平和は訪れても大体何かの前触れでしかない 1
二話分をまとめてあります。よろしくお願いします。
最初はきょとんと俺の話を聞いていただけの遠藤さんだったけど安全な物を作るとなれば素人が作る物よりその道のプロにお任せする事の方が正解だし何より俺が作るとなれば本当に完成するか分からない。
むしろ完成なんてしない。
だったら最初からきっちりとお願いするのが正解だと言うようにスマホを取り出してあまり予算をかけないようにホームセンターであるようなもので代用しようというように遠藤さんと一緒に話を詰めていればいつの間にかあっという間に時間は過ぎていて……
「じゃあ、一度この話は社長と綾さんの所にもっていきます。予算とか決まって綾さんからゴーが出たらすぐに着工しますね」
「すみません。他のお仕事もあるのに」
「大丈夫っすよ。うち自慢じゃないけど職人が何人もいるし横の繋がりも強いからよほどのトラブルがない限りどうとでもできるんで。
むしろこっちの仕事が決まったら他の仕事ほっぽってでもみんな先にやれって言いだすから問題ないっす」
なんかものすごい問題しかない言葉を聞いた感じだけど?
疑問を持たないといけない所に遠藤さんが何も疑問を持ってないのが一番疑問なんだけど?
大家さんいったい何者だろうと俺改めてそんな人と交渉したまではいいけど何の罠が待ち構えているのかと顔が引きつってきた。
「じゃあ、時間が時間なのでそろそろ失礼します。何かあったらLIMEの方から連絡入れさせてもらいますっ!」
「よろしくおねがいします」
そう言ってクーラーボックスと草刈り機を軽トラの上に乗せてではまたと挨拶をしてお互い別方向に向かって別れた。
肩の上に乗った玄さんはよほどお友達が出来たのが嬉しかったのか金魚さんの事を俺に聞かせてくれた。
そして少し薄暗くなった世界で玄関を開ければとたたたたた…… と軽い足音は全速力。
しまった、一度帰るべきだったかと思うもあれだけ休んだ今もちょっとくらくらするのはやっぱり熱中症のせいだろう。いや、ずっと水を頭からかぶったせいか?
どのみち体調はよろしくないと判断しながらも肩から玄さんを降ろして
「ただいまー。
玄さんもご挨拶だよ」
「みんなー、ただいまー!」
玄さんの明るい声に真白、朱華、緑青も
「「「おかえりー!」」」
安心と喜びの声で玄さんをもみくちゃにする。
習性なのか真白がぺろぺろと舐める様子が微笑ましくてなんだか目から鼻水が……
「玄さーん!!!」
大声でまっすぐ玄さんに飛び込んできた岩さんはとりあえずと言うように真白に突進して弾き飛ばし、その小さな体でも玄さんには大きすぎるのにくるりと絡んで
「心配したよー!」
「岩さんにもただいまー!」
なんて岩さんが玄さんを確認するように、もしくは真白の匂いを消すように絡む様子をなんとなく複雑な気分になる物の吹き飛ばされて転がって何が起きたのかわからなくてきょとんとしている真白を含めて笑ってしまう。
「じゃあ、遅くなっちゃったけどご飯の準備をするから。
玄さんはお出かけしてきたからね。桶にお湯を汲むから綺麗に体を洗うんだよ」
「岩も一緒に入る!」
「緑青も!」
風呂好き三体に長湯はダメだよと言い聞かせ、お風呂の時間になるとロフトに逃げる真白と朱華に苦笑しながら今夜のご飯は簡単に済ませてみんなで早く寝よう、そう決めた。
早く寝れば早く起きる。
まだ慣れないけどお日様が顔を出す頃が我が家の起床時間。
「真ー朝だよー!」
「真ーおきてー!」
「真ーお散歩の時間だよー!」
「真ーごはんまだー?」
「真ートイレー!」
昨日のあの静かな朝を思えばこの寝起きからの大合唱。
うるさく思いつつも平和な証。
まだまだお布団と仲良くして居たいけど真白が何やら不穏な事を叫んでいるので慌ててベッドから飛び出して田舎ならではのやたら広いトイレの一角に猫用トイレに猫砂を入れたちみっこ達のトイレへと駆け込んだ。
「真白どうぞー」
トイレの扉を開ければまっすぐ猫用トイレへと駆け込むあたり不思議な気持ちで眺めている。
付喪神でもトイレに行くのかと思ってみたり、でも食べるから出すんだよなと考えてみたり、扉なんか通り抜けできるのに何でいちいち開けさせるのかと考えてみたり。
しばらくしてすっきりした顔の真白のトイレを片付けていればそのすきにちゃっかりとお外に出てみんなと一緒に庭を駆け回っていた。もちろんドアなんてどこも開いてない。
なんとなく理不尽さを覚えるけどこうやってまた一緒に遊んでいる姿を見ると玄さんがいなくなってみんなの元気のない様子を思えば全然健康的だとお外で遊んでいる合間に朝ごはんの準備をちゃっちゃと用意するのだった。
朝は基本ごはんとみそ汁、そして何か一品。
大体目玉焼きかスクランブルエッグかオムレツになる。
卵1パック10個入りは積極的に攻略しないと減らないからね。
そしてちみっこ達と暮らすようになってサラダも取り入れるようにした。
もちろんこれはちみっこ達も一緒に食べるし、あと果物も取り入れるようにした。
生臭なしの食事っていったいどうよとネットで調べたけど基本野菜の生食で十分だし、豆腐とかも喜んで食べてくれるので最近ではおみそ汁の具は豆腐がメインになっている。
いや、レパートリー少なく過ぎるのは判っているけど所詮これが男の残念な料理なので美味しいものを覚えないように全力で俺が出来る範囲の料理を楽しんでもらえればと思っている。
相変わらず食卓は戦場だけどすでに慣れた俺は汚したり零したりすれば掃除をすればいいと開き直る事に決めた。
そんな朝早い食事も終わればスマホがメッセージの着信を教えてくれた。
相手は大家さん。
内容はシンプルに
『庭に工事が入るからちび共が巻き込まれないように注意するように』
内容が完結過ぎて俺大家さんに嫌われているのかなと思うもそうではない事はその後来た遠藤さんによって納得した。
「おはよーございまーっす!綾さんからメッセージ見ました?
池を作るって言って計画書作ったらダメだしされまして、お金は出してくれるから俺が作った設計図通りに作れって、相変わらず俺様暴君な事言いだしてさあw」
そう言って笑いながら改良された池の図案に大家さん何を作ろうとしているのか途方に暮れる間に遠藤さんは庭にユンボで乗り込んできて、初めて見る重機にちみっこ達を大層喜ばせるのだった。
機械とはなんてすばらしいのだろう。
雑草を引き抜くのにあれだけ力が必要なのにユンボのシャベルで数回地面を掘り返しただけであっという間に池の底を作ってしまったのだ。
俺がこれだけ掘り返すとなればどれだけかかっただろう。
思わず拍手している間に池の周りを家の奥の方に山積みにされていた石でぐるりと囲んで固定し、池の底をコンクリートで塗りたくるまでが今日の仕事。
まさか一日でここまで仕事をしてくれるとは思わなかった。
「早いな」
「こんなもんだよ」
ユンボのシャベルと乾いたら大変なコンクリを混ぜたフネも綺麗に沢の水で洗い流してのドヤ顔。
「続きはコンクリがしっかり乾いてからだから明日一日放置してから続きを始めるから」
「むしろ一日放置で池が出来るんだ」
なんて驚きながらまだ乾いてないコンクリートを塗りたくった陥没場所をちみっこ達と眺めながら感心してしまう。
「多分明日には乾くだろうけど一応様子を見にね」
一日ユンボやコンクリを塗りたくる様子を興奮しながら見ていたちみっこは今も俺の肩で完成する日を期待するように見つめていた。
「池の水を抜く穴の具合もみたいし、あと池で育てる植物も見繕ってきます」
ん?
池で植物育てるのか?
なんて小首をかしげていれば
「ビオトープって言うんですね。一応。睡蓮とか育てるのも良いだろうって。虫対策に金魚でも放しておけばばっちりだって。水は沢の水を引き込む予定なのでコンクリが固まったら池作りを再開します。あとその時にスロープを作ってくれる人が来るのでよろしくお願いします」
なんてにこにこと笑いながらコンクリ踏まないでくださいねと注意を加えてお別れの挨拶を言って帰って行った。
「いいか?コンクリは踏むなよ?張り付いたら取れないからな」
「ゴキブリホイホイとどっちが強力?」
ゴキブリホイホイを知る付喪神にもびっくりだが多分それにつかまったちみっこ達の顔は思い出したのか青ざめているのが涙をそそる。
そうか、捕まったのか……
大家さんもびっくりだよなと目元にたまってもいない涙をなんとなくぬぐいながら
「コンクリに決まっている。助けられないから注意しろよ」
いたずらされたら冗談じゃないときつめに注意をして
「それよりお池が出来たらお花育てたり金魚さん飼ったり楽しみだなー?」
「金魚さん!」
新しいお友達が出来たばかりの玄さんには魅惑的なお友達の予感はみんなを家に連れて戻れば泳ぎを教えてくれた金魚さんの話を一生懸命にするのだった。
そして一日置いて遠藤さんがみえて
「十分乾いてますね」
沢からの水を引き込むホースの片方を沢に入れてて待つことしばし。やがて池に流れてきた沢の水にみんな大喜びだ。
真白も朱華もおっかなびっくりだけどゆっくりとたまっていく様子は面白いらしく触れては逃げてと繰り返し遊んでいた。緩やかなスロープとなっているので池に落ちても這い上がれないという事にはなる事はない。
水栓が底にはあるものの一定の水位になったら排水されるような仕組みもあるし、そこにはちみっこ達が流されないように金網も張ってある。
これ大家さんの設計らしい。
ちみっこ達の事をよく考えてらっしゃると感心していれば
「浩太さん、そっちはどうっすか?」
「うーん、やっぱり雨ざらしになるからずいぶん傷んでいるね」
「となると結構時間かかりますね」
「まあ、遠藤は次の仕事があるからこっちは任されたよ」
「お願いしてもいいっすか?」
「任されたから行っておいで」
そんなやりとりに
「何かあったのですか?」
トラブルかと思って話を聞こうと思えば
「ああ、九条さん。
いえ、ご近所でお庭の木が倒れた家がありまして、そちらの方の処分に応援を任されてまして」
「ええ、危ないじゃないですか。すぐに行った方が……」
「申し訳ありません。じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて遠藤」
「っす。俺がスロープ造るって話だったのですがすみません。
お庭の木が屋根も一部潰してしまったのでそちらの方優先させていただきます」
「ますます大変な事になってる?!」
早く行って下さいと慌てれば大工さん達にはよくある事なのかそんな俺を見て笑いながらそれではまた様子を見にお邪魔させていただきますと去って行った。
池にはいくつかの水生植物の鉢を並べた景色がなんだかまだマッチしてないが、残された浩太さんと言う人は縁側の雨にあたって傷んだ個所を電のこで切り落としていたけど、その騒々しさに珍しい事にちみっこは家の中に逃げ出すのをなんだかかわいく思うのだった。




