかい?」
「そう!真白と緑青と朱華と玄さんと岩さんの主なの!
今は修行中だから真のお家に居るけど、でも真白たちの大事な主なの!
だから真っ暗な道なんて怖くないもん!」
どれだけ大切な主か説明すれば犬さんはすくっと立ち上がってぶるりと体を震わせる、
紐と金具がチリチリと音を立てる中、犬さんは小屋の方に頭を向けて少しだけ犬さんのお家と引っ張りっこして……
またぶるりと体を震わせたときはもう紐と金具をつなぐ音はしなかった。
代わりにぽてっと地面に落ちた首輪のついた紐だけが残されて……
「ご主人様のおうちまでは遠いから連れてってあげるよ」
そういって真白を咥えたかと思えばぽいって放り投げた。
「え?うわっー!」
世界がくるくる回る中、柔らかな何かの上に落ちて、さらに落ちそうになったから必死でしがみ付いてよくよく周囲を見れば
「落ちないようにしがみ付いてるのよ」
「犬さんありがとう!」
そう言って犬さんは温かな背中に真白乗せてぽてっ、ぽてっ、と散歩をするようなゆっくりとした足並みで真っ暗な坂道を上がっていくのだった。
暖かくて、泣き疲れて緊張してきたからか気が付けば真白は眠りついていた。
ゆっくりと揺れる犬さんの足並みの心地よさとわずかに揺れる振動でゆっくりと目を覚ましていく。
ふと気づいて周囲の様子を見るように体を起こせば
「目が覚めたかい?」
良く寝てたねと言うような笑い声にいつもしていたお昼寝を全くしていなかったからだと言い分けをしようと思った所で
「ちょうどご主人様の家に着いたよ。ああ、台所が明るいからごはんの準備をされてるのかな?」
犬さんの言葉におなかがくーと小さく騒いだ。
犬さんはしょうがないねと言うように笑いながら、お店から歩き出した速度と同じスピードで主のお家の前の柵の横を通り抜けてお邪魔した。
まるで主がどこに居るのか知っていると言うように明かりがついていても暗いお庭を横切って
「わふっ!わふっ!」
少し間の抜けた鳴き声だけど前足を使ってドアをカリカリとひっかけば
「その鳴き声はあずきか?」
からりと心地よい木のドアが開く音がすれば明るい光の中から主が現れて
「主―!」
犬さんの背中からジャンプして主に抱き着くのだった。
「しろ?!なんでこんな所に居るんだよ!
それにあずき、首輪はどうした?!」
驚いた主の顔が面白かったけど、あずきってお名前の犬さんは少し離れた場所で流れる水路の水をぺろぺろと飲みだすのを見れば真白ものどが渇いていた事を思い出して隣で一緒にお水を飲む事にした。
「あー、とにかくあずきもしろも水を飲んだら家に入れ。虫が入る」
少しだけ何があったと言わんばかりの顔の主がこれ以上とないくらい頼もしくてお水を飲んだらあずきと一緒にお台所から主のお家にお招きしてもらい……
「あずき、なんかよくわからんけどありがとうな。しろもおなかがすいただろ」
そういって骨のついたお肉を幸せそうにしゃぶりつくそばで真白も主に食べるかと差し出されたトマトを勢いよくかじりついて、久しぶりの美味しいごはんにだんだん幸せを思い出せば涙があふれてきた。
「しろ、いったい何があったんだ?」
お口の中にトマトがいっぱい詰まっている幸せに真の家の事を思い出してしまえば真白は口の中のトマトを飲み込んで、今真のお家の出来事を主にお話をするのだった。




