平和は訪れても大体何かの前触れでしかない 2
二話分をまとめてあります。よろしくお願いします。
「どうした?お昼寝の時間じゃないのに鍋の中に潜り込んで」
寝室の鍋のお日様の匂いのするタオルの下に隠れるちみっこ達は震える体を寄せ合って今にも泣き出しそうな目で俺を見上げ
「あの音嫌いー!」
「ぎゅいんぎゅいん怒ってるよ!」
「真ー怖いよー!」
「主ー怖いよー!」
「あの音怖いよー!」
真白や緑青なんかは飛びついてきて俺のシャツの中まで潜り込んできた。
きっと初めて聞く音に恐怖におびえる様をかわいいと思いつつも内側からシャツにしがみ付くのは服が伸びるので止めてくださいとはさすがに口にしなかった。
「そうか。あの音が大きいから怖いんだね。
だけど怒ってるわけじゃなくってお仕事してる音だから怖くはないんだよ」
怖いの正体を教える為にタオルにくるまっている朱華、玄さんと岩さんを抱えて縁側へと向かう。
そこでは腐りかけていた縁側を切り取っている浩太さんと呼ばれていた人がいた。
俺が近づく気配に電のこを止めてくれた。
「結構傷んでいましたね」
「この位置はどうしても吹き込むので仕方がないですね」
「仕方がないのですか?」
聞くも
「この街を眺める景色を見る為に造られたお宅だと聞いています。なのでどうしても雨風が当たってしまい、どうしてもこうなってしまいます」
「じゃあ、また傷んでしまうのでしょうか?」
なんてコスパの悪い、と言うかその度に直さないといけないのかと修繕費を計算してしまう。いくら大家さんが支払ってくれるとは言えどこまで甘えていいのかと思ってビビるのは仕方がないだろうか。
少しだけ顔色を悪くしていれば浩太さんは笑い
「その為のメンテナンスをするんだよ。
防腐剤の入ったこのキシラデコールを仕上げに塗るんだ」
用意されたペンキの缶みたいなものをひょい御持ち上げてみせてくれた。
「防水性のペンキとは違うのですか?」
全く知識がないのでどう違うのか聞けば
「防水性のペンキだと何度も雨が当たるうちにペンキにクラックが生じてその隙間から浸透すると今度は内側が乾かなくなって逆に腐らせてしまうんだ。だから腐らせないように防腐剤入りのものを塗る。
他の所も表面のカビを落としてこれを塗ったら当面は持つから、また腐りかけたら教えてくれればいいよ。塗ればいいだけだから」
なるほど。俺でも分るようにものすごい大雑把な説明で結局そのうち腐る事だけは分かった。
そこは自分でも理解しているのか苦笑しながら
「心配だったらブルーシートをかぶせておくといいよ。修繕する前まではそうしていたから」
「あ、それでいいのですか?」
「雨にあたらなければ大丈夫だ」
笑いながら電のこはバッテリーを外して片づけてしまい、鑿を手にしてこんこんと削り出しを始めた。
「今度は何を……」
断面を凹凸を作るように小さなのこぎりも駆使しての作業にちみっこ達も興味を持ってシャツの中から出てきたり、肩にしがみ付いてその様子を眺めていた。
「ああ、もともとある縁側の丈夫な部分と新しい木材を組み合わせてつなぎ合わせるんだ」
「新しいものに全部取り換えるのではないのですね」
ちょっと驚きと言うかなんと言うか。
そういうものかと思いながら聞けば
「新しいものと取り換える方法もあるけど、この家の縁側は扉の補強も兼ねているから抜くとなると大仕事になるからね。依頼主の大家さんからも最小限でと頼まれたので」
意外とケチだなと思うも
「大仕事ですか?」
「ウッドデッキみたいな造りじゃないからね。まあ、扉を全部取り外さないといけなくなるからこの家をリフォームした時にこちらの壁一面張替えとなる大仕事になりそうで、そこは大家さんの判断で止めたんだ」
「後々の事を考えると返って高くつくのでは?」
ささやかな疑問には
「この家が古いって言うのは知っていると思うけど、そんな面白い作りだから残したいって言う思いの方が勝ったみたいだから」
手直しする方は大変だけどこういった手間のかかる家はかわいいよなと笑う様子に鑿で新しい縁側の一本と組み合わせて木槌で重ね合わせていく。
「落ちないものなのでしょうか」
そんな不安にも浩太さんは笑い
「台形になっているからね。それに湿気を吸って膨張したりするからそんな心配はないよ」
釘も止め直すしと言ってくれたので大丈夫なのだろう。
台形とは言え微妙に複雑な形をしているが、それでも木槌を使ってこんこんと打って嵌めていく。
嵌るんだ。
嵌った時の心地よさに思わず拍手してしまえば照れたように浩太さんは笑ってくれた。
「じゃあ、邪魔になるので向こうに行ってるので何かあったら呼んでください」
「はい。ではまた後で」
良く陽に焼けた顔の笑顔はなんて人当たりがいいのだろうとまだこちらに移り住んでご近所さんとの交流がないので余裕のある人生の先輩の姿にほっとしてしまう。
とりあえず俺は俺の仕事をしようかと仕事部屋へと向かえばもう怖くないという事を理解したちみっこ達は俺の肩から降りてしばらくその作業を好奇心満々に眺めていたが、すぐに庭へと遊びに出かけるのだった。
だけどただ一体。
朱華はその作業をじっと見守るようにその場にうずくまり、結局浩太さんが今日の作業を終えて明日も今日と同じ時間にお邪魔しますと報告に来るまでずっとそばで見守っていたようだった。
次の日、なぜか朝からそわそわしている朱華を気にしつつも朝のご飯の時間は終わる。
今日も今日とて戦場の様な食卓はなかなかにして悲惨を極めた机になっていた。
そうだよな。
俺、何を思って納豆を食べたのか宅配を頼んだ俺を殴りつけたいと大反省をする。
無性に納豆が食べたくなって食卓に自分用に納豆を練って醤油を混ぜた所まではよかった。
その時に岩さんがお味噌汁をこぼして席を立った隙によりにもよって真白が好奇心から納豆を食べたのだ。
いや、体に悪いから問題とかではない。
納豆を入れていた鉢をひっくり返して前足で触ってみたら糸を引いて、それが心地悪くてそのあたりに擦り付けている間に興味を持ったほかのちみっこ達が納豆を触りだして…… 以下繰り返し。
キッチンの流しでボールにお湯を汲んで朝から洗わなくてはいけない状況になり、何より濡れるのが嫌な真白が大暴れをして俺まで納豆まみれになると言う大惨事。
いや、納豆を食べると言うリスクを考えればこうなる事は見えていたはずだ。
むしろ何故に納豆に手を出したのか反省文を書けと言う祐樹先輩の説教が頭の中に響いた。
でも食べたいものは食べたい。
一年に一度あるかないかの納豆食べたい症候群。
この機を逃せばまた来年まで納豆を口にする日はないだろう!
うん。
大した事じゃないな。
結果ちみっこ達が全身を使って食べただけで俺の口の中に一粒も入らなかったが、残りは別の機会に食べようと思う。
ちみっこの見ていない所で。
さて、朝から喜劇の様な悲劇が起きたわけだが真白は朝から洗われてロフトに逃げ込んでしまったけど他のメンツは通常通り田舎ならではのたくさんある部屋の一つをプレイルームにしておもちゃを一纏めにすれば食後のしばらくはそこでおとなしくはないけど遊ぶような習慣を身につけてくれた。真白もいつの間にか混ざっていたので良しとしよう。
その合間に後片付けや洗濯、掃除とこなせばピンポーンとチャイムが家の中に響く。
「おはようございます。本日もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
やって来たのは浩太さん。
律儀に朝の八時から仕事が始まりと言うようにやってくるのはこの狭い街の同じ住人だから。
車でも数分の距離。
俺のお買い物散歩コースに自宅がある。
きっちり仕事をする姿に頭が下がる思いだと言う俺をよそに今日も庭に回って昨日の作業の続きを始めるのだった。
「今日はですね、縁側の表面にやすりをかけてから防腐剤を塗り、スロープの設置になります」
軽トラからいろいろな資材を降ろし始めた。
「本当なら全部木材で完成させたい所なのですが、屋根のない所なので金属製になります。コンクリを流して基礎を作るので本日はそこまでになりますが床面は滑りにくいように浸透性のあるタイルを設置するの安心して通行ができますよ」
ちゃんと手すりもあって、これはまさか介護用のスロープではと考えれば緩やかな勾配にも納得できる。
まあ、あれば便利だしと将来的には狭い玄関からではなく縁側から出入りが出来るような造りになると言う至れり尽くせりだ。
まあ、ちみっこ達が出入りしやすいと言う理由なんて大家さん以外誰も理解できないだろうからなんて考えれば大家さんが最大限カモフラってくれたと思えば感謝しかない。
お庭にはちょっと遠回りになってしまうがそれでも安全安心な出入り口があれば問題ないだろう。
たとえ大きくなって必要がなくなってもだ。
手慣れた作業で一人黙々と仕事をする様子をいつの間にか朱華がやってきて眺めていた。
浩太さんとは少し離れていたので
「朱華、浩太さんが気になるの?」
主ラブな契約した使役が他の誰かを気になるなんてあるのだろうかとつたない知識と言うかつっきー頼みの懸案だなとスマホにメモをしておく。
朱華は一度ちらりと俺を見て
「あのね、今日は違うけど、昨日トントンしてた時すごくかっこよかった」
トントンとは何ぞ?と思うも小さな羽で鑿をトンカチでトントンするそのしぐさだろうか、そんなジェスチャーに何とか理解する。
「そうだね。今日はスロープの設置だからそのお仕事はないね」
かなりショックを受けたような変顔からの落ち込む姿。
何とも言えない表情だけど朱華はそこを離れる事もなく浩太さんの仕事を見守っていた。
何とも言えないいじらしさにさてどうして慰めようかと思う合間に
「九条さん、今日はあとサンダーをかけて防腐剤塗ったら上がりますね」
「もう基礎は出来たのですか?!」
早いでしょ!と朱華を肩に乗せて浩太さんの仕事ぶりを見に行くも半生のコンクリートに棒が刺さっている状態だった。
倒れたらどうしよう……なんて事は考えずにサンダーを取りしてバッテリーとつなげている様子を見て
「鉋とかではやらないのですか?」
図工は中学で終わっているので何となく知ってる知識で聞けば
「鉋でやると削り過ぎちゃうからね」
「なるほど」
言いながら違いが分からない俺はそう言うものなのかと納得してしまえば浩太さんはくすりと笑い、道具箱から鉋を取り出してきた。
トンカチを使って歯を調整したと思ったら
しゅ……
鉋で薄皮一枚と言うように綺麗に薄削りを見せてくれた。
「すごっ!」
思わず俺と朱華で拍手をしていた。




