一人で歯を食いしばっていたつもりでも気が付けばたくさんの人に支えられている事を気付くのはいつも事が終わってから 2
二話まとめています。よろしくお願いします。
初めてこのプログラムを見て二年。
何件もこなしてきたけどその度にアップデートしてずいぶん進化もした。
これ作った人天才だなんて感動もしたけど、その人は祐樹先輩と共同開発と言う形で一時期社員としてこの会社にも在籍していたらしい。それなのに謝礼金を受け取っただけで会社に特許を取らせた後は会社に任せたという変わった人だ。
だけどおかげで会社の業績もアップしたし、俺も何度もチームで触って来たので何度も雛型を目にする機会に恵まれてもこのプログラムを構築した技術には舌をまいた。
プログラムだから見れば納得できるのだけど、それを一から作るとなれば話は別だ。
今まで勝ち組の人生だったけど、これを見て以来全く相手にされないような凡人だと気付けば製作者に憧れてひたすら仕事に打ち込む理由にもなった。
手っ取り早く仕事を頑張っていつか結婚するためにとがむしゃらに働いてきた理由も一つけど、考えたら仕事にのめりこむきっかけはこのプログラムと出会った事も一因だと思う。
それぐらい完璧なのに自由度が大きくて、応用が利くなんてどうすればこんなすごいプログラムを作れるのだろうとたまたま選んだ仕事先でこんなにもワクワクする事があったなんて幸運以外何もない。
ただ、代償はひどいものだったが、それでもこのプログラムについては十分熟知して秘められた可能性についてもまだまだ模索できるだけにこの製作者は子供心も持ち合わせた人なんだろうなと勝手に俺の中で尊敬度を爆上げしていた。
だけどやっぱりそれだけに繊細なプログラムの為に取り扱いについても散々泣かされてきた。それなのにやればやるほど深みにはまるこのプログラムに俺はすっかりとりこになって、多分会社の中で一番の理解者だったと自負している。
そんなプログラムが牙をむいた。
とは言わない。
単に正直に言って間に合わない時間の中で焦る俺のミスタッチの多さが支離滅裂状態を生み出しているのだ。
雛型を落としてから肉付けしていく段階でも一割程度しか完了してないのだ。
風呂は入らなくても問題ないだろう。
食事はした方が頭が回る。
食事を作ってる時間なんてないから水分で補えばいい。
寝る時間は作業効率を考えれば三時間あれば十分だろう。
胃がキリキリして何も食べる気は起きないし、時間に追われるせいか眠気なんてやってこない。
イージーミスは多発するし、もう何時間過ぎたか知らないけど背中や腰、腕どころか眼精疲労から頭痛も酷い。
こういう時会社なら誰かの気配があったり気にかけてくれる言葉一つで心が軽くなる瞬間が生まれるものの、今は誰にも声を掛けられる事はなくただひたすらモニターに向かってキーボードを打ち続けていた。
ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
先輩や会社が調整して一人でも無理なく出来るように仕事のスケジュールを組んでくれていたから気が付かなかったけどこのタイミングで気づいてしまった。
どうしようもない孤独を。
もともと車通りも少なければ街の喧騒すら聞こえない。
風が木々を揺らす音やどこからか聞こえる鳥の声ぐらいしか物音がしない。
その静寂が俺をどんどん追い詰めていく。
間に合わない、どうしよう。
気が付けばごめんなさいと言う呪いの言葉を吐きながらただひたすら瞬きする暇もなく充血する目で終わらないプログラミングに絶望を抱きながらひたすら流れる文字を追っていた。
「真ー、ごはん……」
何度呼びかけただろうか。
声は届かず、一度も振り向くことのないその様子に真白達はすっかり脅えていた。
緑青の一件から真は何かにとりつかれたように机にかじりついて指先以外ほとんど動かすことなく石のようになってしまった。
今日も真に声が届かない事を寂しく思いながら台所へと向かう。
緑青は相変わらず香炉の中から出てこない。
玄さんは緑青が姿を現さなくなり、そして真まで振り向いてもらえない寂しさから主からもらったタオルにくるまり、甲羅の中に閉じこもってしまっていた。
岩さんはそんな玄さんを心配して玄さんの体をくるりと巻き付いて身動きしなくなってしまい、朱華は初日にいろいろな食べ物をつついたこともあり、ご飯を食べる机の上はひどい惨状のまま放置されていた。
食べかけのパンはカチカチになり、置いてあった野菜はつついた場所から腐り始めていた。
買ってあったバナナもだんだん黒くなってしまい、あれだけダメと言われたことを続けたらこうなる事を初めて理解した朱華もいつの間にか本体の中に姿を隠してしまった。
途端に静かになった家の中で空腹を覚えた真白は朱華が食べ残して少し痛みの目立ちだしたものでも口にした。みんなと食べるご飯はあんなにも美味しかったのに今は全く味気なくて一口齧って止めてしまった。喉が渇いたと流しにたまった洗い桶の水を見るも澱んでいて飲むのをためらった。
いつもは真が綺麗なお水やお茶を用意してくれていたのに今は長い事お水ももらえていなかった。
仕方がないので外に行ってお池に注ぐ水を飲んで喉を潤していたけど、やっぱり真白はペットボトルのお茶とは言え真が小さなコップに入れてくれてどうぞと差し出されたお茶を飲むのが大好きだった。
だんだんみんな自分の内側に閉じこもっていき、あの楽しかった毎日がなくなってしまう事に悲しくなってしまったけど真白はそれを払しょくするかのように大きく頭をふって
「こうなったら主に助けてもらうんだからね!」
元気いっぱい、負けん気上等が真白の取柄。
主も褒めてくれたそれが真白を奮い立たせる。
「みんな待っててね!すぐに主を呼んでくるから!」
大声で叫んでも誰の返事もない家の中に寂しくおもいながら外へと飛び出して、初めて自分から家の敷地の外へと足を踏みだした。
今、真白は決して普段足を踏み出さない世界に目を向けていた。
真っ黒な道。
この家の敷地内なら知らない所はないけど、一歩外には一人ではまだ出た事がない。
未知の世界に恐怖から足がすくむもみんなを助けるために主の所に行く!その決意が一歩を踏み出させた。
一人では到底主のお家まで行くことは出来ない。
途中カラスさんがやってきて……
カー、カー!
「いきなり来た!」
さっと上空を見ればまだ空高い場所を飛んでいるので慌ててまっ黒な道に飛び出した草の陰に逃げ込む。
カラスに見つからないようにしっぽを体に巻き付けて小さくなりながら見つかりませんようにと震えながらもじっとおとなしく気配が近づかないか耳を立てて様子をうかがい、しばらく草の隙間からを見ていればカラスはすぐに遠くの山へと消えていき、ほっとしながらも立ち止まって遅れた分を埋めるために懸命に草のトンネルの中を駆け抜けていく。
「主言ってたもんね。
主の街のお家に宮ちゃんがお仕事してるって!
宮ちゃんいつも遊びに来るから宮ちゃんに運んでもらえばいいんだもんね!」
小さな体の小さな足を必死に動かして駆けていく。
「主の街のお家は真のお家の道路を挟んだお隣さんだって言ってたの覚えてるもん!」
息が弾んで苦しくなったから少しだけ足を止めて休憩する事にした。
呼吸を整えながらどこまで進んだか確認をしようと草のトンネルから出れば真白の視界には真のお家どころかお隣さんのお家もなかった。
ただあるのは両側から押し寄せる草の間を通る真っ黒な道。
「主……」
途端に心細くなった。
だけどあふれそうになる涙をこらえて
「えい!」
道路を横切る為に飛び出した。
「あちっ!」
そしてまた草の陰に隠れる事になった。
黒い道がすごく熱かった。
思わず足の裏を見てしまえば怪我はしてなかった。
だけど主もメロメロにした自慢のピンク色の肉球がいつもより赤い気がした。
どうすればいいのかわからないけど、もう一度黒い道を渡ろうとして……
「痛いっ!」
思わずまた逃げるように草の陰の中に飛び込んでしまった。
カラスの災難を乗り越えてまた災難。
主がお家を出ちゃだめだよって言うのはこんな怖い事がたくさんあるからだという事を初めて知った。
主と真にたくさん守られてきて大切にしてもらってたんだと初めて身をもって理解したとたんお家が恋しくなった。
足を止めて後ろを見てしまえば気づかなかったけどそれなりに急な坂道が何も見えなくさせていた。
心細くて寂しくて。
だけど目的のお隣さんが見えるまで懸命に足を動かすのだった。
どれだけ進んだかわからないけど、不意に足が止まった。
疲れているけど疲れて足を止めたわけではない。
なんだか急に嫌な気配がして足が自然に止まってしまったのだ。
嫌な予感、と言うか勝手に体が震えてしまい、慌てて周囲を窺えば
「ふー……」
時々庭先に現れる意地悪の猫がすぐ後ろにいた。
何度も鋭い爪にひっかけられながらいじめられた記憶に足がすくんでしまう。
だけど、今日は何とかして主の所に行かなくちゃいけないと言う使命に小さな体の小さな足で踏ん張って
「邪魔しないで!
主のお家に行くんだから!!」
力いっぱい叫ぶ。
だけど意地悪な猫はふーっ!って毛を逆立てながらじりじりと真白に近づいてきた。
あの爪に引っかかった時の痛みを思い出して思わずしっぽがくるんとおなかの下へと隠れてしまう。
もちろん意地悪な猫だからにやりと笑ったかと言う顔をして飛び掛かって来た。
怖くて身がすくんで身動きできなくて。
思い出す痛みに目をつむってしまえば
「ふにゃー!!」
違う叫び声の猫と「ごっ!」なんて鈍い音がすぐ横を通り過ぎて行った。
やってくるあの爪の痛さが全くやってこないのでそっと目を開ければいつの間にかもう一匹の猫が意地悪な猫に向かって毛を逆立てて「ふーっ!!」なんて言って怒っていた。
その猫が意地悪な猫に向かって一歩足を踏み出せば、意地悪な猫は一歩足を引いて……
三歩も進まないうちに意地悪な猫は草むらの中に姿を隠してしまった。
意地悪な猫がいなくなってほっとしたけど、いつの間にか増えていた猫がくるりと振り向いて真白と目が合った。
「無事だったかい?」
「おばあちゃん……」
よく見れば天気がいい日に真のお家の縁側でお昼寝に来る猫さんだった。
「おばあちゃんなんで?」
心細かったところに隣でお昼寝させてくれたり、お話をしてくれる優しい猫さんの姿を見たら安心してその体を抱きしめるように飛びついてしまった。




